70 / 366
間章1【瘴脈討伐】
勇者様御一行のお仕事(8)
しおりを挟む
結局のところ昼食は持参した食材で作るしかなく、例によってミカエラが適当に合わせたスープとパン、それに斑牛と里猪の肉を焼いて味付けして食べた。レギーナとヴィオレは斑牛、ミカエラとクレアは里猪を選んだ。
そしてひと眠りして、4人は日暮れ時にもぞもぞと起き出す。
「ふぁあ…もう時間かいね…」
「空が茜色だし、ぼちぼちかしらね…」
硬い床に寝袋だけで寝ていたせいか、ミカエラもレギーナもまだ眠そうに目を擦っている。まあ朝っぱらから派手に暴れまわったせいもあるのだろう。現にクレアなどまだ眠ったままだ。まあそれはミカエラが起こすので問題ないだろう。
「夜は夜で結構いそうよ」
物見台に上がっていたヴィオレが戻って来てそう言った。彼女だけは戦闘していないので元気なものだが、誰もそれを詰ったりはしない。なにせ彼女は戦闘以外に役割が多くあり、しかも他の3人が苦手な分野をまとめて受け持ってくれているので、彼女抜きではパーティが回らないと全員が理解しているからだ。
ゆえに、最近流行りの物語のようなことは蒼薔薇騎士団には起こらない。パーティメンバーの役割を仲間が理解してないなんてことも、間違った判断のもとに縁の下の力持ちを追放することもあり得ないのだ。レギーナに言わせれば「メンバーの役割を理解してないとかホントにリーダーなのかしら?バカじゃないのソイツこそが追放されるべきよ!」である。
まあ、物語の主題的にはそういう正論をぶっても意味がないのだが。
閑話休題。
昼の残りのスープとパンで軽く腹ごしらえして、準備を済ませるとレギーナたちは砦小屋を出た。陽の沈みかかった空は早くも茜色から宵闇の色に染まりかけていて、山に囲まれた渓谷は薄暮に支配されつつある。その闇の帳の中、蠢くものたちの影がいくつも見える。
まず向かってきたのは近くにいた爪刃熊。次いで鎧熊と、二本の角を持つ馬“二角馬”も駆けてくる。二角馬は馬のくせに獣や人を襲って食らうし、動きが素早いので開放なしのレギーナの動きにも対応してきて面倒だ。
「[光線]──」
クレアの魔術が先頭にいた爪刃熊の顔面を撃ち抜き、爪刃熊は前のめりに崩れ落ちて動かなくなった。
「あっ、私の爪刃熊が!」
「はやいもの勝ち」
“私の”ではないし、早い者勝ちでもないのだが。
「はいはい姫ちゃんには二角馬やるけん」
「ウソでしょ面倒なの押し付けないで!」
とか何とか言いながらミカエラは[氷棺]で鎧熊を氷漬けにしているし、レギーナは二角馬の首をあっさり斬り飛ばしている。
と、そこへ飛び込んだ影がある。小さな姿で目立たず、しかも異様に早いスピードで意識の外から飛んできたそれは、完全に奇襲の形になってレギーナの胸に飛び込んできた。
それは彼女の真銀製の鎧の胸当ての部分に直撃し、体当たりされた格好の彼女は思わず「きゃ!」と乙女らしい声を上げてバランスを崩す。
「姫ちゃん!?」
「あ、うさぎ」
そう、それは小さく可愛らしい兎だった。
ただし、その額から体長と変わらぬほど長く真っ直ぐな鋭く尖った角が生えていることを除けば、だが。
“一角兎”と呼ばれる魔獣である。
一角兎はその強靭な後肢で数十歩の距離でもひとっ跳びに距離を詰めてくる魔獣で、意識の外から目にも止まらぬ速さで跳んでくるから厄介だ。しかもその額には長く鋭い角があるため、意表を突かれると熟練の冒険者でさえ心臓をひと突きにされて即死する。
つまり本当ならば今の一撃で、レギーナは心臓を貫かれて死んでいたはずだった。それがバランスを崩しただけで済んだのは真銀製の魔術防御の付与された特別な鎧を着ていたことと、あらかじめ彼女自身が我が身に[物理防御]をかけていたためである。
彼女の物理防御はかなり高いレベルでかけられているため、ちょっとやそっとの物理ダメージなら跳ね返してしまえる。ただでさえ攻撃が当たらない上に当たったとしても硬いとか軽く反則だと思う。
とはいえ現況の問題はそこではない。戦いのさなかに彼女がよろめかされた事が問題なのだ。
小さな影が薄闇の中を跳んでくる。
それも3つ、4つ、5つ、6つと。
そう、一角兎は群れる魔獣なのだ。そして困ったことに、こいつらは肉食だ。
バランスを崩してよろめいたレギーナに一角兎が次々と体当たりしていく。体当たりとは言うが、兎たちが向けているのは鋭く尖った角なので、要は巨大な針を立て続けに何本も突き立てられているに等しかった。
そして彼女が倒れ込んでもそれは止まらない。心臓めがけてだけでなく、背中にも腰にも手足にも、もちろん顔にも鋭い角が迫る。
そしてひと眠りして、4人は日暮れ時にもぞもぞと起き出す。
「ふぁあ…もう時間かいね…」
「空が茜色だし、ぼちぼちかしらね…」
硬い床に寝袋だけで寝ていたせいか、ミカエラもレギーナもまだ眠そうに目を擦っている。まあ朝っぱらから派手に暴れまわったせいもあるのだろう。現にクレアなどまだ眠ったままだ。まあそれはミカエラが起こすので問題ないだろう。
「夜は夜で結構いそうよ」
物見台に上がっていたヴィオレが戻って来てそう言った。彼女だけは戦闘していないので元気なものだが、誰もそれを詰ったりはしない。なにせ彼女は戦闘以外に役割が多くあり、しかも他の3人が苦手な分野をまとめて受け持ってくれているので、彼女抜きではパーティが回らないと全員が理解しているからだ。
ゆえに、最近流行りの物語のようなことは蒼薔薇騎士団には起こらない。パーティメンバーの役割を仲間が理解してないなんてことも、間違った判断のもとに縁の下の力持ちを追放することもあり得ないのだ。レギーナに言わせれば「メンバーの役割を理解してないとかホントにリーダーなのかしら?バカじゃないのソイツこそが追放されるべきよ!」である。
まあ、物語の主題的にはそういう正論をぶっても意味がないのだが。
閑話休題。
昼の残りのスープとパンで軽く腹ごしらえして、準備を済ませるとレギーナたちは砦小屋を出た。陽の沈みかかった空は早くも茜色から宵闇の色に染まりかけていて、山に囲まれた渓谷は薄暮に支配されつつある。その闇の帳の中、蠢くものたちの影がいくつも見える。
まず向かってきたのは近くにいた爪刃熊。次いで鎧熊と、二本の角を持つ馬“二角馬”も駆けてくる。二角馬は馬のくせに獣や人を襲って食らうし、動きが素早いので開放なしのレギーナの動きにも対応してきて面倒だ。
「[光線]──」
クレアの魔術が先頭にいた爪刃熊の顔面を撃ち抜き、爪刃熊は前のめりに崩れ落ちて動かなくなった。
「あっ、私の爪刃熊が!」
「はやいもの勝ち」
“私の”ではないし、早い者勝ちでもないのだが。
「はいはい姫ちゃんには二角馬やるけん」
「ウソでしょ面倒なの押し付けないで!」
とか何とか言いながらミカエラは[氷棺]で鎧熊を氷漬けにしているし、レギーナは二角馬の首をあっさり斬り飛ばしている。
と、そこへ飛び込んだ影がある。小さな姿で目立たず、しかも異様に早いスピードで意識の外から飛んできたそれは、完全に奇襲の形になってレギーナの胸に飛び込んできた。
それは彼女の真銀製の鎧の胸当ての部分に直撃し、体当たりされた格好の彼女は思わず「きゃ!」と乙女らしい声を上げてバランスを崩す。
「姫ちゃん!?」
「あ、うさぎ」
そう、それは小さく可愛らしい兎だった。
ただし、その額から体長と変わらぬほど長く真っ直ぐな鋭く尖った角が生えていることを除けば、だが。
“一角兎”と呼ばれる魔獣である。
一角兎はその強靭な後肢で数十歩の距離でもひとっ跳びに距離を詰めてくる魔獣で、意識の外から目にも止まらぬ速さで跳んでくるから厄介だ。しかもその額には長く鋭い角があるため、意表を突かれると熟練の冒険者でさえ心臓をひと突きにされて即死する。
つまり本当ならば今の一撃で、レギーナは心臓を貫かれて死んでいたはずだった。それがバランスを崩しただけで済んだのは真銀製の魔術防御の付与された特別な鎧を着ていたことと、あらかじめ彼女自身が我が身に[物理防御]をかけていたためである。
彼女の物理防御はかなり高いレベルでかけられているため、ちょっとやそっとの物理ダメージなら跳ね返してしまえる。ただでさえ攻撃が当たらない上に当たったとしても硬いとか軽く反則だと思う。
とはいえ現況の問題はそこではない。戦いのさなかに彼女がよろめかされた事が問題なのだ。
小さな影が薄闇の中を跳んでくる。
それも3つ、4つ、5つ、6つと。
そう、一角兎は群れる魔獣なのだ。そして困ったことに、こいつらは肉食だ。
バランスを崩してよろめいたレギーナに一角兎が次々と体当たりしていく。体当たりとは言うが、兎たちが向けているのは鋭く尖った角なので、要は巨大な針を立て続けに何本も突き立てられているに等しかった。
そして彼女が倒れ込んでもそれは止まらない。心臓めがけてだけでなく、背中にも腰にも手足にも、もちろん顔にも鋭い角が迫る。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
追放されたら無能スキルで無双する
ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。
見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。
僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。
咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。
僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!
最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
愛鶴ソウ
ファンタジー
十二の公爵によって統制された大陸の内、どの公爵にも統治されていない『東の地』
そこにある小さな村『リブ村』
そしてそこで暮らす少年剣士『クロト』。
ある日リブ村が一級魔物『ミノタウロス』によって壊滅させられる。
なんとか助かったクロトは力を付け、仲間と出会い世界の闇に立ち向かっていく。
ミノタウロス襲撃の裏に潜む影
最弱属性魔剣士の雷鳴が今、轟く
※この作品は小説サイト『ノベルバ』、及び『小説家になろう』にも投稿しており、既に完結しています。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる