戦国食堂はじめます〜玄米にお湯をかけるだけの戦国料理…私がもっと美味しいもの作ります〜

好葉

文字の大きさ
28 / 30

ミニうどんと天丼セット

しおりを挟む
次郎さんととらさんが座っている長椅子にミニうどんと天丼セットを置いた。

「腹減った~。ってなんだこれ…。隣のはほうとう…か?」

次郎さんは目を丸くしていた。

「そちらはうどんです。よく混ぜて召し上がって下さい。」

今度はとらさんが質問してきた。

「じゃ、これは?玄米の上に山菜やらがのっているみたいだが…。」

やっぱり天ぷらも見たことないか。

「上にのっているのは天ぷらって言います。ご飯と一緒に食べると美味しいですよ。」

「ほぉう、黄色いのが周り付いてるんだな。」

衣の事を説明しようと思ったら、次郎さんがとらさんに声を上げる。

「そんなことより早く食べましょうよ。どこかの誰かのせいで食べ損ねているんですよ。」

「はて…、誰だったか…。」

とらさんは顎を触りながら店の天井を見上げた。
次郎さんはそんなとらさんを横目で睨んだ。

「あんただよ。」

「せっかくの料理が冷めてしまう。ほら、食べるぞ。」

とらさんは次郎さんを置いて天丼を食べ始め、次郎さんは食べる直前までぶつぶつ何かを呟いていた。

この人達を満足させられなかったら結婚…。

満足してもらえる自信があるから勝負に出たのだが、胸の鼓動が体中に鳴り響く。
サク、サク…と部屋中に天ぷらを食べる音だけが響き渡る。
次郎さんは天ぷらを一口かじりご飯を流し込んで食べていた。
食べ方からして気に入ってくれたのだろうか?
でももしかしたらお腹が減っているからかもしれない…と心の奥底で思い不安になる。
空腹は最高のスパイスとも言うので油断は出来ない。

肝心のとらさんはというとゆっくり天丼を食べていた。
味わって食べているのか、口に合わなかったのかよくわからない。
私がじーっととらさんを見ていたら、目が合ってしまった。
とらさんはふっと目を細め笑った。

「そんなに見つめられると照れるな。」

美味しいと思ってくれているか不安でつい見過ぎてしまった。

「…っすいません。」

「料理の感想だが後にしてくれ…。少し本気でいく。」

「わ、わかりました…。」

本気でいくってどうゆう事だろうと頭に疑問が浮かぶ。
隣で次郎さんが最後の一口をゴクリと飲み込みとらさんを飽きれた様子で見ている。

「何かっこつけてるんですか…。いらないなら俺が全部食べましょうか?」

「くっはははっ、可愛い女の子がいるからついな。だが、これは次郎とて譲れん。」

とらさんは次郎さんの問いかけに大笑いしている。
最初この店にいた頃の威圧感はいつの間にか消えていた。
そう感じたのは私だけだったのかな。

とらさんは箸を持ち直し、一気に天丼を食べはじめた。
次郎さんよりもすごくいい食べっぷりだ。
その勢いにびっくりして口がポカンと開く。
本気でいくの意味をこの時やっと理解したのだった。

「おい、おい、おいってば!!」

次郎さんが私を呼んでいる事に遅れて気づく。

「あっ、はい!」

「これ、おかわりできんの?」

いつの間にか次郎さんはうどんも食べて完食していた。

「天丼のおかわりなら作れますけど…。」

次郎さんはチラリと隣のとらさんを見てから私に注文した。

「じゃ、これ五つ。」

「わかりました。」

噓でしょ…五つってと内心思いながら調理場に向かった。
この時代これぐらい食べるのが普通なのかな、時次さんやりゅうさんもそれぐらい食べてるし…。
天丼五つ作り終わるころにはとらさんも食べ終わっていた。

「俺が二つで、この人に三つな。」

次郎さんは私から天丼を取ると一言そう言って食べ始めた。
とらさんにも天丼を渡すとありがとうと言って直ぐ豪快に食べ始める。
三つ目の途中でお腹が落ち着てきたのか少しずつ料理の感想を言ってくれるようになった。
最初に話題に上がったのはうどんだった。
天丼を口にかっ込みながら次郎さんが最初に話始めた。

「こんなくそ熱い日にほうとうかよとも思ったが、ほうとう自体が冷えてて驚いた。」

ほうとうじゃなくてうどんなんだけどな…。

「次郎、ほうとうじゃなくてうどんだ。味自体は似てるけどな。確かに冷たいのにも驚いたがこのつゆに俺は驚いたな。初めて食べる味なのに食べた事あるような気がする…。鰹節の味がするがこの料理に入っているようには見えなかった。」

とらさんは目を閉じて天丼を食べながらうどんの味を思い出しているみたい。

「そうでしたっけ…。モグモグ。美味しけりゃ何でも良くないですか。」

次郎さんは何が入っているかあんまり興味が無いらしく、とらさんの話を聞くだけ聞いていた。
とらさんは気になる様子だったので軽く材料と料理方法を説明した。

「えーっと、しょうゆ…味噌の汁を温めてそこに鰹節を入れ出汁を取ったものがこのうどんのたれになってます。ちなみに天丼にもこのたれを使っていて少し味を変えてます。」

「やはり鰹節が入っていたか…。だが、この天丼のたれも一緒のものだとは思わなかったなぁ。」

とらさんは食べている天丼を見て、天ぷらを一口かじった。
次郎さんはただただ黙々と天丼をむさぼっている。

「この天ぷらというものを初めて食べたが……美味いな。具材は肉、山菜っていうのはわかるが、この具の周りに付いているのが何なのか全くわからん。これは…一体…。」

「だから美味ければ何でもいいじゃないですか。何が入っていようが別によくないっすか。」

とらさんはやはり何が入っているか気になるらしく、今度は天ぷらの推理を始めたが天ぷらだけは何が入っているかわからないらしい。
初めて食べる人に天ぷらに入ってるものを当てるのは難しい無理もない…。
私がとらさんの立場だったら絶対わからない。

ちなみに天ぷらの料理法が広まったのは室町時代。
鉄砲と共に南蛮料理としてポルトガルから伝わったとか。
江戸時代ぐらいには現代と同じ感じの天ぷらが食べられていたらしい。

本当天ぷら作った人天才だ。

材料が気になるとらさんの為に天ぷらについても軽く説明したのだが次郎さんがなぜか一番驚いていた。
どうやら聞くだけきいてたみたい。

「えぇー!これ饂飩粉使ってんのかよ!!気づかねぇ…。」

次郎さん…さっきまでどうでもいいって言ってたのに…。

「確かに思いもよらなかったな…饂飩粉か。にしても…美味いなぁ。俺はちなみにこの山菜の天ぷらが一番好きだな。この山菜の独特の風味が何とも言えん。この衣とやらによく合っている。」

とらさんは饂飩粉が材料に入っている事に静かに驚いていたが、山菜の天ぷらをかじりコクリと頷いて山菜の美味さを次郎さんに話していた。

山菜の天ぷらは私も好きで、とらさんが言っている事に心から同意した。
山菜は大人の味って感じかな。
小さい頃はあんまり好きでは無かったが、大人になって食べてみたら味と風味に感動した。

「いやいや、やっぱり肉でしょ。食べごたえも天ぷらとの相性も一番いいと思います。」

次郎さんのお気に入りは鶏肉らしく、とらさんに鶏肉のどこがいいかを説明をしていた。
男の子にはボリューム感もあって誰でも食べやすい味だよね。
現代でもお年寄りから小さい子供まで幅広い人に人気の天ぷらだった。

とらさんは次郎さんの言葉にやれやれと首を振り私を見た。
目が合い一瞬ドキリとしてしまう。
うっ、一生の不覚…この人には絶対トキメキはしないと思っていたのだが…。
私の心はイケメンの笑顔には弱いらしい…。

「すまないが…もう一杯ずつ天丼とやらを頼めるか。どうやら次郎に山菜天ぷらの良さをを教えなければいけないらしい…。」

「望むところです!」

あれ…なんか雲行きが怪しくなってきた。
どうやら自分の好きなものを相手に理解してもらいたいみたいだけど…。
多分、無理なような気がする。
とにかく、天丼作ってこよう…。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。

具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。 ※表紙はAI画像です

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...