【更新中】落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる【長編】

杜野秋人

文字の大きさ
182 / 366
第四章【騒乱のアナトリア】

4-30.意外な事実

しおりを挟む


 夜会で軍務宰相相手に憂さ晴らしをした翌日、つまり皇城滞在3日目である。この日、レギーナたち蒼薔薇騎士団に告げられた予定は何もなかった。
 というのも、予定されていた晩餐会が中止になったからである。

 おそらく昨夜の件が響いているのだろう。ララ妃から聞いていた予定では、今夜は拝炎教の教団幹部が中心の晩餐会だったはずだが。まあ教団幹部なら昨夜の晩餐会にも何人も出席していたし、その全員が気絶したり怯えまくって醜態を晒したりしていたので、おそらく今頃は勇者の恐ろしさが誇張を伴って教団内部にあまねく周知されている頃だろう。

「ねえ、なんだか私、また変に誤解されてない?」
「誤解もなんも、見たまんまが広がっとるとやないかいな?」
「見たまんま……っていうと、可憐で凛々しい美少女勇者がいかに素晴らしいか、とか?」
「どの口がなんば何をほざきよんしゃあほざいてらっしゃるとかいなのかなほんなこつ本当に

 しれっととぼけてみて、ミカエラに容赦なくツッコまれているレギーナである。

 だがともかく、時間的猶予ができたのはありがたい。ヴィオレは早速自分付きのナズという侍女に指示を出して送り出し、自らも情報収集へと消えていった。
 クレアは荷物から本を取り出して読み始めた。ラグシウムで街を回った際に、道中の暇つぶしにとアルベルトに買ってもらった小説である。

「クレア、あなたそれ、何回も読み返してるけど面白いの?」
「面白いよ」
「なんの本なの?」
「恋愛小説、かな」
「「れ……!?」」

 意外すぎる答えに、レギーナもミカエラも思わず絶句する。

「王子様とその婚約者がね、王都の大学に通ってるんだけど王子様は婚約者が嫌いなの。でね、大学に平民上がりの男爵令嬢が入学してきて王子様と仲良くなるの。婚約者は男爵令嬢に色々注意するんだけど、それを意地悪されたって王子様に告げ口して、婚約者がどんどん嫌われていって、とうとう下級生を虐めてるって悪い噂が流れるの」
「どうしよう、クレアがおませさんになっちゃってる!」
「嘘やん、クレアがめっちゃ長ゼリフ喋りよう喋ってる!」

 レギーナとミカエラで驚きのポイントが絶妙に違っていた。そこはハモらんのかい。

「それで王子様が怒って、卒業パーティーで婚約者に虐めとかの証拠を突き付けて、婚約破棄して断罪するんだけど、婚約者はそこまでに王子様の不貞の証拠を集めてて、虐めとか悪い噂とかも冤罪だって証明して、それを元に“逆ざまあ”するの」
「「しかも“逆ざまあ”物!?」」

 いやまあ確かにこの西方世界でも大学の卒業記念パーティーでの婚約破棄やら断罪やら、普通によく聞く話だし『西方通信』紙上でもニュースになっている。今年もガリオン王国やアウストリー公国、イヴェリアス王国などで似たような事件が起こったと載っていた。
 そしてそれらを元に、クレアが今読んでいるような婚約破棄を題材にした小説や歌劇、演劇なども多く生み出され、大衆のみならず貴族子女も嗜んでいるらしい。
 だがまさかクレアまで読んでいるとは。

「それで結局王子様は継承権剥奪の上廃嫡。男爵令嬢は王子様や高位貴族の子息たちを誑かしたってことで処刑、婚約者は望まない婚約から解放されてハッピーエンド」
「え、そういうのって別にヒーローが出てきたりするんじゃない?」
「んー、この本にはそういうの出なかったよ。婚約者のヒロインが逞しくてひとりで立ち向かってて、そこが新しくて良かった」

 だがまあ、よくよく考えればクレアだって本来ならば大学に入学している歳だし、もしかすると自分が通わずに終わることになる大学生活キャンパスライフというものに、憧れでもあったりするのだろうか。

「んー、別にないかな」

 だがそう問われたクレアは素っ気ない。

「わたしが通うってなると〈賢者の学院〉になるけど、そこの話はひめやミカから聞けるし」

 確かにレギーナもミカエラも学院の卒塔生だ。

「わたしが通うなら“知識の塔”だけど、どんな授業内容かはサーヤさまに聞いたし」
「え、サーヤって……私のふたつ下の?」

 サーヤ・フォン・シュヴァルツヴァルトはレギーナやミカエラの二学年下で、“知識の塔”の首席卒塔生である。レギーナは一学年下の後輩であるアンジェリーナ・グロウスターを通して、彼女と間接的に交流を持っている。
 もっとも、直接会ったことはほとんどないが。

「ていうかクレア、いつ彼女とうたん?」
「去年の、ほら、ガリオンとブロイスの小競り合い」
「「あー」」

 去年、つまりフェル暦674年の暑季なつ、ガリオン王国とブロイス帝国との間にちょっとした小競り合いがあった。ブロイスがガリオンに侵攻してきたわけだが、両国は数年おきに戦争している仇敵同士で、それ自体は特に珍しくもない。
 問題は、ブロイス側に勇者ヴォルフガングの参戦があったことである。
 これを重く見たガリオン側は同盟国であるアルヴァイオン大公国から勇者リチャードを招聘し、友好国であるエトルリア連邦にも勇者レギーナの参戦を求めた。結果、当代の勇者候補三名が戦場で敵対するという前代未聞の事態に発展したのである。

 まあ結果的には、彼ら三名が戦場に出てきたことで逆に武力衝突が回避され、無駄に緊張が高まっただけで終わったのだが。
 だって勇者の戦力に一般兵が太刀打ちなど出来るはずもない。そして勇者の側にも一般人の兵士たちを攻撃する理由がない。勇者とは人類を攻撃するために存在するものではないのだ。
 だから勇者同士で代理戦を行う、ということに決まりかけ、だがしかし勇者ヴォルフガングが勇者レギーナにプロポーズするという誰も予想だにしなかった行動に出て、レギーナに振られて終わったのである。

 この時、紛争調停役としてアレマニア公国から派遣されていたのが、当時〈賢者の学院〉を卒塔したばかりのサーヤであった。
 アレマニアはブロイスの同盟国であり、一方でガリオンとも親交がある。そしてサーヤは王族のほぼ全員が魔術師というアレマニアのシュヴァルツヴァルト家の縁戚であり、ガリオンの王位継承権を持つノルマンド公女レティシアの先輩であり、そしてブロイス皇帝ヴィルヘルム3世の従妹でもある。まだ歳は若いが、中立の調停役としては最適な人選であった。

 レギーナがヴォルフガングに追い回されているその横でミカエラがリチャードから逃げ回っていて、クレアが一時的にひとりフリーになっていた時間帯があったことをふたりは思い出した。おそらくその時に彼女とサーヤは同じ魔術師同士、言葉を交わしていたのだろう。

「サーヤさまはおじいさまの話を聞きたがったし、わたしは賢者の学院の授業内容を知りたかったから、情報交換したの」

 かたや知識の塔の首席にしてアレマニア公国の筆頭宮廷魔術師、かたや“七賢人”のひとり大地の賢者ガルシア・パスキュールの孫娘。どちらも西方世界屈指の魔術師であり、さぞかし話に花が咲いたことだろう。
 しかも当時16歳と12歳の乙女たちだ。きっとその場だけ、戦場の雰囲気など微塵も残ってなかったに違いない。

「それで結局、この授業内容だったら別に通わなくてもいいかな、って」
「あんたそれ、マスタング先生が聞いたら絶対泣くばい……」
「あ、マスタング先生には会いたかったかな」

 竜人族ドラコニックのマスタングは〈賢者の学院〉の魔術科の導師で、先代勇者パーティ“輝ける五色の風”の魔術師だった人物だ。
 そんな彼とクレアとが念願かなって対面するのはもう少しあと、翌年の稔季あきになってからの事になるのだが、それはまた別のお話。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...