異世界レンタル彼女

りこ

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メイベルちゃん

成金男爵の三男

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 どこかの世界の王都にある、レンタル彼女店《恋人提供所アマリエ》今日も理想の彼女に会いに異世界男子たちがやってくる。

 成金男爵の三男オットー。長男跡取り、次男騎士、三男は婿に…と思った両親の思惑とは裏腹に奥手でどうにも女性にモテない。
 社交に出て婿希望の淑女と交流してこいと叩き出されるも「そんなの無理だ…!」と逃げ出した。
 その後、本人なりに考えて練習の場に選んだのがレンタル彼女、という訳だ。

  《恋人提供所アマリエ》の個室ブース。金の縁取りのソファにちょこんと座るオットーは、見るからに挙動不審だった。

 落ち着かない様子で袖口をいじり、目が泳ぎ、汗をかいている。けれど貴族らしいきっちりとした身なり、手入れされた巻き毛、控えめな香水の香りが、育ちの良さを物語っていた。

 そんな彼の前に──ふわりと花が咲いたように現れる、一人の少女。

「お待たせしました。今日ご一緒する、メイベルです。よろしくお願いしますね」

 金糸のような髪が光を受けて揺れ、吸い込まれそうな翡翠の瞳が優しく笑う。その瞬間、オットーは思った。

(やばい、本物の女の子だ……!)

「えっ、あっ、こんにちは。あ、いえ、その……うわぁ……!」

 立ち上がろうとして、テーブルの脚に膝をぶつけた。ごつん。

「大丈夫ですか?」

 メイベルが心配そうに身を乗り出す。その距離、五十センチ。もう心臓が爆発しそう。

「え、ええと! だ、大丈夫です!! 貴女が、素敵すぎるだけで!!」

「ふふ、ありがとうございます。じゃあ、今日は路地裏のカフェに行きませんか? とても雰囲気のいいところなんです」

「か、カフェですね…?よろしくお願いいたします!!」

(……いや、なんで敬語?)

 メイベルが一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔を作ってくれた。
 

 石畳を抜けた先にある、蔦の絡まる小さなカフェ。木漏れ日が差すテラス席には、ガラス細工のティーセットが並ぶ。

「い、意外と洒落てますね。このお店、庶民の間で流行しているのですか?」

「ええ。いわゆる“隠れ家カフェ”ですね。私、お気に入りなんです」

 メイベルは慣れた様子で店主と挨拶を交わし、軽やかにテラス席へ向かった。オットーも慌てて追いかけ、メイベルの椅子を引く。

 座ってから出てきたのは、花の香りのする紅茶と、果実の砂糖漬けが添えられた小さなケーキ。

「…思っていた以上に美味しそうだ。」

 フォークとスプーンを手に持ったまま固まるオットーに、メイベルがふわりと微笑む。

「庶民も使う店ですが、悪くないでしょう?ふふっ、頂きましょうか。」

 優雅な所作に見とれながら、オットーは恐る恐る口にする。

「…………うまいな」

「ふふっ、よかった」

「まさか、庶民の菓子にこんな奥深い世界が……。しかも、貴女と一緒に食べると……なぜか、より美味しく……」

 恥ずかしそうに顔を赤らめるオットー。紅茶の湯気の向こうで、メイベルの頬もほんのり紅をさしたように見えた。
 

 カフェを出て、ベンチで一休み。メイベルが膝の上で手を組み、柔らかく言う。

「オットー様、今日のデート、楽しまれてますか?」

「た、楽しいなんてもんじゃありません! こんなに、自然に女性と会話ができたのは、人生で初めてで……!」

 はっとして黙り込むオットー。

 メイベルがゆっくりと笑って言った。

「……それは嬉しいです。だって、私たち“恋人”ですから」

「っ!!」

 爆発しそうな心臓を押さえながら、オットーは小さな声で言った。

「また、来ても……いいですか……?」

「もちろん。お待ちしてますね、オットー様」

 その日、屋敷に帰ったオットーは、ため息をひとつついた。

「……これは、練習のはずだったのに。心が、勝手に本番だと思っている……!」

 彼の不器用な“恋の練習”は、まだ始まったばかりである。
 
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