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第四章【騒乱のアナトリア】
4-53.アルベルトとユーリの戦績
しおりを挟むしばし休息して、アルベルトの体調も回復してきたところで、一行はアタックを再開した。とはいえ彼が戦えるからと前線に引っ張り出すのではなく、相変わらず前衛はレギーナと、たまにミカエラとで担っている。
アルベルトの立ち位置というか評価としては、ヴィオレやクレアの護衛「しかできない」ではなく、護衛「を任せられる」といったところで、些細なようだがそれでも確実に評価が上乗せされている……のだが、ミカエラに茶化されたことが気になって、アルベルトに戦えとは言えなくなっているレギーナである。
四層では他に闇鬼人族に遭遇することもなく、五層では何度か遭遇したが全てレギーナが斬り捨てた。そして六層では緑鬼が出てくるようになって、さすがにアルベルトが遠慮がちに断りを入れてきたので、彼はそのまま後衛扱いだ。
アルベルトの実力的には、何とか緑鬼までなら相手にできなくもない……といったところ。ただしひとりでは倒せないので仲間の助けが必要とのこと。まあ一人前ランクの冒険者としては当然というか、むしろよく戦える方だと言える。
「ちなみに、あなた単体でどれまで倒せるの?」
戦わせるつもりもなくなっているのに、つい聞いてしまうレギーナである。
「ええと、今までひとりで倒した相手と言えば……灰熊とか、鬼人族とか、あと蛇竜も狩ったかな」
「おー、充分やん」
充分どころか、どれも普通なら一人前が単独で倒せるような相手ではない。
「それ、さっきの技で倒したわけ?」
「まさか。ちゃんと剣で戦ったよ」
そもそも発勁は対人用の攻撃技なので、人型以外には効き目が薄いのだという。それでも師匠くらいの腕になれば相手を問わずぶち込んでたけど、と笑うアルベルトに、レギーナたちは驚きを隠せない。
しかもさらに彼は言うのだ。
「ユーリと一緒の時なら、単眼巨人とか翼竜とか氷狼とかも倒したことあるよ」
「えっそれ、ユーリ様が倒したんじゃなくて?」
「ユーリは俺が無理だと思えば自分だけで倒しちゃうんだよね。それ以外だと、主に戦うのは俺で彼はサポートしてくれるだけなんだ」
戦績を考えても、アルベルトの実力は一人前のそれではない。腕利き以上なのはまず間違いなく、熟練者か、場合によっては凄腕にさえ届きかねないと思われた。
ユーリはアンドレアス公爵家の姫と婚姻して勇者を引退したあとも、勇者不在の世界のために暫定的に勇者として活動を続けている。輝ける五色の風はマスタングとマリアが冒険者でなくなり、ナーンが消息を絶ったことから活動できなくなったので、彼は主にアルベルトを誘い、その他は臨時メンバーをサポートに呼んでいた。
ちょっとした討伐依頼も、勇者案件となるような厳しい敵のときも、ユーリは必ずアルベルトを呼びに来て連れて行った。そういう意味では、アルベルトはラグで薬草を採取しながらも勇者のサポートをしていたことになる。
しかもそれでいて、アルベルトは目立つことを嫌がってランク昇格試験を断り続けてきたのだ。だからその実力がランクに見合わないのも当然であった。
「ちなみにユーリ様がひとりで倒しちゃったのって、例えばどんなのがいたの?」
「手を出さないように、って言われて見てた中で一番手強かったのは血祖かな」
「マジな!?」
「…………え、それ引退後の話よね?」
「そうだね、まだ“聖イシュヴァールの左腕”が活動してた頃だよ」
血祖というのは吸血魔の最上位種で、魔物の中でも“魔王”に準じる最悪の敵である。歴史上たまに現れるが、出現するたびに甚大な被害をもたらす災厄の申し子で、勇者や勇者候補でなければまともに太刀打ちすらできないとされている。
選定会議の敵ランク判定で言えば“頂点”に位置づけられる。敵ランクでプラチナとされるのは魔王と血祖だけである。
ユーリが討伐した血祖はヴァルガン王国で長年その地の民を苦しめてきた存在で、さすがにこの時ばかりはユーリも単身では厳しいと思ったのかマスタングを誘って連れて行った。
「マスタング先生とふたりで……って言ったって、本来ならふたりだけでどうにかなる相手じゃないんだけど……」
「久々に“旋剣”カラドボルグが振るえた、って喜んでたよ」
「ユーリ様も大概やなあ」
ユーリの愛剣もまた、レギーナと同じく宝剣のひと振りである。“旋剣”カラドボルグと呼ばれるその剣は、触れるものすべてをねじ切る最凶の切れ味を誇る。
「マスタングさんとはその時に初めて会ったんだけど、新しく組んだ術式をたくさん試してたね」
「あーまあ先生はただの魔術マニアやけんねえ」
真面目一辺倒の堅物と誰からも評される魔術師マスタングの、唯一の趣味が魔術の術式開発である。戦闘においては自ら開発したオリジナル魔術を多数引っさげて、竜人族であることも活かした肉弾戦を繰り広げることでも有名だ。
「……そう言えば、マリア様の[追跡]ってマスタング先生が組んだって言ってたわよね」
『そっすねー。そのおふたりから術式提供があったんで、勇者候補の皆様の位置情報確認に使わせてもらってるっすね!』
「「「…………マジで!? 」」」
まさかの事実。てっきりヤバいスキャンダル案件かと思っていたのに、ただのストーカー魔術だと思っていたのに、意外にも使いみちがあったようだ。
「え、でも私にいつマーキングしたのよ!?」
『チッチッチッ。選定会議の委託職員はどこにでもいるんすよねこれが。だからその人たちに接触委託して、術式を遠隔起動させたんすよ。そして彼らは自分の職分を絶対に明かさないっすから、誰がそうなのかは秘密っす』
ということは、レギーナが勇者候補になってからここまでの約3年の間に出会った誰かが、選定会議の委託職員だったということになる。そんなのさすがに絞り切れるはずがない。
『いやあ、それまでにも似たような術式はあったんすけど、マスタング氏の術式は距離制限もなくて使い勝手がいいっすね!大変重宝してるっす!』
「そ…………そうなんだ……」
だがそれのおかげで、レギーナたちが色々と恩恵を受けているのも事実である。なので彼女たちは顔を見合わせて、引きつった笑みを浮かべるしかできなかった。
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