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林さんには、正直に話さないとしつこく何処までも質問攻めにされ、嘘をつくと見破られそうなそんな雰囲気があった。
その場でいい繕った友達の家に泊めてもらうという嘘も見破られてしまった。

「鍵が壊されたのは今回が初めてです。僕はこれ以上お金を持っていませんし、兄に関してはもう限界だと今回の事で思いしりました。警察には通報しない代わりに、今後兄とは連絡を絶ちます」

優は正直に今の気持ちを告げた。兄に何かしてあげたくとも、もう現金は一銭もない。次の給料が出るまで家賃も払えない。

林さんは「そうだね。多分君が一番わかっていると思う」といって、それ以上兄に関しての説教はしなかった。

林さんは10万円優に渡した。

これで急場をしのいで、アルバイトの給料が出たら、できるならお兄さんに居所が知られない場所へ引っ越した方がいい。もし無理なら、現金は持ち歩くか家には置かないで金融機関に預けなさい。

林さんはまるで優の父親でもあるかのようにそう言った。


けれど、ここへ来た時から優の心は決まっていた。

優は愛人契約を持ちかけてくれたゲイクラブの客の中西社長にお世話になるしかないと思っている。

半年間だけ我慢すればなんとか道は開かれるだろう。

社長はマンションをいくつか持っているといっていた。そこに半年間愛人契約をして住まわせてもらおう。

兄にももう関わらないようにする。もし工場が潰れたのならそれはそれで仕方のない事。他の職を探した方が兄の為になるに決まっている。

最初からそうしていれば、兄はこんな事にならなかったはずだ。
弟の家に泥棒に入るみたいな、そんな道理に反した事をする人間ではなかった。
母親は女手一つで僕たちを育ててくれた。道に外れるようなことがあれば、ちゃんと叱ってくれた。貧しくても正しく生きることはできるはずだと教えられ育てられたではないか。

お世話になった工場に忠義を果たすって任侠映画でもあるまいし、兄もやはりお人よしなのだろう。
これからは現実を、ちゃんと見てもらわなくてはならない。

弟が身体を売ってまで生きる手段を得ようとしているのだから、せめて犯罪には手を染めないで欲しい。

自分にできることはここまでだ。
兄の事は大事だが自分との連絡を絶つことで、兄にもっとしっかりと自分自身の事を考え、現実を見る目を養って欲しいと思った。
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