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メイベルちゃん
ツンデレ魔術師
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どこかの世界の王都にある、レンタル彼女店《恋人提供所アマリエ》今日も理想の彼女に会いに異世界男子たちがやってくる。
宮廷魔術師のシオン・マルグリフ25歳。彼女いない歴、年齢と同じ。つい見栄を張って、今まで散々遊んできたように同僚に話すも、挙動から経験のなさは丸わかりである。生暖かい視線をもらい、急遽経験を得るべくレンタル彼女店へ……。
──ここが《恋人提供所アマリエ》か。
夕暮れどきの王都。品のいいアイボリーの扉の前で、シオン・マルグリフは深呼吸した。黒のローブの裾を翻し、髪を整えるふりをして落ち着きなく辺りを見渡す。
「ふん、魔導師たる者、こんなところに出入りするなんて……くだらねぇな」
つぶやきつつも、しっかりと予約は済ませてある。初回限定の初心者コース、指名:メイベル。
──笑顔が素敵で、話をよく聞いてくれるタイプ。
そんな紹介文が気になったのだ。恋愛経験ゼロのシオンには、ちょっとした理想像でもあった。
ギィ、と扉を開ければ、すでに店のスタッフが待ち構えている。流れるように案内された個室は、まるで高級サロンのような内装で、ふかふかの椅子が二脚並んでいた。
「お待たせしました。指名のメイベルです」
そこに現れたのは、金糸の髪をふわりと揺らし、柔らかなドレスに身を包んだ少女だった。大きな瞳がシオンを見上げる。シオンは咄嗟に目を逸らす。
「へ、へぇ。……まあ、悪くねえな」
言いながらも、鼓動は早まっていた。これが“プロ”ってやつか……。思っていた以上に、目の前のメイベルは可愛かった。
「今日はよろしくお願いします♡シオンさま。どんなデートにされますか?」
にこっと笑って、自然に距離を詰めてくる。シオンは視線を泳がせた。
「べ、別に……なんでもいい。お前が勝手に決めれば? ……その、俺は女慣れしてるしな?」
メイベルは微笑を崩さない。きっと、そう言う客は何人も見てきたのだろう。だが、その笑みは皮肉でもあわれみでもなく、ただ、あたたかかった。
「では、カフェにでも行きましょうか。ちょっと静かで、お話ししやすいお店があるんです」
そうして連れて行かれたのは、王都の中でも選ばれた者しか入れない、静かな裏通りのカフェだった。緑に囲まれたテラス席に座ると、魔術の香草を使ったミルクティーが運ばれてきた。
「うわ、……な、なんだこれ。うまっ……」
ごく自然に口をついて出た本音に、シオンは慌てて咳払いする。
「いやまあ、普通……だな」
「ふふっ。よかったです、気に入ってもらえて」
笑うメイベル。肩の力を抜いたその笑みは、ほんの少しだけ、シオンの頬の強張りを緩めた。
──こんなふうに女と二人でカフェに来るなんて、人生で初めてだ。
心の中で呟きながら、そっと彼女の横顔を盗み見る。うなじにかかる髪の一房すら、やけに色っぽく見えるのはなぜだ。
「な、なあ」
「はい?」
「お前、こんな仕事してて……その、嫌にならねぇのか?」
唐突な問いかけだった。シオン自身も、言葉に出してみて自分の未熟さを悟る。だが、メイベルはわずかに目を伏せ、微笑んだ。
「私はこの仕事、好きですよ!お客様に喜んでもらえると、嬉しいですから」
「……ふぅん。なんか、プロだな」
そう言いながらも、内心では小さなモヤがあった。こんなふうに誰にでも笑って、優しくして、楽しませて──それでいいのか? それが、彼女の本当の気持ちなのか?
それでも、この数年、誰にも見せなかったような顔で笑っている自分がいることに、シオンは気づいていた。
「なあ」
「なんでしょう?」
「次も……お前を指名するかも。別に、気に入ったわけじゃねぇけどな。なんとなくだ」
「ありがとうございます。嬉しいです、シオンさま」
微笑む彼女の瞳には、どこまでも優しい光があった。
──このデートが“偽物”でもかまわない。今だけは、俺のものだ。
そう思った瞬間、自分の頬が赤らんでいることに気づき、シオンは思わず椅子を引いた。
「け、けっこうだ! 今日はもう終わり! つ、次回はもうちょいマシなデートしてやるからなっ!」
「ふふ、はい。楽しみにしてますね」
その日、宮廷魔術師シオン・マルグリフは、彼女いない歴に「はじめてのデート」という新たな一行を加えることとなった。
宮廷魔術師のシオン・マルグリフ25歳。彼女いない歴、年齢と同じ。つい見栄を張って、今まで散々遊んできたように同僚に話すも、挙動から経験のなさは丸わかりである。生暖かい視線をもらい、急遽経験を得るべくレンタル彼女店へ……。
──ここが《恋人提供所アマリエ》か。
夕暮れどきの王都。品のいいアイボリーの扉の前で、シオン・マルグリフは深呼吸した。黒のローブの裾を翻し、髪を整えるふりをして落ち着きなく辺りを見渡す。
「ふん、魔導師たる者、こんなところに出入りするなんて……くだらねぇな」
つぶやきつつも、しっかりと予約は済ませてある。初回限定の初心者コース、指名:メイベル。
──笑顔が素敵で、話をよく聞いてくれるタイプ。
そんな紹介文が気になったのだ。恋愛経験ゼロのシオンには、ちょっとした理想像でもあった。
ギィ、と扉を開ければ、すでに店のスタッフが待ち構えている。流れるように案内された個室は、まるで高級サロンのような内装で、ふかふかの椅子が二脚並んでいた。
「お待たせしました。指名のメイベルです」
そこに現れたのは、金糸の髪をふわりと揺らし、柔らかなドレスに身を包んだ少女だった。大きな瞳がシオンを見上げる。シオンは咄嗟に目を逸らす。
「へ、へぇ。……まあ、悪くねえな」
言いながらも、鼓動は早まっていた。これが“プロ”ってやつか……。思っていた以上に、目の前のメイベルは可愛かった。
「今日はよろしくお願いします♡シオンさま。どんなデートにされますか?」
にこっと笑って、自然に距離を詰めてくる。シオンは視線を泳がせた。
「べ、別に……なんでもいい。お前が勝手に決めれば? ……その、俺は女慣れしてるしな?」
メイベルは微笑を崩さない。きっと、そう言う客は何人も見てきたのだろう。だが、その笑みは皮肉でもあわれみでもなく、ただ、あたたかかった。
「では、カフェにでも行きましょうか。ちょっと静かで、お話ししやすいお店があるんです」
そうして連れて行かれたのは、王都の中でも選ばれた者しか入れない、静かな裏通りのカフェだった。緑に囲まれたテラス席に座ると、魔術の香草を使ったミルクティーが運ばれてきた。
「うわ、……な、なんだこれ。うまっ……」
ごく自然に口をついて出た本音に、シオンは慌てて咳払いする。
「いやまあ、普通……だな」
「ふふっ。よかったです、気に入ってもらえて」
笑うメイベル。肩の力を抜いたその笑みは、ほんの少しだけ、シオンの頬の強張りを緩めた。
──こんなふうに女と二人でカフェに来るなんて、人生で初めてだ。
心の中で呟きながら、そっと彼女の横顔を盗み見る。うなじにかかる髪の一房すら、やけに色っぽく見えるのはなぜだ。
「な、なあ」
「はい?」
「お前、こんな仕事してて……その、嫌にならねぇのか?」
唐突な問いかけだった。シオン自身も、言葉に出してみて自分の未熟さを悟る。だが、メイベルはわずかに目を伏せ、微笑んだ。
「私はこの仕事、好きですよ!お客様に喜んでもらえると、嬉しいですから」
「……ふぅん。なんか、プロだな」
そう言いながらも、内心では小さなモヤがあった。こんなふうに誰にでも笑って、優しくして、楽しませて──それでいいのか? それが、彼女の本当の気持ちなのか?
それでも、この数年、誰にも見せなかったような顔で笑っている自分がいることに、シオンは気づいていた。
「なあ」
「なんでしょう?」
「次も……お前を指名するかも。別に、気に入ったわけじゃねぇけどな。なんとなくだ」
「ありがとうございます。嬉しいです、シオンさま」
微笑む彼女の瞳には、どこまでも優しい光があった。
──このデートが“偽物”でもかまわない。今だけは、俺のものだ。
そう思った瞬間、自分の頬が赤らんでいることに気づき、シオンは思わず椅子を引いた。
「け、けっこうだ! 今日はもう終わり! つ、次回はもうちょいマシなデートしてやるからなっ!」
「ふふ、はい。楽しみにしてますね」
その日、宮廷魔術師シオン・マルグリフは、彼女いない歴に「はじめてのデート」という新たな一行を加えることとなった。
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