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悠太
しおりを挟むあれから僕は夜の窓を見つめては悠太のことを思い出してしまう。
悠太との出会いは僕達が5歳くらいの頃だった気がする。
僕は人見知りが酷くてずっと友達がいなかった。
そんな時にお父さんが死んで、お母さんと2人であの街に引っ越してきた。
家の中に閉じこもる僕を見兼ねてお母さんが僕を近所の公園へ連れていった。
僕に沢山の人が話しかけてきたけど、何となく僕は興味が湧かなかった。
悠太はそんな僕が公園に行くたびに毎回、何度も声を掛けてきてくれた。
「ねぇねぇ、今日こそ一緒に遊ぼうよ」
その時、お母さんは他の子のお母さんと話し込んでいた。
どうしていいのかもわからなくて、悠太の何度目かの誘いも聞かず、僕はずっと公園の端にしゃがみこんで俯いていた。
すると悠太も僕の隣に一緒に座って無言で過ごし、暫くすると話しかけてきた。
「俺の名前、悠太っていうんだ。」
「………僕…、は…、トマ…。」
「トウマ?」
「トウマじゃない。と、ま。トマ」
「ふぅん…。かっこいいじゃん。トマ。俺のことは悠太って呼んで。」
僕が顔を上げて悠太と目が合うと、悠太は爽やかな笑顔でニコッと笑った。
それから少しずつ話すようになり、何となくいつも遊ぶようになって…。
いつの間にか悠太と一緒にいるのが当たり前になったんだ。
悠太は僕に色々なことを教えてくれた。
ボール遊びもゲームもアニメも漫画も。
悠太はとても活発で人懐っこくて、器用で優しくて。でもいつもどこか冷静な所があった。
学校でも悠太は男にも女にも凄く人気があったけど、いつも僕の傍にいて僕を優先してくれていた。
皆から羨ましがられて少し嬉しかった。
小学生の後半になると悠太は女の子に告白されるようになったけど、全部断っていた。
「ねぇ、なんで断っちゃったの?」
「お前といる方が楽しいし。トマが可愛いくて心配だから女と付き合ってる暇ない。」
僕が聞くたび悠太はそうやって言って笑っていた。意地悪な笑顔で笑いながら言っていたからふざけていると思って僕はムッとした記憶がある。
悠太はよくそうやってふざけて答えをはぐらかすことがあったから…。
今思えばフラグだったのかも…?
………なんてね…。
最後に教えてもらったのは「恋」。
「好きだ、トマ……。」
悠太にもらった言葉。
あの時の僕はふわふわした気持ちで、何だかとっても嬉しくて、心がじんと熱くなって切なくて苦しくて。
よくわからなかったけど、今はそれが何だったのかはっきりわかる。
悠太の言った『好き』の意味。
家族でも友達でもない。
特別な『好き』
また胸がぎゅっと切なくなる。
思い出さなければいいだけなのに。
思い出さないようにすればするほど思い出してしまう。
ふと窓の奥に広がる夜空に美しい光の弧を描いて流れ星がスッと流れた。
「あっ」と気付いた瞬間、儚く消えていってしまった。
一瞬の出来事だったけど流れ星は凄く綺麗で、その儚くも力強い美しさにとても感動した。
「ルーシェ…?」
ご主人様の声でハッと振り向いた。
「あっ、邪魔をしてしまったかな…?」
申し訳なさそうに言っているご主人様の顔が何だか可愛いくて、僕は自然と笑みが溢れてご主人様の元に駆け寄った。
「ううん!おかえりなさい!お仕事お疲れ様!ご飯にする?お風呂にする?」
「エッチな奥様にしようかな。」
ご主人様がふふっと笑って僕を軽々と抱き上げる。
「………いいよ?」
僕は思い切ってご主人様の首に手を回し、ぎゅっと抱きついて囁いたけど、ご主人様が僕を連れて行ったのはベッドじゃなくて食事が並んだ2人だけのダイニングテーブルの椅子の上だった。
「さぁ、お腹空いたな。食べようか。」
「……うん。」
ちょっとだけ寂しかったけど、すぐに気を取り直した。
ご主人様はとっても美味しそうにご飯を食べる。
その顔を見てると、味が全くしない食事でも何だか不思議と満たされる。
ご主人様への思いは恋人というより、家族の愛に変わってきた気がする。
悠太への『好き』も、ご主人様への『好き』も僕にはどちらも特別な『好き』だ。
それぞれに違う、特別な『好き』
そういう想いがあっても、いいよね。
………そっか。
無理に忘れようとしなくてもいいよね。
ふと思っていると、ご主人様と目が合って幸せな気持ちになって何となくお互いに笑みが溢れた。
応援ありがとうございます!
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