戦国食堂はじめます〜玄米にお湯をかけるだけの戦国料理…私がもっと美味しいもの作ります〜

好葉

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話題のおにぎり

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その声の正体は先ほど怒られていた三郎さんだった。
少し離れた所で仕事仲間とお昼を共に食べているようで、三郎さんの右手には私が作った味噌おにぎりが握られていた。

周りにいた仕事仲間達も三郎さんのおにぎりに興味深々。
皆、輪になって三郎さんのおにぎりを見ている。

喜んでくれるのは嬉しいけど少しオーバーリアクションではないだろうか。
三郎さんのおにぎり一口欲しいと言う人がいたが三郎さんは断固拒否。
おにぎりを取られそうになると慌てて口の中にほうり込んでいるのが見えた。
食べ終わると急いでこちらに駆け寄って来てキラキラした目でやすさんを見る。

「親方!次も俺に任せてくだせい!今度は必ず届けてみせます。」

三郎さんが土下座しながらやすさんに頼み込んだ。
おにぎり目当てか…。
やすさんは私の方をチラリと見て困った顔をしながら私に話しかける。

「だとよ。菜ちゃんさえよければだがこれから作っちゃくれないか?仕事場も少し遠くなって朝も店にいけねぇしなぁ。」

右隣に座っている時次さんと目が合う。

「私からもお願いします。菜さんの料理が食べれないのは少し寂しいですから。」

注文は受けるはいい。
だから土下座をしている三郎さんを何とかして欲しい…。

「作るので三郎さんの土下座を止めてください!」

そう言うと三郎さんは爽やかスマイルで顔を上げた。
土下座をやめたことにホッと胸をなでおろす。

「菜さんありがとうございます!もしかして…あのおにぎりは菜さんが作ったんですか…?」

三郎さんが戸惑いながら質問してきた。
私が答えようとするとやすさんに割り込まれた。

「おおよ!この美味いおにぎりはここにいる嬢ちゃんが作ったんだ。そして三郎…お前はまだお嬢ちゃんの名前で呼ぶのは早すぎる!」

やすさんが私の肩をバンッと大きく叩いた。
肩がジンジンしてとても痛い…やすさんもうちょっと加減して欲しい…。

私の名前を呼ぶにはやすさんの許可が必要らしく、時次さん以外全員禁止されてた。
横で時次さんがやすさんの言葉に強く頷いている。

他愛のない話をしているといつの間にか三郎さんの近くにいた仲間の人達も集まって来た。
一人の男性が声をあげる。

「俺もおにぎり運びたいです!」

「俺も!」

次々と声が上がり始めた。
そんなにおにぎりが食べたいのだろうか。
あまりの勢いに困っているとやすさんが止めにはいった。

「お前ら落ち着け!おにぎりだけが目当てじゃないだろう…。菜ちゃんがかわいいからってそんなに寄ってたかるんじゃねぇ。困っちまってるだろう!」

かわいいって歳でもそろそろないと思うんだけどなぁ。
お世辞には慣れてはいるが皆の前で言われるとさすがに恥ずかしいものがある。

横目でまたチラリと時次さんを見ると三郎さん達をとても冷ややかな目をして見ていた。
無言の圧力とはまさにこの事。

怖い…見なかった事にしよう…。

一人の人が時次さんの顔を見てサッと顔が青くなりこちらから目を逸らす。
そして次から次へとそれは伝染していった。
やすさんだけがそれに気づかず、静かになった三郎さん達を不思議そうな目で見ていた。

「あぁ?随分大人しくなったじゃねぇか。」

怖いよね…私も怖くて横向けずに苦笑いをしていた。
そんなこんなで私はやすさんの注文を受けることにした。

この現場にいる人達全員分のおにぎりを明日から作ることになったのだ。
店では中々売れなかったので嬉しいかぎりだ。

ルンルンで店に戻り仕事を開始したがやはり今日のおにぎりの売れ行きはいまひとつだった。
でも今日はやすさんに注文を貰えたのでよしとしよう。

夕方、時次さんが注文のものを受け取りに来た時にあるものを貰った。
お醤油もどきだ…私が想像していたお醤油より大豆の味がしっかりしている。

時次さんいわく友人の方が持って行くように言ったらしい。
この醤油もどきをどうやって用意したかを聞くと時次さんに聞かない方がいいと言われてしまった。

鰹節もだがこのお醤油も好きに使ってかまわないとのこと。
以前からずっと欲しかったのでありがたく頂戴する。

近頃やすさんも夕方に注文をするようになった。
さばの梅味噌を毎度注文して帰って行く。
やすさんはさばの味噌煮の方が好きだと言っていたのになぜだろうと考えた所で答えは出なかった。

このおにぎりを売って五日目あたりに買う人が一気に増えた。
旅人のお客さんもだが特に地元のお客さんが割合的には多いと思う。
不思議に思っていると一人のお客さんに話しかけられた。

「噂でここのおにぎりが一番美味いって聞いてよう。日によって味が変わるから毎日でも食べれるって聞いて来てみたって訳よ。そしたらこらー美味いのなんのって。作ってる人もとびきり美人だ!いや~来てよかった。」

おにぎりを褒められるのはとても嬉しいが、最後の美人は余計だ。
一体誰がこんなことを言ったのだろうか。

この話をする人が何人かいたので、誰に聞いたか聞いてみると犯人は三郎さんだった。
おにぎりが話題になるのは嬉しいがそれと同じくらい自分が話題になるのは嫌だ。

どうしても最後に私の話になるので満面の笑みから苦笑いに変わってしまう。
売れることはいいことなんだけどね。
その日の昼過ぎ辺りに久々にある人の顔を見た。
朝に梅干しを貰って以来だろうか…。

「久しぶりだね…。」

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