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第四章【騒乱のアナトリア】
4-2.拝炎教とその神話
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ファンタジー小説大賞の追加文字数の兼ね合いの関係で、更新頻度を5日に一度(5の倍数日)、20時更新に変更します。本日更新のあと、次回は20日になります。
たびたびの変更、申し訳ありませんm(_ _)m
ー ー ー ー ー ー ー ー ー
とはいえまだ今はまだビュザンティオンを遥か遠くにようやく眺められた程度である。スズの脚なら大一もかからずに市街地へ入れるだろうが、それでも距離にして20スタディオンほどはあるだろうか。それでも今日は朝の早い時間から移動していることもあり、うまく行けば昼頃には国境連絡船でコンスタンティノスへと渡り終えられるはずだ。
アプローズ号はビュザンティオンに入っても休まずに走り続け、市街地を素通りしてボアジッチ海峡付近まで到達した。例によってヴィオレがひとり先行して国境連絡船の出港時間を確認し、アプローズ号を載せられる大型連絡船の予約を取り付けてきた。
その出港時刻が昼二ということで、一行はひとまず昼食を取ることにした。時刻は朝六、少し早いが昼食を取るにはいい時間だ。
「初めて来たけど、この街ってなんていうか、ずいぶん雰囲気が独特よね」
昼食を終え、再びアプローズ号に乗り込んで市街地をゆっくり走行するその窓から外を眺めつつ、レギーナが独りごちる。
「なんかもう東方世界さい入ったげな感じやんね」
「というより〈大河〉の沿岸域が独自の文化圏になってる、っていう方が正しいかな」
「ちゅうことは、あれな?西でも東でもない、げな感じなん?」
「うん、まあそんな感じだね。そもそも今のアナトリアのほぼ全域も、かつての“蛇王”の支配地だったみたいだよ」
「その“蛇王”って、だいたいいつくらいの時代の王だったのかしら?」
「はっきりとは分かってないらしいけど、少なくとも数千年は下らないみたいだね。東方世界ではほとんど神話として扱われてるくらいだし」
「数千年前、ってことは“ラティアース”より前の“オーリムアース”の時代、ってこと?」
「多分そうじゃないかな」
神話では、蛇王の治世はおよそ千年にも及んだとされている。その蛇王が簒奪したとされる“賢王”イマの治世はおよそ七百年、蛇王を倒した“英雄王”ファリドゥーンの治世がやはり千年と言われる。それでいて英雄王は賢王の孫にあたるというのだから、現代の人類の常識からはかけ離れている。長命で知られているエルフであってさえ、千年を生きる者は稀だと言われているのに。
「神話ねえ…聞いたこともないのよね」
「まあそれは仕方ないんじゃないかな。神教の神話じゃなくて“拝炎教”の神話だから」
「拝炎教?」
「主に〈大河〉沿岸域で信仰されてる宗教でね、神様は特にいなくて、信者は炎を崇拝してるそうなんだ」
「炎を?変わった宗教もあるものね」
拝炎教は主に〈大河〉の中流域から下流域にかけて広く信仰されている宗教で、炎を浄化と再生の象徴たる聖なるものとして崇めているのが特徴的だ。そのため、炎は一旦起こすと消してはならず、人が死ねば炎で浄化したのちに埋めたり海に撒いたりするのだという。
火は消してはならないものだから、火事などが起こると自然鎮火するまで放置するのだという。火は勝手に燃え上がるのではなく浄化のために生まれるのだから、燃えた家や人は浄化されるべき何かがあったのだと考えるのだという。
「うわぁ…それもすごい考え方ね」
げんなりした顔でレギーナがため息をつく。
「だから東方の方では火事被害が毎年かなりあるらしいよ」
まああっちでは『被害』とは言わないらしいけど、と続けるアルベルト。
東方に行ったら、アプローズ号だけは火事を起こさないようにしないとね、とレギーナたちは固く誓いあった。万が一火が出ても消火を手伝ってもらえないどころか、妨害されかねない。
「っと、渡し場が見えてきたね」
御者台からアルベルトが言う。ここまでの彼らの会話も御者台と室内とで覗き窓を介した[通信]の術式によるものだ。
「ところで誰か、アナトリア語話せる人、いる?」
「ああ、心配ないよレギーナさん。現代ロマーノ語で通じるから」
「そっか、それもそうね」
イリシャはもちろん、アナトリアもまだ西方世界である。そして西方世界において、現代ロマーノ語が通用しない地域というのはほとんどない。だからこそ、各国共通の公用語として用いられるのだ。
「というか、東方世界に入っても現代ロマーノ語が通用する土地が多いからね」
「そうなの!?」
「竜骨回廊の沿道域は特にね。西方の商人たちも多く行き来するから、リ・カルンの王都アスパード・ダナまでは問題ないはずだよ」
そう言われれば納得もする。商人たちだけでなくて歴代の勇者パーティも蛇王の封印修正のために定期的に訪れているのだから、昔から交流はあるのだ。
だったら向こうでこちらの言葉が通じても不思議はないし、逆に言えばアナトリアでは東方の言葉も通じるのだろう。
そういう意味では、やはりアルベルトを案内人として雇って正解であった。実際に行って戻ってきた経験のある彼がいるからこそ、レギーナたちだけでは気付けないこうした細々とした問題も何事もなかったかのようにクリアできているのだから。
ファンタジー小説大賞の追加文字数の兼ね合いの関係で、更新頻度を5日に一度(5の倍数日)、20時更新に変更します。本日更新のあと、次回は20日になります。
たびたびの変更、申し訳ありませんm(_ _)m
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とはいえまだ今はまだビュザンティオンを遥か遠くにようやく眺められた程度である。スズの脚なら大一もかからずに市街地へ入れるだろうが、それでも距離にして20スタディオンほどはあるだろうか。それでも今日は朝の早い時間から移動していることもあり、うまく行けば昼頃には国境連絡船でコンスタンティノスへと渡り終えられるはずだ。
アプローズ号はビュザンティオンに入っても休まずに走り続け、市街地を素通りしてボアジッチ海峡付近まで到達した。例によってヴィオレがひとり先行して国境連絡船の出港時間を確認し、アプローズ号を載せられる大型連絡船の予約を取り付けてきた。
その出港時刻が昼二ということで、一行はひとまず昼食を取ることにした。時刻は朝六、少し早いが昼食を取るにはいい時間だ。
「初めて来たけど、この街ってなんていうか、ずいぶん雰囲気が独特よね」
昼食を終え、再びアプローズ号に乗り込んで市街地をゆっくり走行するその窓から外を眺めつつ、レギーナが独りごちる。
「なんかもう東方世界さい入ったげな感じやんね」
「というより〈大河〉の沿岸域が独自の文化圏になってる、っていう方が正しいかな」
「ちゅうことは、あれな?西でも東でもない、げな感じなん?」
「うん、まあそんな感じだね。そもそも今のアナトリアのほぼ全域も、かつての“蛇王”の支配地だったみたいだよ」
「その“蛇王”って、だいたいいつくらいの時代の王だったのかしら?」
「はっきりとは分かってないらしいけど、少なくとも数千年は下らないみたいだね。東方世界ではほとんど神話として扱われてるくらいだし」
「数千年前、ってことは“ラティアース”より前の“オーリムアース”の時代、ってこと?」
「多分そうじゃないかな」
神話では、蛇王の治世はおよそ千年にも及んだとされている。その蛇王が簒奪したとされる“賢王”イマの治世はおよそ七百年、蛇王を倒した“英雄王”ファリドゥーンの治世がやはり千年と言われる。それでいて英雄王は賢王の孫にあたるというのだから、現代の人類の常識からはかけ離れている。長命で知られているエルフであってさえ、千年を生きる者は稀だと言われているのに。
「神話ねえ…聞いたこともないのよね」
「まあそれは仕方ないんじゃないかな。神教の神話じゃなくて“拝炎教”の神話だから」
「拝炎教?」
「主に〈大河〉沿岸域で信仰されてる宗教でね、神様は特にいなくて、信者は炎を崇拝してるそうなんだ」
「炎を?変わった宗教もあるものね」
拝炎教は主に〈大河〉の中流域から下流域にかけて広く信仰されている宗教で、炎を浄化と再生の象徴たる聖なるものとして崇めているのが特徴的だ。そのため、炎は一旦起こすと消してはならず、人が死ねば炎で浄化したのちに埋めたり海に撒いたりするのだという。
火は消してはならないものだから、火事などが起こると自然鎮火するまで放置するのだという。火は勝手に燃え上がるのではなく浄化のために生まれるのだから、燃えた家や人は浄化されるべき何かがあったのだと考えるのだという。
「うわぁ…それもすごい考え方ね」
げんなりした顔でレギーナがため息をつく。
「だから東方の方では火事被害が毎年かなりあるらしいよ」
まああっちでは『被害』とは言わないらしいけど、と続けるアルベルト。
東方に行ったら、アプローズ号だけは火事を起こさないようにしないとね、とレギーナたちは固く誓いあった。万が一火が出ても消火を手伝ってもらえないどころか、妨害されかねない。
「っと、渡し場が見えてきたね」
御者台からアルベルトが言う。ここまでの彼らの会話も御者台と室内とで覗き窓を介した[通信]の術式によるものだ。
「ところで誰か、アナトリア語話せる人、いる?」
「ああ、心配ないよレギーナさん。現代ロマーノ語で通じるから」
「そっか、それもそうね」
イリシャはもちろん、アナトリアもまだ西方世界である。そして西方世界において、現代ロマーノ語が通用しない地域というのはほとんどない。だからこそ、各国共通の公用語として用いられるのだ。
「というか、東方世界に入っても現代ロマーノ語が通用する土地が多いからね」
「そうなの!?」
「竜骨回廊の沿道域は特にね。西方の商人たちも多く行き来するから、リ・カルンの王都アスパード・ダナまでは問題ないはずだよ」
そう言われれば納得もする。商人たちだけでなくて歴代の勇者パーティも蛇王の封印修正のために定期的に訪れているのだから、昔から交流はあるのだ。
だったら向こうでこちらの言葉が通じても不思議はないし、逆に言えばアナトリアでは東方の言葉も通じるのだろう。
そういう意味では、やはりアルベルトを案内人として雇って正解であった。実際に行って戻ってきた経験のある彼がいるからこそ、レギーナたちだけでは気付けないこうした細々とした問題も何事もなかったかのようにクリアできているのだから。
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