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【レティシア5歳】
017.ではまた明日……明日!?
しおりを挟む「まあいいや。それで、叙爵式はいつがいいかな?」
「………は?」
「だから、叙爵式だよ。男爵位の」
そうだった。あの目録にしっかりと「男爵位の推薦状」って書いてあったんだった。
「いやそれは、謹んで辞た」
「あ、認められたからね叙爵」
「………は?」
「だから、陛下に正式に叙爵を許可されたんだよ。正式に名乗れるのは叙爵式後だけど、事実上君はもう“男爵”だ」
いやなにこの公爵仕事めっちゃ早いんですけど!?
「何を驚いてるのかだいたい分かるけど、この程度は“仕事”のうちにも入らないからね?僕はこの国に3人しかいない公爵のひとりで、国の要職に就いていて、陛下の弟なんだから」
そうでした。この人より地位の高い人を探すほうが難しいんでした。
「ていうか陛下も姪っ子の命を救ってもらったことを大層お喜びでね。早く叙爵させろ叙爵式で君に会わせろってうるさくてねえ」
「え゛っ!?」
「なんなら子爵でも伯爵でもいいぞとか言ってきてさ」
「いやいやいや!?」
「でもさすがに実家以上にしたら色々とまずいでしょ、って止めておいたから」
「うぁ………あ、ありがとう、ございます?」
何だろう、ありがた迷惑のはずなのに何故お礼を言う羽目になっているのか。
いくら考えてもアンドレにはさっぱり分からない。平穏な田舎町でののんびりスローライフ騎士生活は一体どこへ?
「で?もう一度聞くけれど叙爵式はいつがいい?」
「え、ええと…………お任せします……?」
「分かった。じゃあ明日ね」
「あ、明日!?」
「だってそのほうがルテティアとセーとの往復とか手間を考えたら都合がいいでしょ?会場は王宮でいいし準備も人員の手配も済んでるから」
「準備万端!?」
「というわけで今夜は公爵家に泊まって行きなさい。今日はもう遅いから」
「決定!?」
いや確かに首都に入ったのはもう陽が傾き始める時間帯だったけど!さっきの庭園だってもう空が茜色だったけど!だからって公爵家のお邸に泊まるとか、まともに寝られる気がしないんですが!!
「ではブザンソン卿、ボードレール卿、お部屋までご案内致します」
「いやもう貴族扱いですかセバスチャン殿!?」
「これは異なことを仰いますな。貴方様は元よりブザンソン子爵家のご子息で士爵でございましょう?」
士爵はアンドレが小隊長に昇進した際に叙爵された。とは言っても正規騎士の慣例みたいなものだったし、叙爵賞状を授与してくれたのも騎士団長だし場所はロアゾンの西方騎士団本部だった。だから爵位を受けたというよりは何か表彰された感が強く、今の今まですっかり忘れていたくらいだ。
ちなみに、ガリオンの地方騎士団では小隊長以上が役付きで士爵である。小隊長以下の騎士は見習いだろうと正規騎士だろうと貴族とは認められない。貴族の子息は多いが、扱いは全員が平民と一緒である。騎士団の中では、貴族家の当主でもなければ士爵位を受けて初めて貴族扱いをしてもらえるのだ。
そしてついでに言えば、平民出身であっても士爵に叙されれば貴族扱いしてもらえる。まあ当然のことではあるが。
ともかく、こうしてアンドレの男爵位の叙爵式と公爵家での一泊はなし崩しに決定してしまった。案内された部屋は客間だが案の定贅を極めたとしか思えないなんかすごい造りで、ベッドも天蓋付きのアンドレが見たこともない巨大なやつだった。一応、恐る恐る端っこに座ってみたもののアンドレの体重でもビクともしなさそうで、さすが金かけたベッドは違うなあ、と明後日の感心をしたものである。
そして肝心の寝心地だが、シーツをサラリと触っただけで『あ、これ寝そべっただけで爆睡するやつだ』と理解できるほどふっかふかだった。あの応接室の人をダメにするソファのベッド版、と言えば伝わるだろうか。
そしてこの後は公爵家の晩食に相伴するよう言いつけられているので、アンドレはうっかり寝落ちしてしまわないようにベッドから離れるしかなかった。
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