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第六章【人の奇縁がつなぐもの】
6-47.サポートパーティ(1)
しおりを挟む「インリー、あなた、蒼薔薇騎士団に入らない!?」
「…………は?」
目を輝かせて歩み寄ったレギーナに両手を握られて、銀麗が目を瞬かせる。
「ほら、蒼薔薇騎士団って前衛私しかいないじゃない?」
「ええと……まあ、そうなのか?」
「だからずっと探してたのよ!前衛を任せられる白加護を!」
蒼薔薇騎士団は黄加護のレギーナ、青加護のミカエラ、赤加護のクレア、黒加護のヴィオレの四人パーティである。
前衛職は勇者でもあるレギーナのみで、それが強敵と対峙した際に明確な弱点となっているのは、アナトリアので血鬼戦や今回の蛇王戦で浮き彫りになった通りだ。蛇王との再戦に臨むためには彼女たち個々のレベルアップももちろんだが、前衛職を増やしてレギーナの負担を軽減することが必要だろう。
それと同時に、蒼薔薇騎士団に欠けている白加護も必要だ。冒険者のパーティにおいて五人組が推奨されるのは、全ての魔力の加護を揃えて魔術的な死角を無くす意味がある。だからパーティにいない白加護を加えることも急務だと言える。
「あなたが加入してくれれば、蒼薔薇騎士団の問題は全部解決するのよ!」
白加護はともかく、勇者パーティで前衛を任せられる人材となるとそう簡単には見つからない。しかも蒼薔薇騎士団の場合、加入させるのは見目麗しい女性に限っているため、尚更だ。白加護の前衛職という条件を満たしているアルベルトに加入しろと言い出さないのもそれが原因なのである。
だが、銀麗であれば性別もクリアできる。実力も申し分ないし、そもそももう1ヶ月以上も行動を共にして、ある程度気心も知れているし問題は何もない。
「賛成」
「まあ、銀麗やったらウチも文句はないたい」
「条件的にはバッチリよね」
レギーナの独断ではあったが、クレアもミカエラもヴィオレも異論はなさそうだ。というか、普段は感情の起伏が少ないクレアに至っては頬を上気させるほど喜んでいる。まあ彼女の場合は条件云々ではなく、モフモフが正式に仲間になる喜びのほうが大きそうだが。
「いやぁ……それは、ちょっと……」
だが、意外にも朧華が難色を示した。
「朧華さま、何か問題でも?」
「うん、確かにこの子は特定のパーティに所属しているわけではないし、もう加冠もしたから、親の私が口を差し挟むことではないと承知しているんだけどね。ただ……」
「……ただ?」
「親が私であることが、問題なんだよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『いやーレギーナ氏、それはちょっと許可できないっす』
「なんでよマリー!」
勢い込んで通信鏡で勇者選定会議本部に連絡したところ、担当受付嬢のマリーから即答で却下されてしまった。
『孟 閃月氏は銀月氏の娘、つまり東方の“崑崙”の支配下にあるんすよ?それなのに選定会議が勇者パーティへの加入を認めてしまったら、崑崙が絶対黙ってないっすよ』
普段は字でしか呼ばないが、『閃月』とは銀麗の本名で、『銀月』は朧華の本名である。
朧華の懸念は、東方の英傑の娘であり自らも将来の英傑候補である銀麗が、果たして西方の勇者のパーティに加入が認められるのか、その一点であった。
そしてその懸念は、正しかったわけである。
“崑崙”。
西方世界には勇者の支援組織として、また勇者の国際的中立性を担保する存在として、勇者選定会議が存在する。同様に、東方世界にも勇者に相当する英傑の存在があり、英傑を物心両面で支える組織がある。それが崑崙だ。
そして崑崙は、勇者選定会議とは組織の成り立ちも、在りようも違う。英傑を支援するというよりは、支配下に置いて管理し統制するのが崑崙という組織なのだという。
「だから言ったじゃないか、多分ダメだろうって。仮に西方の勇者選定会議とやらが加入を認めたところで、崑崙の方は支配下にある貴重な戦力を放出したりしないよ」
「そ、そんな……!」
「他の誰かならいざ知らず、この私の子だからね。崑崙もこの子が生まれた時から注目していたし、行方不明になった時点で大々的に捜索隊も組織されたらしいよ」
東方世界は、西方世界と比べても広大であり、国の数も民族の種類も無数と言ってよいほど存在する。銀麗が行方不明になったのは華国の西側に広がる中央高原地帯であり、そこは数多の少数遊牧民族がひしめき合う地域だった。
そこに住む遊牧民族は拠点となる土地を持たず、季節や天候に合わせて民族単位で旅をしながら暮らす人々だ。天幕と呼ばれる組み立て式の簡易家屋を携え家畜たちを追いながら、風の吹くまま気の向くままに、彼らは流浪の生活を続けている。
そんな生活を送る彼らは、中央高原地帯に広がる高山帯や砂漠地帯を越えて東西の交易を担う隊商を組んで生計を立てる者も多い。家畜と同様の貴重な労働力として、華国やリ・カルンなど大国では禁止されている奴隷を売買することも厭わない。
銀麗が売られたのも、そうした少数民族出身の奴隷商人のひとりだった。華国で尊崇を集める虎人族の価値と危険性をよく知っていたその奴隷商人は、銀麗を買い取ったあと一目散に華国から離れた。そしてリ・カルンの北に位置する巨大な内陸湖である“央海”や大河の沿岸地域で、彼女を別の奴隷商人に売り飛ばしたのだ。
高原地帯に無数に存在する少数遊牧民族の奴隷商人に売られたことで、崑崙は銀麗の足取りを一時的に見失った。捜索隊を組織し、ようやく手がかりを見つけた時には、彼女は奴隷商人に連れられて大河を越えたあとだった。その後、アナトリアでブニャミン・カラスに買われ、しばらく監禁されたあと勇者レギーナを襲撃したことで、ようやくその所在が知れたわけである。
「…………でも、その崑崙とやらは、ここまで私たちに一度も接触してきてないわ」
『勇者との交渉権は選定会議が独占してるっすからね。それに閃月氏⸺銀麗氏は、あくまでも蒼薔薇騎士団が案内人として雇っているアルベルト氏の個人的な奴隷っすから』
「……つまり、アルが蒼薔薇騎士団と無関係だったなら、とっくに接触されているはず……ってことね」
『そっす。けどアルベルト氏自身が蒼薔薇騎士団の雇われの身っすからね。アルベルト氏と交渉しようとしたら、どうしたってレギーナ氏に接触しなきゃダメなんすよね』
「それに加えて、私が合流してからは崑崙にも報告して、この子に関しては一任してもらっているんだ」
朧華に一任した以上、崑崙が直接的に接触してくることは今後もないはずである。そしてその朧華は現状、銀麗がアルベルトの個人奴隷のままであることを容認している。
「ええと、つまり……?」
銀麗が個人所有の奴隷であることも、西方の勇者パーティと関わっている現状も、朧華が監督し把握していることを前提に崑崙は認めているということになる。だがそれでも、さすがに蒼薔薇騎士団への加入となると話が変わってくるだろう。
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