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11.裁判(1)
しおりを挟む裁判は、花季を過ぎ雨季も越えて暑季に入ろうかという頃になってようやく開かれた。
審理の開始がこれほど遅れたのは異例のことだ。何しろ事件から3ヶ月ほども経っているのだから。
開始が遅くなった理由に関して、当事者たちもそうでない者たちも様々に推理し憶測しあったが、というかむしろ無関係の傍観者たちにその傾向が強かったが、結局開示されることはなかった。
王立裁判院の特別小法廷で開かれた裁判は裁判長に加え6名の裁判官、それに司法官長を陪審員長に迎えて第三者だけで構成された9名の陪審員、計16名もの審理体制が敷かれ、国王夫妻の臨席に加えて大顕位の全家門の当主が立会人として顔を揃えた。
無論、タルシュ侯爵家当主とモンテローサ伯爵家当主が座るのは被告席だが。
なお被告たる両家の当主は、それぞれ弁護人を伴っている。
そのほか、メルカド男爵家当主バルデス・デ・エレロ=アルテサーノと娘ベリンダも小法廷に顔を揃えた。こちらは弁護人を伴ってはいない。
そして、それ以外に傍聴者は許されなかった。閉鎖法廷というやつだ。
「これより、連続するふたつの事件に関連する4つの罪状に関して特別法廷を開く。なお立会人として国王陛下、后妃殿下のご臨席を賜り、また大顕位各位にも臨場頂いております。
被告人は審判神の御名に誓って、嘘偽りなど申さぬように。もしも虚偽を述べれば虚偽罪、並びに国家反逆罪が新たに科されるゆえ、心致すように」
裁判長の厳かな宣誓をもって、審理が開始された。
まず最初の審理は、騒動が表面化した発端とも言うべきイグナシオの罪から始まった。
モンテローサ伯爵家のエミディオとセリアはこの時ばかりは原告席へと移動する。
「被告、サンルーカル子爵イグナシオ卿には被害者、モンテローサ伯爵家令嬢セリア・デ・ヒメネス=アストゥーリアに対する暴行傷害罪、名誉毀損罪、及び騒乱罪の嫌疑がかかっておりますが、お認めになりますかな?それとも否認なさいますかな?」
「認める」
俯いたまま顔を歪めて返事をしないイグナシオに代わって、セベリアノがさっさと認めてしまった。
「ち、父上!」
「今さら否認して何とするつもりだ?あれだけ多くの目撃者をわざわざ作って、誤魔化しも揉み消しも出来なくさせたのはどこのどいつだ!」
大喝されて、再びイグナシオは黙るしかない。
「他に異論は?」
裁判長が一同を見渡す。
「裁判長に申し上げる」
タルシュ侯爵家の弁護人が口を開く。
「発言を」
「被告、サンルーカル子爵は被害者セリア嬢に害意があったわけではなく、事実は事実と言えど不運な偶然も絡むもの。ゆえに情状酌量の余地ありとして、寛大な処分をお願い致したい」
「ふむ。それに関しては陪審員に委ねたいが」
「承った。こちらで審理しよう」
裁判長が陪審員長を見て、陪審員長はそれに頷く。
「我が娘セリアの受けた被害については、当家とタルシュ侯爵家で示談が済んでいること、申し添える」
モンテローサ伯爵エミディオが補足するように発言する。両家の取り決めた賠償の内容、及びセベリアノが国王と取り決めたイグナシオの処遇に関する資料はすでに裁判長及び陪審員長の手元に届いていた。
「では引き続いて、モンテローサ伯爵家令嬢セリアによる、メルカド男爵家令嬢ベリンダ・デ・エレロ=カステレに対する傷害罪、器物破損罪、及び拉致監禁罪の審理を執り行う」
裁判長の宣言が再びなされ、今度はエミディオとセリアが被告席に移る。セベリアノは他の大顕位当主の座る傍聴席に移り、イグナシオは被告人控席へと移動する。
「被告人及びその弁護人は申し開きを」
「ベリンダ嬢に関して手を上げた事があるのは認めます。私物の損壊については実行も、教唆の事実もありません。ドレスの汚損については過失を主張します」
セリアは顔を真っ直ぐ上げて、堂々とそう主張した。
「拉致監禁容疑についてはいかがかな?」
「それは…」
「認めよう」
言い淀んだ娘に代わって、エミディオが肯定した。口を開きかけたセリアを目線だけで黙らせて、エミディオは続ける。
「ただし、我が娘の度重なる忠告にも関わらずサンルーカル子爵に侍ることをやめなかったベリンダ嬢にも非はあろう。この子は婚約者の不貞という醜聞を避けようとしたまでのこと。その意味において、ベリンダ嬢とサンルーカル子爵にも罰を下されるよう望む」
「如何なる罪状での罰をお望みか」
「無論、不貞罪だ」
「陪審員長」
「こちらも承った」
「他に申し開きは」
「ではわたくしから一点」
モンテローサ伯爵家の弁護人が口を開く。
「今回の事件でセリア嬢は多くの方々からの好奇の目に晒され、貴族子女としてすでに耐え難い責め苦を受けておられる。すでに社会的制裁は充分受けているものと考えます。よって、情状酌量を求めたい」
「それに関してはあくまでも婚約破棄に伴う名誉毀損に関わる件であり、ベリンダ嬢に対するセリア嬢の嫌疑はそれとは別件のもの。酌量は認められない」
裁判長の言はあくまでも冷静で、有無を言わさぬ厳しさがあった。弁護人は言葉を失くして着席するほかなかった。
「拉致監禁容疑に関しては、実行犯も拘束され罪を認め、セリア嬢の指示のあった旨証言致しておる。……認めますな、セリア嬢?」
「は………はい………」
真実を見抜くかのような裁判長の視線に射竦められ、セリアは青ざめつつ頷くしかなかった。
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