戦国食堂はじめます〜玄米にお湯をかけるだけの戦国料理…私がもっと美味しいもの作ります〜

好葉

文字の大きさ
20 / 30

日替わりおにぎり(持ち帰りOK)

しおりを挟む
翌朝、顔を洗おうと井戸に向かうといつも時次さんから貰う量の倍の米麹と3本の鰹節が置いてあった。
きっとあの人だろうと頭の中に一人の男性を思い浮かべた。

鰹節を一本持ち匂いを嗅ぐ。
そう、この匂い…鰹節だ~。
顔がにやけてしまう。

鰹節が欲しいと思っていたので凄く嬉しい。
この鰹節でまた料理をしろという事だろうか?後で時次さんに聞かなくては。

今日はいつもより少し忙しい。
お昼前におにぎりを三つ作らなくてはならないのと今日からおにぎりをメニューにくわえる。
ご飯をいつもより多めに炊いておいて準備万端ばんたん。

やはり初日だからかおにぎりの売れ行きはあんまりかんばしくない。
常連さんや旅のお客さんにも声を掛けてみるがあまり売れずにいた。

この時代メニューというものがない、そもそも文字を読める人が少ないのでメニューがあっても意味がないのだ。
なのでこうして声を掛けながらおにぎりをすすめてみる。

昼前の今の段階でおにぎりが売れたのは二つだけ。
少し減ったご飯を見てため息をつく。

顔を二回叩き、自分に気合を入れてやすさんから注文を貰ったおにぎりを作った。
私の話を聞いてすぐに注文してくれたやすさんたちに感謝をしながらおにぎりを握った。

売り出すおにぎりは日替わりにすることに決めた。
いつも同じ材料があるわけではないのでそうすることにしたのだ。
その方が毎日食べても飽きないからいいかな。
毎日買ってくれる人ができるか不安だと一瞬思ったが、一人いたのを思い出した。

今日、井戸に米麹と鰹節を置いていった人の事だ。
飽きることなくあれからずっとおにぎりを注文してくれている。

おにぎりを売り出してみようと思ったのってあの人におにぎりを作りはじめてからだっけ。
一度でいいから食べてる顔少し見てみたいな。


やすさんの注文のおにぎりが出来たのだが、昼をすぎてもまだ持って行く人が来ない。
もしかしたら忙しくて抜け出せないのだろうか。
店がもう少し落ち着いたら届けに行こうと決め、ひとまず自分の仕事に専念した。

店が落ち着いてもまだ来ないので、よしさんに場所を聞き歩いて向かう事にした。
真直ぐ行って右の橋を渡ってそこをまた真直ぐ…大きなお寺の右に曲がった所らしい。

よしさんに心配されつつ出発したのだが案の定…迷子だ。
大きな寺とやらが歩いても歩いても全く出てこない。

困り果て誰かに聞こうと周りを見るとやすさんと同じ羽織をしている人が走って通り過ぎて行く。
慌てて後を追うが一向に距離が縮まらない、ここは声を掛けるしかないと思い大きな声で呼びかけた。

「あのー羽織の方ー!止まってください!」

後ろから走りながら呼びかけるがこちらを見ようとしないので、もう一度大声で呼びかける。

「今走っている羽織の方ー!やすさんの注文を届けに来ました!」

やすさんの名前を聞くなりピタリと止まりこちらを振り向いた。
良かった止まってくれた、普段運動しないので走り出して直ぐに息を切らしてしまった。
二十代ぐらいの男性が駆け足でこちらに向かって来た。

「もしかして~、菜さんですか?」

息を整えて返事をした。

「はい、そうです。時間になってもいらっしゃらなかったので届けに来ました。」

その若者の名前は三郎と言うそうで三郎さんも店に向かう途中だったらしい。

前の現場で問題が起きたらしくそっちを片付けていて、三郎さんもそのバタバタで受け取りに行くのを忘れてしまったらしい。
一段落した後に昼ご飯を食べようとしたら、ご飯が無くやすさんに怒られ慌てて取りに向かっていた所だったらしい。

すれ違いにならなくて良かった。
次の現場はもうちょっと行った所らしいので三郎さんに連れて行って貰うことにした。
大きな寺を曲がって直ぐの所でやすさんと時次さんが話し込んでいるのが見えた。
どうやらここが次の現場らしい。

やすさんや時次さん以外にも多くの人が木材を運んだりしていた。
やすさんは三郎さんを見るや否や怒っていたが、私が後ろから顔を出すと怒るのを止めて驚いていた。

「菜ちゃんじゃないか…。どうしてここに…。」

先ほど三郎さんに説明した事をもう一度やすさんに伝えた。
お腹空いているだろうし早く届けたかった。
風呂敷から注文分のおにぎり三つを取り出しやすさんに渡した。

「こちらが注文したおにぎりですね。はい、三つ。」

やすさんから代金を貰い、店に戻ろうとするとやすさんに呼び止められた。

「菜ちゃん、待て待て。どうせなら一緒にどうだい?昼まだ食ってないだろう。」



「お昼ご飯は食べてないですが…。」

店に戻ってから食べようと思っていたためお昼ご飯は食べていない。
だから自分のご飯が今ないので一緒に食べることが出来ない。

断ろうとすると私のお腹が鳴ってしまった。
うわ~絶対聞こえた、恥ずかしい。
時次さんとやすさんがぷっと笑った。


「…っいいからここに座れ。ほれ、これでも食え。まっ俺が作った訳じゃないんだけどな。にしても助かった、朝飯食いそびれてたからな。」

やすさんの隣を叩かれ、そこに座ると先ほど私が握ったおにぎりを一個渡された。
代金を払ったものを頂くわけには…と言おう思ったのだが、隣に座った時次さんに言葉をさえぎられてしまった。

「届けてくださりありがとうございました。私のもお礼に。」

お礼に手渡されたのはこちらも私が握ったおにぎりだった。
両サイドにやすさんと時次さん、そして私の手には二つのおにぎり…何だろうこの状況。
サンドイッチ状態だ…。
何だか少し恥ずかしい。

私が一向に食べようとしないのを見て時次さんがおにぎりに包んでた笹の葉を渡してきた。
どうやら、両手におにぎりを持ったままだと食べれないと思ったらしい。

そういう事ではない、時次さんとやすさんもお腹が減ってたはずだ、私に一個渡してしまうとおにぎりが二個になってしまう。
絶対に足りないでしょ、この二人。
私が一人悶々と考えているとやすさんがおにぎりを頬張りながら言った。

「いいから食え。代金を払ったんだ、その後誰にあげようが俺の自由だぜ。」

時次さんもやすさんの言葉にこくりと頷いていたので、今回は頂く事にした。
私もおにぎりを一口食べた所で少し離れた所でうめーという声が青空に響いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。

具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。 ※表紙はAI画像です

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

処理中です...