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本編
08.“不合格”
しおりを挟むはぁ…。やっとお昼食べられるわ…。
ということでやって来たのは、客人用の小食事室。普段は地方から王城に派遣される使者や、国々を渡り歩く行商人など、さほど身分の高くない客人のために昼食をもてなす部屋だということだけど。
何でも、ここを国賓をもてなす大晩餐室だと思え、とのこと。
あ、言ったのはもちろん逆三眼鏡オバサン。あいつホントいちいちウルサイわ~。
部屋に入るとすでに食卓に用意がしてあって、輝く銀の食器を見るだけでテンションが上がる。あたしまだ成人したばっかりだから正式な御披露目もまだだし、こういうちゃんとした食事の席にお呼ばれしたことないんだよねえ。
とはいえ、今はまだ食器が並んでるだけで料理も飲み物も来ていない。それはこれから給仕たちが運んでくるのよね♪
「殿下殿下!早く座りましょう!」
「おっ、おいコリンヌ」
上がったテンションそのままに殿下の手を取って食卓に駆け寄り、手近な所に座る。もちろんあたしは殿下の隣!
「はしたない!」
ピシャリ!
「ぁ痛あっ!?」
なっ!?テーブルクロスの下から膝叩かれた!?
唖然としていると食卓の下から這い出て来たのは…………アンタかーい逆三眼鏡!!なんでそんなとこに隠れてんのよ!?アンタの方が全然はしたないじゃないの!
「全く、席次はおろか着席の作法さえ守れないなんて。まさかこれほど駄目だとは」
「とか何とか大仰な言い方して!アンタも結局あたしを虐めたいだけなんでしょ!」
もうなんか色々我慢ならなくなって、とうとう大声で叫んでしまった。
「非を改めるどころかそのように大声で。淑女の何たるかも解らないのですか?」
「殿下ぁ~!このオバサン首にして下さいよ~!見てたでしょう今の!この人絶対あたしのこと嫌いなんですよぉ~!」
なんかブツブツ文句言ってるけど、構わず殿下に泣きつく。こうやって泣いて見せれば殿下は何でも言うこと聞いてくれるから、もうこれでこのオバサンもおしまいよ!
「……………いや、あのなコリンヌ」
「なんですかあ?」
「今のはそなたが悪い」
「…………え?」
え、今もしかして殿下に怒られてる?
「時間割を見ただろう、コリンヌ。そこにこの時間、なんと書いてあった?」
「え…………えーと……」
「今確認してみろ。『昼餐』と書いてあるはずだ」
言われて慌てて時間割を探すけど、ない。
あー応接室に置きっぱなだ!
「殿下の仰る通り。『昼餐』になっておりますわね」
そこへ嫌味ったらしく完璧令嬢が時間割をヒラヒラさせてくる。ひったくって見たら確かにそう書いてある、けど要は昼食のことでしょう?
「いいかコリンヌ。『昼餐』とは来賓を招いて催す正式な食事会のことだ。昼食なら『昼餐』、晩食なら『晩餐』という。正式な食事会、の意味は………分かるな?」
「まさか…………これも“王子妃教育”ってことですか………?」
「当然です。むしろ何故ただの昼食だと思えるのですか貴女は。王子妃となるからには当然、昼餐会や晩餐会のホスト役として来賓を饗さなくてはならないというのに」
殿下だけでなく、後ろから完璧令嬢にまで言われてしまって、もうどう返していいか分からない。
知らないわよそんなの!これから覚えるんでしょう!?
「その通り。これから始まる“王子妃教育”のカリキュラムの一環だからこそ、本日の“無料体験”に組み込みました」
逆三眼鏡オバサンまで冷たく言い放ってくる。
ということは、つまり。
「席次の確認、着席する順番、出される料理の内容と順番が饗す来賓に合っているかどうか、料理そのものに来賓に対する敬意と配慮がきちんとなされているかどうか。
さらには守るべき作法がきちんと守られているか、給仕や同席者に来賓に対する失礼な振る舞いがないか、適切な話題を選んで来賓を楽しませる事ができるか。
そうしたことを見極めるのが本日のこの『昼餐』の授業でしたが…………さすがに始める前から不合格だとは思いませんでした」
もしやと思ってテーブルの下に控えていて正解でしたわ、とか何とかオバサンが言ってるけど、もう耳に入らない。
それくらい今の一言がショックで。
「ふ、不合格………?」
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