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第六章【人の奇縁がつなぐもの】
6-15.新規二名様ご案内(1)
しおりを挟むその時、寝室の扉をノックする音が響く。
次いでジャワドの声で「勇者様に目通りを願いたいと申す者が参っておるとのことですが、いかがなさいますか」と聞こえてくる。
レギーナの許可を得て、侍女アルターフがジャワドを室内に招き入れた。
「目通りって、誰が来てるの?」
「エトルリア王宮から参ったと申しておりますが、子供と行商人らしき風体の……」
「子供?」
その時、俄に扉の外が騒がしくなる。「お待ち下さい!」「許可なくお入り頂くわけには参りません!」などと聞こえてくるのは、扉の外で警護しているハーフェズら騎士たちの声だ。
だがそんな彼らの制止を振り切ったのだろう。両開きの扉がノックもなしに開け放たれ、目にも止まらぬ速さで小柄な人影が飛び込んできた。
すかさずミカエラやアルベルトらが警戒態勢を取るものの、レギーナの寝室ということで彼らは誰ひとり武装していなかった。それで身体を張って阻止しようとするが、小柄な人影はすばしっこくて捕まらない。
まあ、ミカエラなどは途中で諦めてしまった感すらあるが。あと銀麗は奴隷としての制約上、敵か味方か分からない人物を不用意に傷つけられないため、これも動きが鈍い。
「ひめさまー!」
そうしてついに人影は、ベッドで上体を起こしたまま呆然として動けずにいるレギーナに向かって、その身を踊らせた。
そう、彼女の胸に飛び込んだのだ。
「ひめさまひめさまひめさま!」
「えっ……ライ!?」
「お会いしとうございましたー!」
その人影は小柄な、10歳から12歳ぐらいのあどけない少年だった。きちんと糊の効いた白いシャツに折り目の付いた黒のショートスボンを穿いて、それを黒いサスペンダーで吊るしている。身なりがしっかりしていて、一見すると年少の侍従、つまり侍童に見えた。
驚くレギーナを尻目に、少年は上掛けに覆われたレギーナの腰から腿に跨る形で座り込み、ごく自然な流れるような動作で彼女の背に手を回して抱きついて、そして彼女の盛り上がった胸に顔を埋めた。埋めただけでなく顔をグリグリと谷間に押し付けて、しかも深呼吸までしている。
「ちょっ、コラ、吸うな!あと痛い!痛いから!」
どうやら身体がまだ万全でないレギーナが痛がるほど力を込めて抱きついているようだ。彼女が慌てて引き離そうとするも、少年はなかなか離れない。
「もー、ライ、あんた全然変わらんねえ」
「えっミカエラさん、知ってる子?」
呆れたように苦笑するミカエラに、アルベルトが驚いて尋ねる。
「あーアルさんは知らんよね。この子はライ。ライラリルレイビスって言うて、エトルリアの王宮で姫ちゃんの専属侍従しとった子やね」
呆れと苦笑とがないまぜになったような表情のミカエラ。ふとアルベルトが気付くと、ヴィオレもクレアも同じような顔をしてライと呼ばれた少年を眺めている。いやまあクレアの表情には嫌悪のほうが濃いが。
彼女たちの様子からレギーナに危害を加えるような人物ではないと見て取って、ようやくアルベルトも警戒を解いた。
「せやけど、なんちゅうか、色々とツッコミ所多すぎなんとちゃうか?」
一方でナーンが違う意味で呆れている。まあ普通の侍従は、自分の仕える姫に抱きついてその胸を吸ったりしないわけで。
「だから一旦離れなさいよライ!痛いってば!」
「あっごめんなさいひめさま」
レギーナの強めの抗議に、ライと呼ばれた少年がようやく顔を上げて腕を解く。
「お詫びしますひめさま」
「あっ、ちょっ」
だが彼はそのままレギーナの両頬をその小さな両手で挟み、そのまま顔を近付けてキスをした。
そう、唇と唇で、ぶちゅっと。
「ん……あむ、んぷ」
それどころか彼は慣れた感じで顔をやや傾けて、彼女の唇をこじ開けたかと思えば舌を差し込んだではないか。
そのまま驚くレギーナの抵抗を封じるかのように舌を絡ませ、唾液を吸い、唇をついばんではまた深く濃厚なキスを繰り返す。何度も何度も。
「いやいやいやいや何しとんねん!」
「わああああ!」
おっさんふたりが慌てるも、慌てたのはそのふたりだけ。ヴィオレは顔を背けて見ないふりしているし、クレアは不快げに目を逸らすし、ミカエラは目元を片手で覆って呆れの色を濃くするが、誰もライをすぐには止めようとはしなかった。
「あーもう、ライ!ほんなこつ相変わらずやなあんたは!大概で離れりーよ!」
結局、見ていられなくなったミカエラが襟首を掴んで引き剥がしにかかり、それでようやくライはレギーナから離れてベッドから下ろされた。
ちなみに当のレギーナはというとキスされた時点でほぼ無抵抗にされるがままで、引き離されたら離されたで頬を染めて目つきがとろんとして、すっかり放心してしまっている。はふぅ、と漏れた吐息がはっきりと蕩けていた。
いやむっちゃ堪能しとるやないか。
「もうミカエラさま、せっかくいいところだったのに!」
「普段からやめえて言いよったろうもんて!」
「えー、そうでしたっけ?」
「あの……ミカエラさん……その子、ライくん……だっけ?」
「あー。あんね、アルさん。気ぃ悪うせんのって欲しいっちゃけど」
「………………ハッ。あ、違、違うのよアル!この子は違うの!」
泣いて求婚までしてきた故国の王女に、実は侍従の恋人がいた。今のアルベルトに見えている状況を端的に説明すればそういう事になる。そのことに気付いてミカエラが申し訳なさそうに声を上げ、次いでレギーナが焦りまくった声を出す。
「ライはくさ、姫ちゃんが生まれたときからずーっと専属で仕えとったエトルリア王宮の侍童なんよ。やけんちょっと、色々と距離感のおかしかっちゃけど」
いや今のはさすがに、距離感がおかしいなどという表現で済ませていいとは思えないが。
「えっでも…………生まれた時から?」
「そう!そうなの!」
「子供にしか見えんめえばってん、よう見てん、この子の耳」
「……耳?」
言われてよく見ると、ふわふわサラサラのやや長めの亜麻色の髪の間からチラチラ見える、ライの耳の先が若干、というか明確に尖っている。
それは明らかに人間には見られない特徴で。
「ライは昔、大レギーナ様がまだ子供やった頃に拾ってきたハーフリングなんよ。こげん見えて、ヴィスコット家に仕えてもう40年以上経っとるとげな」
「そうなのかい!?」
どう見ても10歳から12歳ぐらいにしか見えないのに、まさかの歳上でした。
「えっ、でも、ハーフリング……?」
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