【更新中】落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる【長編】

杜野秋人

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第二章前半【いざ東方へ】

2-12.雨の旅路の竜退治(2)

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 黄の属性魔術には移動系の魔術が多くある。[転移]はそのひとつで、術者の任意のものを任意の場所に瞬時に移すことができる。移動させるものは無機物有機物を問わず、数の制限もない。
 もちろん術者の能力と術式のレベルによって動かせる量も距離も総量も変わってくるが、基本的には固定されていなければ何でも動かせる。

 つまりアルベルトが考えたのは、[転移]を用いて奇襲をかけ、乗員を無力化した上で脚竜車だけ残して積荷も乗員も脚竜も拐い、残った脚竜車に火をつけた、という仮説だ。
 しかも積荷や脚竜までも[転移]させられるとすれば相当な高レベル術者に違いなく、それが「燃える脚竜車」という分かりやすい証拠だけを残してただ逃げるだけとは思えなかった。

 要するにミカエラが言ったとおりだ。
 燃える脚竜車は『囮』なのだ。

 必死の大声にも関わらずアルベルトの声はレギーナには聞こえていないようだ。風向きと距離に阻まれて届かないのだろう。だがそれでもアルベルトが立ち上がったのは見えたのだろうか、こちらを見て怪訝そうな顔をする。

 マズい、何とかして彼女に伝えないと。
 不意を打たれたら、いくら彼女たちでも。

 だが、アプローズ号で近付くのはダメだ。動き出しまでに間があるし、[転移]さえ使えるような高レベル術者の速さには対抗できない。それに狙っているのがどちらなのか分からないが、アプローズ号を彼女たちの元に寄せたら狙われているものを1ヶ所に集めてしまうことにもなりかねない。

 不意にレギーナとミカエラの背後の空間が歪む。[転移]で何かが現出してくる予兆だ。
 先に狙われたのは彼女たちだった。思った通り、まず『護衛』を無力化してから脚竜車の強奪にかかるのだろう。
 だがもう知らせる手段もその時間もない。もはや気付いてくれるのを祈るのみだ。

 何が起こったか気付いたのに、何が起こっているか見えているのに、何もできないのは歯がゆいばかりだった。

 と、なんの予備動作もなしにレギーナが振り返った。
 そして振り返りざまに抜き放った長剣コルタールで、見もせずに背後を大上段から斬り伏せたのだ。

「えっ」

 思わず間抜けな声がアルベルトの口から漏れた。

 レギーナの背後に出てきたのは貧相な小男で、それが呆けた顔をしたまま血飛沫を撒き散らして崩れ落ちた。そりゃあ、いくら何でも[転移]で現出した瞬間に斬られるなんて想定もしてなかったことだろう。
 その横で、素早く腰から戦棍メイスを外したミカエラが水平にその戦棍を振りぬく。こちらの背後にも[転移]で歪んだ空間があり、出てきた長身の男が腹を強かに殴られてもんどり打って倒れる。
 さらにレギーナが腰のベルトから短剣を抜いて無造作に投げた。するとそれは3つめの[転移]から出てきた男の腹に刺さる。

「なーにほうけてんのよ」

 レギーナのあきれたような声が聞こえる。
 彼女は確かにアルベルトを見ていた。

「あなた、私を誰だと思ってるの?これでも黄加護の勇者なんですけど?」

 そう。つまり黄加護のレギーナには敵の行動はほとんど全部お見通しだったのだ。なにしろ敵味方とも黄加護なので、その戦法など知り尽くしているのだ。
 ただひとつだけ敵味方で異なっていたのは、レギーナたちは状況から敵が黄加護だとすぐに見抜けたのに敵は彼女たちの加護に気付けなかったこと。到達者ハイエストの[感知]の範囲外まで逃れていたと考えれば、敵が[感知]で彼女たちの加護や魔力を調べることも不可能だったはずだ。
 なお脚竜車周りの状況そのものは、空間や脚竜車本体に[通信]を[付与]しておけば音声で確認することができるため、おそらく賊はそのようにして新たな獲物の接近を察して再奇襲してきたのだろう。
 そして哀れにも返り討ちに遭ってしまったわけだ。

 と、そこに、ふたりから少し離れて再び[転移]が発動する。
 だがそこから出てきたのは、縛られた魔術師とヴィオレだった。どうやってかは分からないが、彼女は単独で敵の本陣に逆奇襲をかけて親玉を捕らえてきたらしい。
 彼女が縛られた魔術師を無造作に手放して、魔術師は彼女の足元に横倒しになる。

「これで全部よ。四人組ね」

 ヴィオレもやはり、アルベルトにまで声が届く。となるとこれは、黄属性の[念信]か[拡声]、あるいは白属性の[隔話]か、無属性の[通信]か、もしくはそれに類する遠隔通信系の魔術が発動しているのだろう。

「くくく…いい気になるのもここまでだ」

 不意に声がして、それが男の声だったので見回すと、転がされた魔術師の男が顔を上げて嗤っている。

「私を現場ここに連れてきたことを、あの世で後悔するんだな!」

 男が叫ぶやいなや、その眼前の地面に魔方陣が浮かび上がる。ちょうどレギーナとミカエラ、そしてヴィオレと男の位置の間に。
 そして魔方陣から一条の光が迸ったかと思うと、瞬時に天空に向かって伸びていき、消えていった。

「あー、[召喚]とかいたらんしょうもない悪あがきしてからに」

 ミカエラの冷めた呟き。

「まあ全然暴れ足りなかったし、ちょうどいいわ」

 事もなげなレギーナの呟き。

 光の消えた天空に影が現れた。
 鉤爪の鋭い二本の太い脚を持ち、翼で羽ばたいて宙に浮いているそれは、長い首と尻尾を持ち、腹部と喉を除く全身を黒光りする硬い鱗で覆われていた。
 亜竜の一種、翼竜だ。

「しかもよりによって翼竜やらなんて
「どうせ喚ぶなら巨竜くらい喚びなさいよね」
「まあ逃げるつもりなら、これでいいんじゃないかしらね?」

 悠然と飛ぶ翼竜の姿にも三人は全く動じない。



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