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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

113 忘れた仕事 と 窒息寸前

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 メイド達が慌ただしく働いている時に、カズはメイド達の手伝いをせずに、マーガレットの部屋に居た。

「カズさん、ごめんなさいね。起きた状態で、子供達に会えると思うと興奮しちゃって、何かしてないと落ち着かないのよ。だから午後も話し相手になってね」

「俺なんかで良ければ。それに受けた護衛の依頼も、ジルバさんが戻って来れば終わりですし」

「そう言えば、そうだったわね。モルトさんに頼んで、カズさんの承諾なく、勝手に依頼を受けてもらうことにして、ごめんなさいね」

「構いませんよ。事情も分かってましたから」

「あれから私も身体を動かして、なんとか立ち上がれるまでになったし、今では食事も美味しく感じられて、とても嬉しいわ。これもカズさんのおかげね」

「そんなことは……メイドの皆さんが、看病してくれたおかげですよ。お子さん達も、マーガレットさんを治す薬を、一生懸命探してましたから」

「そうよね。子供達だけじゃなく、ベロニカ、アキレア、ミカン、ビワ、キウイ。夫やジルバにモルトさんも、皆が居たから、今の私があるようなものね。本当に感謝してるわ……」

 マーガレットは、涙ぐんでいた。

「もうすぐ、お子さん達が乗った馬車も着きますから、泣かないでくださいよ」

「ふふっ。今までの事を考えたら、ついね。早く子供達に会いたいわ」

 マーガレットと話をして、二時間程経った頃、ベロニカが部屋にやって来た。

「奥様。そろそろ運動の時間です」

「ねぇベロニカ、今日もやるの? もうすぐ子供達が帰って来るのよ」

「毎日少しずつやるのが、以前の様な身体に戻る近道です。これも奥様の為です」

「やっぱりベロニカは厳しいわね。分かったわよ。カズさんありがとう。また後で」

「はい。くれぐれも無理しないように。ベロニカさんも、あんまりマーガレットさんに、無茶させないでくださいよ」

「分かりました。今日の運動は、少し控えめにしておきましょう。その代わり運動後プリンは、お預けですよ」

「そんなぁ。やっぱりいつもと同じで良いわ!」

「やれやれ。奥様ときたら……」

「ハハ……(もしかして運動する時に、毎回プリンで釣ってるのか?)」

 カズは客間にでも居ようかと思い、マーガレットの部屋を出て廊下を歩いていると、正面からミカンが早足に向かってきた。

「カズお兄ちゃん。時間空いた? 空いてるよね!」

「どうしたのミカン? (とうとう仕事中でも、常にお兄ちゃん呼びか)」

「ちょっと手伝ってほしいから来て!」

「どこ行くのミカン? (毎回マーガレットさんの部屋から出たら、誰かしらとすぐ会うけど、待ち伏せでもされてるのか?)」

 カズがミカンに連れられて行ったのは、屋敷のすぐ横にある馬車小屋だった。
 中に入ると、そこにはキウイが居た。

「キウイお姉ちゃん。カズお兄ちゃんを呼んできたよ」

「ありがとにゃ。ミカン」

「ミカンじゃなくて、キウイさんの手伝いですか」

「手の空いてたミカンに、呼んできてもらったにゃ」

「それで俺に、何をさせたいの?」

「実は先日ギルドに行った時にゃ。モルトさんづてで、ジルバさんから連絡があってにゃ。ここにある古い馬車を、隅に動かしておくようにと、頼まれていたにゃ。それをさっきまで、すっかり忘れていただにゃ」

「それで俺に、どうにかしてほしいと?」

「お願いだにゃ。カズにゃんしか頼める人がいないにゃ」

 キウイが詰め寄ってきた。

「ミカン以外には、知ってるの?」

「まだ言ってないから、知らないにゃ」

「一応アキレアさんだけにでも、言っておいた方が良くない?」

「うぅ……せっかくお嬢様達が帰ってくるのに、にゃちきは……こんな時も失敗ばかりだにゃ。今からギルドに、頼みに行ってる時間もにゃい…し……」

「ちょ、ちょっとキウイさん。別に俺は、責めた訳じゃ」

「……にゃちきは……にゃちきなんて……うぅにゃぁ~」

 いつも陽気なキウイが、大粒の涙を流して泣いている。
 それを見ていたミカンが、キウイに寄り添い、なだめようとしたミカンも、一緒に泣き出してしまった。

「ミカンまでもらい泣きして(あの陽気なキウイさんが泣くなんて)」

「カズお兄ちゃん。キウイお姉ちゃんを、手伝ってあげて。お願い」

「分かってるよミカン。キウイさんも、泣き止んでください。すぐにこれ(古い馬車)を、動かしますから」

「でもこれ重いし、古いから車輪も固くて、なかなか動かないしにゃ……うぅ……」

「だ、大丈夫だから、もう泣かないで」

 一度泣き止んだキウイがまた泣きそうになったので、カズは急いで古い馬車を馬車小屋の隅に移動させる事にした。

「〈アンチグラヴィティ〉……よし。軽くなったから、これで楽に動かせる」(ボソッ)

 カズは魔法で軽くした古い馬車を持ち上げ、馬車小屋の隅に運んだ。

「えっ! えぇー!!」

「にゃにゃぁー!!」

「カ、カズお兄ちゃん。何やったの!? スゴい力持ち」

「カ、カズにゃん……」

「驚いた? 魔法で馬車を軽くしたんだ。だから一人でも余裕で持ち上げて、動かすことが出来たんだ」

「良かったにゃー! これでお嬢様達が乗ってる馬車が戻ってきても、邪魔にならずに、馬車小屋にしまえるにゃ! ありがとうカズにゃん!」

「ふぉっくぉ、くふぃふぁん。ふぅねぐぁ、く、くるふぃい……『(訳)ちょっと、キウイさん。胸が、く、苦しい……』」)

 キウイが思いっきり抱き付いて、カズはキウイの胸で窒息しそうになった。

「ちょっとキウイお姉ちゃん。カズお兄ちゃんが、苦しそうだよ!」

「にゃ? にゃ! カズにゃん大丈夫かにゃ?」

「ハァ…ハァ。だ、大丈夫(こっちの世界に来て、初めて呼吸が出来なくなった)」

「ごめんなさいにゃ。つい嬉しくて、抱き付いちゃったにゃ」

「キウイお姉ちゃん。ここを早く掃除しないと、馬車が来ちゃうよ?」

「そうにゃ! 急いで掃除をするにゃ!」

「じゃあ俺も」

「あとはミカンと二人で、掃除をするから大丈夫にゃ。カズにゃんはお屋敷で、休んでくれていいにゃ。ありがとにゃ!」

「ミカンもがんばって掃除するから、カズお兄ちゃんは、休んでて良いよ!」

「そう。ありがとう(手伝っても、良かったんだけどな)」

 カズは馬車小屋を出てお屋敷へと向かいながら、これからの事を考えた。


 馬車が王都に入ったと聞いてから、二時間以上経ってるから、あと一時間もすれば到着するかな。
 それまでには馬車小屋の掃除も、終わるだろう。
 明日からは、貴族が住む区画から出て街で暮らすから、どこか住む場所を探さないと。
 王都に来て、すぐここに来たようなものだから、話に聞くだけで、街のこと全然知らないし。
 護衛の依頼だから、お屋敷から離れられなかったしな。
 まあ、街に戻ってもモルトさんとは会うわけだから、呪いをかけた犯人を探す手伝いを、するんだろうけど。

 そんなことを考えつつカズが屋敷に入ると、ビワが出て行こうとしていた。

「ビワさん。どこか行くんですか?」

「あの…キウイとミカンを……探してるん…です」

「そうですか。二人なら馬車小屋で掃除してますよ」

「馬車小屋……分かりました。ありが…とう」

「いえいえ」

 カズは寝泊まりしている部屋で休憩してると、今度はアキレアが他の三人を探しにやって来た。

「カズさん。キウイとミカン知りませんか? さっきビワに頼んで、探しに行ってもらったんですけど、そのビワも見当たらなくて」

「ビワさんなら、二人が掃除をしている、馬車小屋に行きましたよ」

「馬車小屋の掃除? そんなこと頼んだかしら?」

「まだ戻って来ないんですか? さっきビワさんと会ってから、三十分くらい経ちますけど」

「あの娘たちは、いったい何をやってるのかしら? そろそろお夕食の仕込みを、しなきゃいけないのに。せめてビワだけでも、戻ってきてくれないかしら」

「俺が呼んできましょうか?」

「お願いします」

 カズはアキレアに頼まれ、馬車小屋に三人を呼びに行く為に屋敷を出た。
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