【更新中】落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる【長編】

杜野秋人

文字の大きさ
357 / 366
第六章【人の奇縁がつなぐもの】

6-47.サポートパーティ(1)

しおりを挟む


「インリー、あなた、蒼薔薇騎士団うちに入らない!?」
「…………は?」

 目を輝かせて歩み寄ったレギーナに両手を握られて、銀麗インリーが目をしばたたかせる。

「ほら、蒼薔薇騎士団うちって前衛私しかいないじゃない?」
「ええと……まあ、そうなのか?」
「だからずっと探してたのよ!前衛を任せられる白加護を!」

 蒼薔薇騎士団は黄加護のレギーナ、青加護のミカエラ、赤加護のクレア、黒加護のヴィオレの四人パーティである。
 前衛職は勇者でもあるレギーナのみで、それが強敵と対峙した際に明確な弱点となっているのは、アナトリアので血鬼戦や今回の蛇王戦で浮き彫りになった通りだ。蛇王との再戦に臨むためには彼女たち個々のレベルアップももちろんだが、前衛職を増やしてレギーナの負担を軽減することが必要だろう。
 それと同時に、蒼薔薇騎士団に欠けている白加護も必要だ。冒険者のパーティにおいて五人組が推奨されるのは、全ての魔力マナの加護を揃えて魔術的な死角を無くす意味がある。だからパーティにいない白加護を加えることも急務だと言える。

「あなたが加入してくれれば、蒼薔薇騎士団うちの問題は全部解決するのよ!」

 白加護はともかく、勇者パーティで前衛を任せられる人材となるとそう簡単には見つからない。しかも蒼薔薇騎士団の場合、加入させるのは見目麗しい女性に限っているため、尚更だ。白加護の前衛職という条件を満たしているアルベルトに加入しろと言い出さないのもそれが原因なのである。
 だが、銀麗であれば性別もクリアできる。実力も申し分ないし、そもそももう1ヶ月以上も行動を共にして、ある程度気心も知れているし問題は何もない。

「賛成」
「まあ、銀麗やったらウチも文句はないたい」
「条件的にはバッチリよね」

 レギーナの独断ではあったが、クレアもミカエラもヴィオレも異論はなさそうだ。というか、普段は感情の起伏が少ないクレアに至っては頬を上気させるほど喜んでいる。まあ彼女の場合は条件云々ではなく、モフモフが正式に仲間になる喜びのほうが大きそうだが。

「いやぁ……それは、ちょっと……」

 だが、意外にも朧華ロウファが難色を示した。

「朧華さま、何か問題でも?」
「うん、確かにこの子は特定のパーティに所属しているわけではないし、もう加冠もしたから、親の私が口を差し挟むことではないと承知しているんだけどね。ただ……」
「……ただ?」
「親が私であることが、問題なんだよ」


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


『いやーレギーナ氏、それはちょっと許可できないっす』
「なんでよマリー!」

 勢い込んで通信鏡で勇者選定会議本部に連絡したところ、担当受付嬢のマリーから即答で却下されてしまった。

モン 閃月シャンユェ氏は銀月インユェ氏の娘、つまり東方の“崑崙クンルン”の支配下にあるんすよ?それなのに選定会議が勇者パーティへの加入を認めてしまったら、崑崙アッチが絶対黙ってないっすよ』

 普段はあざなでしか呼ばないが、『閃月』とは銀麗の本名で、『銀月』は朧華の本名である。
 朧華の懸念は、東方の英傑の娘であり自らも将来の英傑候補である銀麗が、果たして西方の勇者のパーティに加入が認められるのか、その一点であった。
 そしてその懸念は、正しかったわけである。

 “崑崙クンルン”。
 西方世界には勇者の支援組織として、また勇者の国際的中立性を担保する存在として、勇者選定会議が存在する。同様に、東方世界にも勇者に相当する英傑の存在があり、英傑を物心両面で支える組織がある。それが崑崙だ。
 そして崑崙は、勇者選定会議とは組織の成り立ちも、在りようも違う。英傑を支援するというよりは、支配下に置いて管理し統制するのが崑崙という組織なのだという。

「だから言ったじゃないか、多分ダメだろうって。仮に西方の勇者選定会議とやらが加入を認めたところで、崑崙の方は支配下にある貴重な戦力を放出したりしないよ」
「そ、そんな……!」
「他の誰かならいざ知らず、この私の子だからね。崑崙もこの子が生まれた時から注目していたし、行方不明になった時点で大々的に捜索隊も組織されたらしいよ」

 東方世界は、西方世界と比べても広大であり、国の数も民族の種類も無数と言ってよいほど存在する。銀麗が行方不明になったのは華国の西側に広がる中央高原地帯であり、そこは数多の少数遊牧民族がひしめき合う地域だった。
 そこに住む遊牧民族は拠点となる土地を持たず、季節や天候に合わせて民族単位で旅をしながら暮らす人々だ。天幕ゲルと呼ばれる組み立て式の簡易家屋を携え家畜たちを追いながら、風の吹くまま気の向くままに、彼らは流浪の生活を続けている。
 そんな生活を送る彼らは、中央高原地帯に広がる高山帯や砂漠地帯を越えて東西の交易を担う隊商カールヴァーンを組んで生計を立てる者も多い。家畜と同様の貴重な労働力として、華国やリ・カルンなど大国では禁止されている奴隷を売買することも厭わない。

 銀麗が売られたのも、そうした少数民族出身の奴隷商人のひとりだった。華国で尊崇を集める虎人族の価値と危険性をよく知っていたその奴隷商人は、銀麗を買い取ったあと一目散に華国から離れた。そしてリ・カルンの北に位置する巨大な内陸湖である“央海おうかい”や大河の沿岸地域で、彼女を別の奴隷商人に売り飛ばしたのだ。
 高原地帯に無数に存在する少数遊牧民族の奴隷商人に売られたことで、崑崙は銀麗の足取りを一時的に見失った。捜索隊を組織し、ようやく手がかりを見つけた時には、彼女は奴隷商人に連れられて大河を越えたあとだった。その後、アナトリアでブニャミン・カラスに買われ、しばらく監禁されたあと勇者レギーナを襲撃したことで、ようやくその所在が知れたわけである。

「…………でも、その崑崙クンルンとやらは、ここまで私たちに一度も接触してきてないわ」
『勇者との交渉権は選定会議が独占してるっすからね。それに閃月氏⸺銀麗氏は、あくまでも蒼薔薇騎士団が案内人として雇っているっすから』
「……つまり、アルが蒼薔薇騎士団わたしたちと無関係だったなら、とっくに接触されているはず……ってことね」
『そっす。けどアルベルト氏自身が蒼薔薇騎士団の雇われの身っすからね。アルベルト氏と交渉しようとしたら、どうしたってレギーナ氏に接触しなきゃダメなんすよね』
「それに加えて、私が合流してからは崑崙にも報告して、この子に関しては一任してもらっているんだ」

 朧華に一任した以上、崑崙が直接的に接触してくることは今後もないはずである。そしてその朧華は現状、銀麗がアルベルトの個人奴隷のままであることを容認している。

「ええと、つまり……?」

 銀麗が個人所有の奴隷であることも、西方の勇者パーティと関わっている現状も、朧華が監督し把握していることを前提に崑崙は認めているということになる。だがそれでも、さすがに蒼薔薇騎士団への加入となると話が変わってくるだろう。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ
ファンタジー
十二の公爵によって統制された大陸の内、どの公爵にも統治されていない『東の地』 そこにある小さな村『リブ村』 そしてそこで暮らす少年剣士『クロト』。 ある日リブ村が一級魔物『ミノタウロス』によって壊滅させられる。 なんとか助かったクロトは力を付け、仲間と出会い世界の闇に立ち向かっていく。 ミノタウロス襲撃の裏に潜む影 最弱属性魔剣士の雷鳴が今、轟く ※この作品は小説サイト『ノベルバ』、及び『小説家になろう』にも投稿しており、既に完結しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...