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時次の主君(時次目線)
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時次は足早に主君の元に急いだ。
ある寺まで行き、料理場にて坊主にさば味噌と梅煮を渡し温めるように指示した。
お盆を用意し、皿につまみを盛り付ける。
食事の準備が終わると、寺の一室に用意した料理を持って行く。
廊下で立ち止まり、部屋にいる主君に声を掛けた。
「景持、只今戻りました。料理の方お持ちしてよろしいでしょうか。」
「入れ。」
入室の許可を頂き、料理が乗ったお盆を持って部屋の中に入る。
「失礼します。」
部屋に入ると昨日と変わらない場所で月見酒をする主君の姿があった。
お盆を持ちゆっくり近き、一歩手前に座る。
「ご注文されていた品です。そしてこちらは菜さんから頂いたさば味噌煮とさばの梅味噌煮なるものでございます。」
お盆を主君の座っている横に料理を置いた。
「梅味噌?聞いたことないな…。最初は…おにぎりから食べようかな…。」
美しい所作でおにぎりを食べ始める。
それを見て少しほっとした。
この方は放っておくと酒ばかり飲んでしまう。
酒のつまみも食べてはいるが、梅干ししか口にしない。
よく城にいた頃は他の家臣にも心配され、命をかけてご飯を食べさせた方もいた。
そういう事もあり、最低でも一週間に一回程度は酒と梅干し以外のものを食べるようにはなったのだが…。
京に来てからは昔の食生活に戻り始めていた。
いよいよ私も命をかけなければならないのかと考えていた時、いきなりおにぎりを食べたいと言われ驚いた。
おにぎりを食べたいと言われたことにも驚いたが、今こうして美味しそうに食べている事の方が驚きを隠せなかった。
城にいた時は苦しそうにご飯を食べていたので今の謙信様を見たら家臣一同ひっくり返るだろう。
そうこう思っているうちにおにぎり三つを平らげてしまっていた。
次に食べようとしていたのは梅と肉、後時々山に生えている緑の細長いものの料理だ。
菜さんいわくきゅうりというものらしい。
山に生えているあれが食べれるとは思わなかった、というより今まで食べようと思わなかったという方が正しいか。
謙信様が何も言わずに一口食べる。
目を少し見開き一口、一口と箸を止めない。
菜さんが作った玄米甘酒を飲みながら食べ進めていき、あっという間に食べ終わった。
謙信様を見る限り美味しかったらしい。
次にさば味噌煮を食べた時、笑顔になったような…私の気のせいか…。
さば味噌を食べ終わった後に続いて梅味噌の方も一口食べた。
やはりさっき見た笑顔は気のせいだったらしい。
梅味噌を一口食べた今一番の微笑みを浮かべている。
この方の命を救ってくれたのは菜さんと言っても過言ではないと思っている。
謙信様よりは酷くはないが私にとってもご飯はただ命を繋ぐだけのものだった。
それを変えてくれたのは菜さんだった。
初めて美味しいと思い、もう少し食べたいと思う欲が出た。
菜さんには感謝しかない…。
「景持…、何欲しいか聞いて来た?」
謙信様は月から視線を外さず話した。
私は今日菜さんから受け取ったお釣りを畳に置いた。
謙信様は月から視線を外し、畳に置いたお釣りを見た。
「……これは…?」
今日、菜さんに言われたことを謙信様に伝える。
「こちらは代金のお釣りだそうです。お釣り分のは感謝の気持ちなのでそのまま受け取ってくださいと申した所、感謝の気持ちというならお金を多く貰うより、料理を一品でも多く頼んでくれた方が嬉しいと。ですから、このお釣りは頂けないそうです。」
謙信様の笑顔がより一層深まる。
「…へぇ~…。……変わってる…。」
そう言いながら畳に置いたお釣りを受け取る。
この言葉を聞いた時驚きもしたが、優しい菜さんらしいとも思った。
多分だが謙信様も私と同じ事を思っているであろう。
「欲しいであろう物はわかりました。しょうゆなるものと鰹節だそうです。」
朝手伝いをした時に醤油と鰹節はどこにあるか、知っているかと聞かれた。
鰹節は知っていたが、しょうゆなるものはわからなかった。
鰹節は戦の時に食べる保存食だ。
まさかそれも料理に使うのだろうか。
「鰹節は知ってるけどしょうゆ…。」
さすがの謙信様も聞いたことがないようだ。
「私も聞いた事が無かったので何か聞いたのですが、味噌から出る汁と聞きました。」
どういうものか聞いてみたが汁みたいなものという事しかわからなかった。
謙信様は少し考え呟く。
「…少し時間がかかるな…。」
真剣な顔でぼそりと呟く。
そしてふっと笑った。
きっと何か思いついたのだろう。
私も謙信様が思いついたであろう事がわかり、頭が痛くなる。
「……謙信様…。朝勝手にいなくならないでください。」
言っても無駄だろうが一応釘をさす。
返事は返ってこない。
彼女の元に行くのだろう…深いため息がでる。
「はぁ…。ではせめて、軒猿を連れて行ってください。」
近頃、軒猿(忍者)をまいて何処かに行かれる事が多くなって困っていた。
軍神と呼ばれる謙信様なので心配はないと思うが、仮にも一国の主だ。
何かあってからでは遅い。
謙信様はこちらを見てやっと頷いた。
「わかった…。下がっていいよ。」
私は謙信様の部屋から出て、屋根裏にいる軒猿に指示を出した。
「明日、謙信様がお出かけになる。目的地はあの料理屋だろう。」
軒猿の報告では謙信様は菜さんの料理屋に行く際に普通の道ではなく森を通って行くらしい。
そして軒猿がたどり着いた頃には、森は数十匹狼の血で木々や葉が真っ赤になっていたという。
たどり着いた軒猿に狼の後始末を頼み、自分は先に料理屋に行ってしまうらしく軒猿も困っているらしい。
それくらいしてもいいくらいにはあの料理屋を気に入っているみたいだ。
本当に困ったお人だ…。
ある寺まで行き、料理場にて坊主にさば味噌と梅煮を渡し温めるように指示した。
お盆を用意し、皿につまみを盛り付ける。
食事の準備が終わると、寺の一室に用意した料理を持って行く。
廊下で立ち止まり、部屋にいる主君に声を掛けた。
「景持、只今戻りました。料理の方お持ちしてよろしいでしょうか。」
「入れ。」
入室の許可を頂き、料理が乗ったお盆を持って部屋の中に入る。
「失礼します。」
部屋に入ると昨日と変わらない場所で月見酒をする主君の姿があった。
お盆を持ちゆっくり近き、一歩手前に座る。
「ご注文されていた品です。そしてこちらは菜さんから頂いたさば味噌煮とさばの梅味噌煮なるものでございます。」
お盆を主君の座っている横に料理を置いた。
「梅味噌?聞いたことないな…。最初は…おにぎりから食べようかな…。」
美しい所作でおにぎりを食べ始める。
それを見て少しほっとした。
この方は放っておくと酒ばかり飲んでしまう。
酒のつまみも食べてはいるが、梅干ししか口にしない。
よく城にいた頃は他の家臣にも心配され、命をかけてご飯を食べさせた方もいた。
そういう事もあり、最低でも一週間に一回程度は酒と梅干し以外のものを食べるようにはなったのだが…。
京に来てからは昔の食生活に戻り始めていた。
いよいよ私も命をかけなければならないのかと考えていた時、いきなりおにぎりを食べたいと言われ驚いた。
おにぎりを食べたいと言われたことにも驚いたが、今こうして美味しそうに食べている事の方が驚きを隠せなかった。
城にいた時は苦しそうにご飯を食べていたので今の謙信様を見たら家臣一同ひっくり返るだろう。
そうこう思っているうちにおにぎり三つを平らげてしまっていた。
次に食べようとしていたのは梅と肉、後時々山に生えている緑の細長いものの料理だ。
菜さんいわくきゅうりというものらしい。
山に生えているあれが食べれるとは思わなかった、というより今まで食べようと思わなかったという方が正しいか。
謙信様が何も言わずに一口食べる。
目を少し見開き一口、一口と箸を止めない。
菜さんが作った玄米甘酒を飲みながら食べ進めていき、あっという間に食べ終わった。
謙信様を見る限り美味しかったらしい。
次にさば味噌煮を食べた時、笑顔になったような…私の気のせいか…。
さば味噌を食べ終わった後に続いて梅味噌の方も一口食べた。
やはりさっき見た笑顔は気のせいだったらしい。
梅味噌を一口食べた今一番の微笑みを浮かべている。
この方の命を救ってくれたのは菜さんと言っても過言ではないと思っている。
謙信様よりは酷くはないが私にとってもご飯はただ命を繋ぐだけのものだった。
それを変えてくれたのは菜さんだった。
初めて美味しいと思い、もう少し食べたいと思う欲が出た。
菜さんには感謝しかない…。
「景持…、何欲しいか聞いて来た?」
謙信様は月から視線を外さず話した。
私は今日菜さんから受け取ったお釣りを畳に置いた。
謙信様は月から視線を外し、畳に置いたお釣りを見た。
「……これは…?」
今日、菜さんに言われたことを謙信様に伝える。
「こちらは代金のお釣りだそうです。お釣り分のは感謝の気持ちなのでそのまま受け取ってくださいと申した所、感謝の気持ちというならお金を多く貰うより、料理を一品でも多く頼んでくれた方が嬉しいと。ですから、このお釣りは頂けないそうです。」
謙信様の笑顔がより一層深まる。
「…へぇ~…。……変わってる…。」
そう言いながら畳に置いたお釣りを受け取る。
この言葉を聞いた時驚きもしたが、優しい菜さんらしいとも思った。
多分だが謙信様も私と同じ事を思っているであろう。
「欲しいであろう物はわかりました。しょうゆなるものと鰹節だそうです。」
朝手伝いをした時に醤油と鰹節はどこにあるか、知っているかと聞かれた。
鰹節は知っていたが、しょうゆなるものはわからなかった。
鰹節は戦の時に食べる保存食だ。
まさかそれも料理に使うのだろうか。
「鰹節は知ってるけどしょうゆ…。」
さすがの謙信様も聞いたことがないようだ。
「私も聞いた事が無かったので何か聞いたのですが、味噌から出る汁と聞きました。」
どういうものか聞いてみたが汁みたいなものという事しかわからなかった。
謙信様は少し考え呟く。
「…少し時間がかかるな…。」
真剣な顔でぼそりと呟く。
そしてふっと笑った。
きっと何か思いついたのだろう。
私も謙信様が思いついたであろう事がわかり、頭が痛くなる。
「……謙信様…。朝勝手にいなくならないでください。」
言っても無駄だろうが一応釘をさす。
返事は返ってこない。
彼女の元に行くのだろう…深いため息がでる。
「はぁ…。ではせめて、軒猿を連れて行ってください。」
近頃、軒猿(忍者)をまいて何処かに行かれる事が多くなって困っていた。
軍神と呼ばれる謙信様なので心配はないと思うが、仮にも一国の主だ。
何かあってからでは遅い。
謙信様はこちらを見てやっと頷いた。
「わかった…。下がっていいよ。」
私は謙信様の部屋から出て、屋根裏にいる軒猿に指示を出した。
「明日、謙信様がお出かけになる。目的地はあの料理屋だろう。」
軒猿の報告では謙信様は菜さんの料理屋に行く際に普通の道ではなく森を通って行くらしい。
そして軒猿がたどり着いた頃には、森は数十匹狼の血で木々や葉が真っ赤になっていたという。
たどり着いた軒猿に狼の後始末を頼み、自分は先に料理屋に行ってしまうらしく軒猿も困っているらしい。
それくらいしてもいいくらいにはあの料理屋を気に入っているみたいだ。
本当に困ったお人だ…。
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