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アリよりのアリ

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「じょ、女性同士でもなのですか!?」

 その時、会場のどこからか、若いご令嬢の声が飛びました。名も名乗らず、まだ一応は王太子である殿下のご許可も取らず、本来なら不敬として拘束されるべき罪過ですが。

「その通り!だ!」

 何だかよく分からない言い回しと、キラッキラの笑顔で殿下は肯定なさいました。令嬢を咎めることもなく、なんなら親指までグッと立てて。

「やった、やったわお姉様!」
「ええ!とうとう私達も認められる時がやって来たのね!」

 そして声を上げたご令嬢は、隣に立っていた歳上のご令嬢と手を取り合って喜んでいます。

 えっ待って?ということはこの方たち、もしかしてで?

「き、騎士団長!」
「副団長!」

 あっこちらでは、騎士団の団長と副団長がひしと抱き合っていますわ。えっもしかしておふたりも!?おふたりとも奥様もお子様もいらっしゃるわよね!?

 えっもしかして、わたくしが知らないだけで周りに結構いらっしゃるの!?

「あはははは」

 それを見て、殿下が楽しそうに笑っておいでです。

「ああ、だが、無理に人前で打ち明ける必要はないぞ諸君。恋は秘め事、すでに婚姻したり社会的地位を得ている者もいるだろうし、そうしたものを捨ててまで真実の愛に走ることもない。どうするかは、己が心に沿えばよい」

 ご令嬢カップルが声を上げたあたりから起こり始めたざわめきは、殿下のこのお言葉で一気に騒然となりました。
 それはそうでしょう、今まで当たり前に夫婦として、婚約者として、恋人として隣に立っていた人が、本当に自分を選んでいたのか、それとも心のうちを押し殺して偽っていたのか、確認しなくてはならなくなったのですから。

 ああ、でも。
 わたくしは心が無に染まる思いでその喧騒を見つめます。

 だってわたくしはたった今婚約を破棄された独り者。そして心に秘めていた殿方は殿下の隣に立っています。
 ああ、何だかもうどうでも良くなってきましたわ。もう公爵家おうちへ帰ろうかしら。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「本当に、それで良いのか」

 突然、大広間に響く朗々とした声。
 声の主が誰か分かった瞬間に、その場の全員が平伏いたします。男性は拝跪礼を、女性はドレスですので蹲踞そんきょ礼を。
 もちろんわたくしも、王太子殿下も、義弟も例外ではありません。

「皆、面をあげよ。楽に致せ」

 国王陛下のお許しを得て、その場の全員が立ち上がりました。
 陛下の後ろには王妃様のお姿もございます。

「して、王太子よ。気持ちは変わらぬか」

 どうやら陛下は、少し前から話を聞いておられたご様子。

「はい、変わりません。陛下のご期待を裏切る事になってしまいますが………」

 そこだけは殿下もわずかに顔を歪めます。今まで王子として、王太子として国費をかけて養育され期待されてきて、次代の国王として国に報恩せねばならぬのに、その責任と義務を放棄するということがどれほど無責任なことか、しっかりと自覚なさっておいでなのでしょう。
 散々バカだの残念だの心中罵ってしまいましたが、ちゃんとご自身のしでかしたことを理解なさっておいでのあたり、少なくともようです。

 えっ待って、じゃあやっぱりのもとでの告白カミングアウトだったってこと?それはそれで、うわあ。

「そうか………」

 陛下、心なしかお寂しそう。
 まあ無理もありませんわね。本来なら今夜の舞踏会が終われば正式にわたくしとの婚儀の日程を発表して、婚姻と同時に王位を譲位なさるはずだったのですもの。
 それがこんな事になってしまっては、また一から王太子の選定を始めなくてはなりません。選ばれるのは第二王子か第三王子か、はたまた王弟殿下かそのご長男か。いずれにせよ継承争いは避けられませんわね。第一王子殿下が王太子で、わたくしを婚約者としていたからこそ、誰もが文句なく従っていましたのにね。

「ま、過ぎた事を申しても始まらんな」
「ええ、そうですわね陛下」
「それよりも今は、我が子の見つけた真実の愛とやらを祝福してやらんとな!」
「ありがとうございます陛下!いえ父上!」
「お認め下さりありがとうございます陛下!」

 えっえっえっ?
 陛下まさかお認めになるの!?

「とりあえず法務卿」
「は」
「同性愛者の権利確立へ向けて、法整備を始めるように」
「はっ。明日より早速」

「えっ陛下も法務卿も受け入れるの早くない?」

 あっ思わず声に出てしまいましたわ!ヤバいですわ!





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