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74話 Cecil
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僕は一刻の猶予も無い状況に焦っていた。
陽菜さんの言葉も耳には入っていたが、それに対して反応する心の余裕は無かった。
すると彼女は、ボードの前に立ち、その手で何か操作を始めた。
「お願い、止まって!」
"マスターを認証しました"
カウントダウンと警告音が鳴り止み、周囲には静けさが戻った。
危機を免れた事への安堵感で、陽菜さんはその場にへたり込んでいた。
桃恵先生は陽菜さんの傍へ駆け寄り優しく彼女を抱き寄せた。
だけど、僕達には一つの疑問が残されていた。
どうして陽菜さんの生体認証でセキュリティーを解除する事が出来たのだろうか?
桃恵先生も同じ事を思ったらしく、彼女に疑問をぶつけた。
「それにしても、どうして陽菜さんの生体認証が登録されてたの?それにマスターって、どう言う意味なの?」
陽菜さんは押し黙ってしまった。
この件は、陽菜さんにとって触れられたく無かった事だったのだろうか。
「言いたく無かったら無理に話さなくても良いのよ。」
桃恵先生も勿論彼女を問い詰める気は無いらしい。
陽菜さんの目が徐々に赤くなり、両手で顔お覆った。
その手の隙間からは涙が零れ落ちていた。
「私・・・、全然知らなかった。
入り口で出会った警備員さんや、その娘さんがこの施設で、こんな酷い目に遭わされてるなんて。
知らなかったの、私、本当に知らなかったの!」
「陽菜さん、あなたはこの施設の関係者でも無いんだから、何も知らなくて当然よ。
責められるべきは、この施設の研究者として働き、この現状にずっと目を瞑っていた私自身よ。」
「先生、私、この施設にずっと昔に来た事があったんです。あれは多分私がまだ10歳位の頃。
でも、ずっと忘れてたの。思い出したのは、この地下都市の公園にある噴水を見た時。」
ひんやりと冷たい風が、彼女の髪を靡かせた。
「陽菜さん何があったのかは分からないけど、あなたはまだ子供だったんだから、何も出来なくて当然よ。
大人でもこの状況を変える事は出来やしないんだから。」
桃恵先生は陽菜さんの乱れた髪を優しく撫でながら言った。
「先生・・・。
私、この施設を知ってるって、隠そうと思ってた訳じゃないの。でも、結果的に隠した事になっちゃってごめんなさい。
私はここへは、亡くなったおばあちゃんによく連れて来て貰ってたの。
先生はこの研究所は複数の個人の出資者によって成り立ってるって説明してくれたけど、その出資者の多くは、おばあちゃんが集めたの。
そして、そこでの一番の出資者はおばあちゃんだった。研究所の偉い人も全部おばあちゃんが決めてたから、みんな頭が上がらなかったみたい。
おばあちゃんは、いずれ自分の役目を私に引き継ぐんだって言って、色んな所に自由に出入り出来る様にしてくれたの。
だけど、私はおばあちゃんやお母さんみたいに頭が良く無いから、ここで何の研究をしてるのか、ちんぷんかんぷんだった。
大人達はみんな、私がおばあちゃんの孫だから、当然賢い子なんだって思ってたみたいで、いつも難しい話ばかりして来るの。
だから私、誰とも話したく無くて、噴水の前でずっと、ぼんやりとしながら、おばあちゃんが迎えに来るのを待ってたの。
全てを知ってた訳じゃ無いけど、その当時はこんな人体実験なんて絶対に無かった。
だって、おばあちゃんは人を傷付ける様な事を一番嫌ってたから。」
「そうね。私もこの施設に勤めてた頃に聞いた事があるわ。当時を知る所員からトップが変わって大分様変わりしたって。」
「トップが変わったって、きっと陽菜さんのおばあさんから、変わったって事ですよね?」
「おばあちゃんが亡くなってからは、誰がこの施設のトップになったのか私も知らないの。その頃には、この場所の存在もすっかり忘れてたし。」
ここまでしっかりとした記憶があるのに、陽菜さんは噴水を見るまで、この施設の存在を忘れてたと言った。
その言葉に嘘があるとは思えない。
「そもそも、陽菜さんのおばあさんは、どうしてこの施設に出資しようと思ったのでしょうか?」
「私も難しい話は分からないんだけど、この施設は、元々は時空に関しての研究を主にしてたそうなの。
過去に大学院に勤めてたおばあちゃんも、その分野の研究をしてたんだけど、資金不足で研究が打ち切られる事は日常茶飯事だった。
一研究員としての活動に限界を感じたおばあちゃんは、いつしか研究を支援する側に回りたいって考える様になったの。
そこで自ら会社を立ち上げて、その会社の価値が上がると売却して、また次の会社を作って、それを繰り返して資金を作ってたみたい。」
「そこまでして、時空に関して、どんな研究結果を得たかったんでしょうか?」
「うんうん。何かを得たかったとか、そういう事じゃ無かったの。
おばあちゃんが活動を続ける理由は、親友への罪滅ぼしって言ってた。」
「罪滅ぼし?」
「そう。傷付けてしまった親友への罪滅ぼし。彼女とは最初の出会いから、もう既に普通じゃなかったみたい。
それは高校生だったおばあちゃんが、いつも通り教室で授業を受けてる時だった。
不意に言葉では言い表せない違和感を感じたの。
"やっぱり思い違いじゃ無い。席がいつの間にか一つ多くなってる。"
そこで、周囲を見渡すと、他の生徒に交じって、知らない女子生徒の顔があったの。
授業を聞いている訳でも無く、心ここに有らずって言った感じで、何か考え事をしている様に見えたそうなの。
その佇まいは凛として、だけど、どこか儚げにも見えたんだって。
最初は他のクラスの生徒が悪戯で紛れ込んだんだって思ったみたいだけど、授業が終わっても彼女は誰かと話をする訳でも無く、席に座って外を眺めてたらしいの。
然も、このクラスの生徒であるかの様に堂々としてたんだって。
誰も何も彼女に対して触れない。
その光景に、おばあちゃんは、何だか急に恐くなって、知らない子が紛れ込んでるって隣の席の子に話したの。
すると、その子の反応で更に背筋が凍り付いたみたい。
"冗談でしょ?同じクラスの子の顔を忘れるなんて酷~い。"
可笑しくなったのは彼女じゃ無くて、私?
居ても立っても居られず、おばあちゃんは、その不思議な生徒を教室の外に連れ出して聞いたの。
"ねえ、あなたは一体誰なの?"
すると彼女は満面の笑みを見せながら、おばあちゃんに顔を近付けて、こう言ったの。
"さあ誰でしょう。この世界とは別の世界から来た人間って言ったら、それでも、あなたは信じてくれる?"
綺麗な顔から溢れていた笑顔が急に、人に恐怖を与える程の薄ら笑いへと変わり、おばあちゃんは、もう震えが止まらなかったみたい。
蛇に睨まれた蛙?そんな風に例えてたっけ。
"そ、そんな嘘、信じる方がどうかしてる!"
声が上擦るのを感じながらも、辛うじて言い返す事が出来たんだって。
これが、彼女との最初の出会い・・・。そう話してくれたんだ~。」
陽菜さんの言葉も耳には入っていたが、それに対して反応する心の余裕は無かった。
すると彼女は、ボードの前に立ち、その手で何か操作を始めた。
「お願い、止まって!」
"マスターを認証しました"
カウントダウンと警告音が鳴り止み、周囲には静けさが戻った。
危機を免れた事への安堵感で、陽菜さんはその場にへたり込んでいた。
桃恵先生は陽菜さんの傍へ駆け寄り優しく彼女を抱き寄せた。
だけど、僕達には一つの疑問が残されていた。
どうして陽菜さんの生体認証でセキュリティーを解除する事が出来たのだろうか?
桃恵先生も同じ事を思ったらしく、彼女に疑問をぶつけた。
「それにしても、どうして陽菜さんの生体認証が登録されてたの?それにマスターって、どう言う意味なの?」
陽菜さんは押し黙ってしまった。
この件は、陽菜さんにとって触れられたく無かった事だったのだろうか。
「言いたく無かったら無理に話さなくても良いのよ。」
桃恵先生も勿論彼女を問い詰める気は無いらしい。
陽菜さんの目が徐々に赤くなり、両手で顔お覆った。
その手の隙間からは涙が零れ落ちていた。
「私・・・、全然知らなかった。
入り口で出会った警備員さんや、その娘さんがこの施設で、こんな酷い目に遭わされてるなんて。
知らなかったの、私、本当に知らなかったの!」
「陽菜さん、あなたはこの施設の関係者でも無いんだから、何も知らなくて当然よ。
責められるべきは、この施設の研究者として働き、この現状にずっと目を瞑っていた私自身よ。」
「先生、私、この施設にずっと昔に来た事があったんです。あれは多分私がまだ10歳位の頃。
でも、ずっと忘れてたの。思い出したのは、この地下都市の公園にある噴水を見た時。」
ひんやりと冷たい風が、彼女の髪を靡かせた。
「陽菜さん何があったのかは分からないけど、あなたはまだ子供だったんだから、何も出来なくて当然よ。
大人でもこの状況を変える事は出来やしないんだから。」
桃恵先生は陽菜さんの乱れた髪を優しく撫でながら言った。
「先生・・・。
私、この施設を知ってるって、隠そうと思ってた訳じゃないの。でも、結果的に隠した事になっちゃってごめんなさい。
私はここへは、亡くなったおばあちゃんによく連れて来て貰ってたの。
先生はこの研究所は複数の個人の出資者によって成り立ってるって説明してくれたけど、その出資者の多くは、おばあちゃんが集めたの。
そして、そこでの一番の出資者はおばあちゃんだった。研究所の偉い人も全部おばあちゃんが決めてたから、みんな頭が上がらなかったみたい。
おばあちゃんは、いずれ自分の役目を私に引き継ぐんだって言って、色んな所に自由に出入り出来る様にしてくれたの。
だけど、私はおばあちゃんやお母さんみたいに頭が良く無いから、ここで何の研究をしてるのか、ちんぷんかんぷんだった。
大人達はみんな、私がおばあちゃんの孫だから、当然賢い子なんだって思ってたみたいで、いつも難しい話ばかりして来るの。
だから私、誰とも話したく無くて、噴水の前でずっと、ぼんやりとしながら、おばあちゃんが迎えに来るのを待ってたの。
全てを知ってた訳じゃ無いけど、その当時はこんな人体実験なんて絶対に無かった。
だって、おばあちゃんは人を傷付ける様な事を一番嫌ってたから。」
「そうね。私もこの施設に勤めてた頃に聞いた事があるわ。当時を知る所員からトップが変わって大分様変わりしたって。」
「トップが変わったって、きっと陽菜さんのおばあさんから、変わったって事ですよね?」
「おばあちゃんが亡くなってからは、誰がこの施設のトップになったのか私も知らないの。その頃には、この場所の存在もすっかり忘れてたし。」
ここまでしっかりとした記憶があるのに、陽菜さんは噴水を見るまで、この施設の存在を忘れてたと言った。
その言葉に嘘があるとは思えない。
「そもそも、陽菜さんのおばあさんは、どうしてこの施設に出資しようと思ったのでしょうか?」
「私も難しい話は分からないんだけど、この施設は、元々は時空に関しての研究を主にしてたそうなの。
過去に大学院に勤めてたおばあちゃんも、その分野の研究をしてたんだけど、資金不足で研究が打ち切られる事は日常茶飯事だった。
一研究員としての活動に限界を感じたおばあちゃんは、いつしか研究を支援する側に回りたいって考える様になったの。
そこで自ら会社を立ち上げて、その会社の価値が上がると売却して、また次の会社を作って、それを繰り返して資金を作ってたみたい。」
「そこまでして、時空に関して、どんな研究結果を得たかったんでしょうか?」
「うんうん。何かを得たかったとか、そういう事じゃ無かったの。
おばあちゃんが活動を続ける理由は、親友への罪滅ぼしって言ってた。」
「罪滅ぼし?」
「そう。傷付けてしまった親友への罪滅ぼし。彼女とは最初の出会いから、もう既に普通じゃなかったみたい。
それは高校生だったおばあちゃんが、いつも通り教室で授業を受けてる時だった。
不意に言葉では言い表せない違和感を感じたの。
"やっぱり思い違いじゃ無い。席がいつの間にか一つ多くなってる。"
そこで、周囲を見渡すと、他の生徒に交じって、知らない女子生徒の顔があったの。
授業を聞いている訳でも無く、心ここに有らずって言った感じで、何か考え事をしている様に見えたそうなの。
その佇まいは凛として、だけど、どこか儚げにも見えたんだって。
最初は他のクラスの生徒が悪戯で紛れ込んだんだって思ったみたいだけど、授業が終わっても彼女は誰かと話をする訳でも無く、席に座って外を眺めてたらしいの。
然も、このクラスの生徒であるかの様に堂々としてたんだって。
誰も何も彼女に対して触れない。
その光景に、おばあちゃんは、何だか急に恐くなって、知らない子が紛れ込んでるって隣の席の子に話したの。
すると、その子の反応で更に背筋が凍り付いたみたい。
"冗談でしょ?同じクラスの子の顔を忘れるなんて酷~い。"
可笑しくなったのは彼女じゃ無くて、私?
居ても立っても居られず、おばあちゃんは、その不思議な生徒を教室の外に連れ出して聞いたの。
"ねえ、あなたは一体誰なの?"
すると彼女は満面の笑みを見せながら、おばあちゃんに顔を近付けて、こう言ったの。
"さあ誰でしょう。この世界とは別の世界から来た人間って言ったら、それでも、あなたは信じてくれる?"
綺麗な顔から溢れていた笑顔が急に、人に恐怖を与える程の薄ら笑いへと変わり、おばあちゃんは、もう震えが止まらなかったみたい。
蛇に睨まれた蛙?そんな風に例えてたっけ。
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声が上擦るのを感じながらも、辛うじて言い返す事が出来たんだって。
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