戦国食堂はじめます〜玄米にお湯をかけるだけの戦国料理…私がもっと美味しいもの作ります〜

好葉

文字の大きさ
19 / 30

時次の主君(時次目線)

しおりを挟む
時次は足早に主君の元に急いだ。
ある寺まで行き、料理場にて坊主にさば味噌と梅煮を渡し温めるように指示した。

お盆を用意し、皿につまみを盛り付ける。
食事の準備が終わると、寺の一室に用意した料理を持って行く。
廊下で立ち止まり、部屋にいる主君に声を掛けた。

「景持、只今戻りました。料理の方お持ちしてよろしいでしょうか。」

「入れ。」

入室の許可を頂き、料理が乗ったお盆を持って部屋の中に入る。

「失礼します。」

部屋に入ると昨日と変わらない場所で月見酒をする主君の姿があった。
お盆を持ちゆっくり近き、一歩手前に座る。

「ご注文されていた品です。そしてこちらは菜さんから頂いたさば味噌煮とさばの梅味噌煮なるものでございます。」

お盆を主君の座っている横に料理を置いた。

「梅味噌?聞いたことないな…。最初は…おにぎりから食べようかな…。」

美しい所作でおにぎりを食べ始める。
それを見て少しほっとした。

この方は放っておくと酒ばかり飲んでしまう。
酒のつまみも食べてはいるが、梅干ししか口にしない。
よく城にいた頃は他の家臣にも心配され、命をかけてご飯を食べさせた方もいた。

そういう事もあり、最低でも一週間に一回程度は酒と梅干し以外のものを食べるようにはなったのだが…。
京に来てからは昔の食生活に戻り始めていた。

いよいよ私も命をかけなければならないのかと考えていた時、いきなりおにぎりを食べたいと言われ驚いた。
おにぎりを食べたいと言われたことにも驚いたが、今こうして美味しそうに食べている事の方が驚きを隠せなかった。

城にいた時は苦しそうにご飯を食べていたので今の謙信様を見たら家臣一同ひっくり返るだろう。
そうこう思っているうちにおにぎり三つを平らげてしまっていた。

次に食べようとしていたのは梅と肉、後時々山に生えている緑の細長いものの料理だ。
菜さんいわくきゅうりというものらしい。

山に生えているあれが食べれるとは思わなかった、というより今まで食べようと思わなかったという方が正しいか。
謙信様が何も言わずに一口食べる。

目を少し見開き一口、一口と箸を止めない。
菜さんが作った玄米甘酒を飲みながら食べ進めていき、あっという間に食べ終わった。
謙信様を見る限り美味しかったらしい。

次にさば味噌煮を食べた時、笑顔になったような…私の気のせいか…。
さば味噌を食べ終わった後に続いて梅味噌の方も一口食べた。

やはりさっき見た笑顔は気のせいだったらしい。
梅味噌を一口食べた今一番の微笑みを浮かべている。

この方の命を救ってくれたのは菜さんと言っても過言ではないと思っている。
謙信様よりは酷くはないが私にとってもご飯はただ命を繋ぐだけのものだった。

それを変えてくれたのは菜さんだった。
初めて美味しいと思い、もう少し食べたいと思う欲が出た。
菜さんには感謝しかない…。

「景持…、何欲しいか聞いて来た?」

謙信様は月から視線を外さず話した。
私は今日菜さんから受け取ったお釣りを畳に置いた。
謙信様は月から視線を外し、畳に置いたお釣りを見た。

「……これは…?」

今日、菜さんに言われたことを謙信様に伝える。

「こちらは代金のお釣りだそうです。お釣り分のは感謝の気持ちなのでそのまま受け取ってくださいと申した所、感謝の気持ちというならお金を多く貰うより、料理を一品でも多く頼んでくれた方が嬉しいと。ですから、このお釣りは頂けないそうです。」

謙信様の笑顔がより一層深まる。

「…へぇ~…。……変わってる…。」

そう言いながら畳に置いたお釣りを受け取る。
この言葉を聞いた時驚きもしたが、優しい菜さんらしいとも思った。
多分だが謙信様も私と同じ事を思っているであろう。

「欲しいであろう物はわかりました。しょうゆなるものと鰹節だそうです。」

朝手伝いをした時に醤油と鰹節はどこにあるか、知っているかと聞かれた。
鰹節は知っていたが、しょうゆなるものはわからなかった。

鰹節は戦の時に食べる保存食だ。
まさかそれも料理に使うのだろうか。

「鰹節は知ってるけどしょうゆ…。」

さすがの謙信様も聞いたことがないようだ。

「私も聞いた事が無かったので何か聞いたのですが、味噌から出る汁と聞きました。」

どういうものか聞いてみたが汁みたいなものという事しかわからなかった。
謙信様は少し考え呟く。

「…少し時間がかかるな…。」

真剣な顔でぼそりと呟く。
そしてふっと笑った。

きっと何か思いついたのだろう。
私も謙信様が思いついたであろう事がわかり、頭が痛くなる。

「……謙信様…。朝勝手にいなくならないでください。」

言っても無駄だろうが一応釘をさす。
返事は返ってこない。
彼女の元に行くのだろう…深いため息がでる。

「はぁ…。ではせめて、軒猿を連れて行ってください。」

近頃、軒猿(忍者)をまいて何処かに行かれる事が多くなって困っていた。
軍神と呼ばれる謙信様なので心配はないと思うが、仮にも一国の主だ。
何かあってからでは遅い。
謙信様はこちらを見てやっと頷いた。

「わかった…。下がっていいよ。」

私は謙信様の部屋から出て、屋根裏にいる軒猿に指示を出した。

「明日、謙信様がお出かけになる。目的地はあの料理屋だろう。」

軒猿の報告では謙信様は菜さんの料理屋に行く際に普通の道ではなく森を通って行くらしい。
そして軒猿がたどり着いた頃には、森は数十匹狼の血で木々や葉が真っ赤になっていたという。

たどり着いた軒猿に狼の後始末を頼み、自分は先に料理屋に行ってしまうらしく軒猿も困っているらしい。
それくらいしてもいいくらいにはあの料理屋を気に入っているみたいだ。
本当に困ったお人だ…。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。

具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。 ※表紙はAI画像です

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

処理中です...