ANOTHER WORLD STORIES

佳樹

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75話 Cecil

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別の世界から来たと話す不思議な女生徒。
彼女は恐らく、他の生徒や教師達に対して、初めからクラスの一員であるという記憶を捏造したのだろう。
ならば逆に、これまで存在していた人間の痕跡や記憶を消す事も可能なのだろうか。
そんな事が出来るのならば、人は自らの存在に疑問を抱く事になるだろう。

この世界に来て直ぐに、僕は同じ様な経験をした。
翔さんがこの世界に存在したと言う記憶が、他の人達からすっぽり消えていたのだ。
それに消えていたのは記憶だけでは無い。
彼がこれまで生きた足跡の一切が消えていたのだ。
記憶だけならまだしも、足跡を消すとなると、それこそ、神のみぞ成せる御業ではないのだろうか。
それにもう一つ気になるのは、どうして陽菜さんのおばあさんだけは、記憶を捏造されなかったのだろうか。

「それで、彼女から秘密を告げられて、脅かされたおばあさんは無事だったんですか?」
「ええ、それどころかその後、彼女がおばあちゃんにとっての一番の親友になったみたい。
彼女は他の子達を少し小馬鹿にした節もあって、常に話し掛けづらい雰囲気を出して距離を取ってたらしいの。
だけど何故かおばあちゃんに対してだけは、自ら歩み寄って、小馬鹿にする様な態度は微塵も見せなかったみたい。
周囲の子達はその姿を見て、おばあちゃんにいつも彼女と、どんな話をしてるのか、必要以上に聞いて来たらしいのよ。
才色兼備な彼女に相手にされなくて、みんな悔しかったみたいだったけど、それ以上に憧れの方が強かったみたい。
おばあちゃんは彼女とは物理の話だったり、他愛もない話でいつも盛り上がってたそうなの。
同じ時間を共有して、どんなに仲が深まっても、初めて出会った時に彼女が放った、この世界とは別の世界から来た人間って言葉の意味に関してだけは、恐くて触れられずに居たらしいの。
もし聞いて、二人の関係にほんの少しでもヒビが入る位なら、聞かない方が良いんだって思って、敢えてその話題を持ち出す様な真似はしなかった。

そして、時が流れて、このまま高校を卒業しても、この友情は変わらずに、ずっと続くんだってそう思ってた。

そんなある日、図書館で一日を過ごしてたおばあちゃんは、閉館時間も迫り、館内から外に出たの。
昼間は晴れていたのに、外は土砂降りに変わってた。
すると、降り頻る雨の中、傘もささず、ずぶ濡れになった彼女が、酷く暗い表情を浮かべて、おばあちゃんの元にやって来たの。
そこで初めて、今までお互いに触れずに避けて来た、別の世界から遣って来たって言う経緯を話してくれたの。
仮に他の人が彼女と同じ、別世界から来たって話をしたとしても、おばあちゃんは信じる事はなかった。
だけど、彼女の場合は違う。
彼女との、これまでの付き合いから、そんな子供じみた話をする子じゃない事を知ってたし、何より、彼女はおばあちゃんに対しては一度も嘘をついた事が無かったから。

そして彼女は、こう話を続けたらしいの。

"もっと早くここを去るべきだった。
そうしなきゃいけないって事は十分過ぎる程分かってた筈なのに、あなたと出会って毎日が楽しくなって、このままこの地で、あなたと一緒に歳を重ねたいって贅沢にも思ってしまった。
だけど、そんな私の我儘のせいで、あなたを危険に晒してしまった。
このまま私がここに居続けたら、私と深く関わったあなたの身は、常に危険に晒されてしまう。

ごめんなさい。千代子・・・。

本当はこの世界で、誰とも親しくするつもりは無かったの。
だって親しくなっちゃうと、その人に危険が及ぶ可能性が高まるって分かってたし、そして何よりも、別れが辛くなるって知ってたから。
ずっとそうして生きて来たのに、今まで出会った人達とあなたは大きく違った。
だからこそ、最初から凄く興味を惹かれたの。

初めて出会った日の事覚えてる?
別の世界から来たって言って、わざと不気味な表情を作ってあなたに凄んで見せたよね。
本当はね、初めて自らの意志を持って動いてるあなたと出会えて、飛び上がる程嬉しかったのよ。
だけど、昔からの私の悪い癖で、自分の心情とは全く裏腹の行動をしちゃった。
それでね、家に帰ってからもずっと後悔してたのよ。
ついつい、子供じみた悪戯心であなたを脅かしちゃったら、あなたってば、その時、真っ青な顔で震えてたわよね。
初めて友達になりたいって思った子に出会えたのに、次の日、どんな顔で話し掛けたら良いのか真剣に悩んだんだから。

だけど、こうして仲良くなれたのに、これから私はあなたに対して酷い事をしなくちゃいけない。
どんなに謝っても謝り切れない。

何も告げずに、このままお別れする方が、お互いにとって良かったのかもしれない。
だけど、このまま何も告げないのは、あなたを騙すみたいで嫌だった。
だから、これから私があなたに対してする事を包み隠さずに話すわ。

あなたには、記憶の操作は効かない。
だから、私と過ごした日々の記憶をこれから封印する事にするわ。

あなたは私の事を忘れて、これからも、今までと変わらない日常を送る事が出来る。だから何も心配しないで。"

"そんなの嫌!止めてよ洋子!私、洋子との思い出、何をされても絶対に忘れない!忘れたくない!
一緒に編み物した事だって、将来それぞれが結婚して、子供が産まれたら、お互いの子供を私達みたいな親友同士か恋人にさせたいねって話した事も、洋子だけ憶えてて、私だけ忘れさせるなんてズルいよ!
これから卒業してもずっとずっと友達だって約束したじゃない!
それでも、洋子。あなたが故郷の世界に戻りたくなったら、その時は私、あなたが無事に帰れる方法、何年掛かっても絶対に見つけるから!
だから、あなたの事忘れさせないで!
ねえ!洋子!ねえってば、ヨウ?・・・"

"素敵な思い出をありがとう。そしてさよなら。千代子・・・"

いつの間にか、見ず知らずの女の子が目の前に立ってて、その美しい瞳に涙を浮かべていた。
彼女はいつからそこに居たんだろう。
視界がやけにぼやけてるから、今の今まで気付かなかったのかな。
それにしても、どうしてこんなにも視界がぼやけて頬も冷たいんだろう。
何だか胸も苦しい。
泣いてるのは、その女の子だけじゃ無かった。

あれっ?どうしてだろう?涙が溢れて止まらない・・・。」



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みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

2021.09.23 佳樹

ありがとう御座います!
凄く励みになります!

解除

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