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第四話 戴冠式までの猶予
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◇ ◇ ◇
皇太子宮では、茶会の場に居た者たちが全て捕らえられ、広間に集められた。
くまなく皇太子宮に捜索の手が入ったが、アリアンは見つからなかった。
双子は自分たちのしたことにブルブルと震え、茶会の際に側にいた護衛騎士たちも顔色は真っ青だ。
そこへ皇帝が供を連れやってきた。
状況は既に伝えられているのだろう。双子等が集められている広間まで真っ直ぐに。
皇太子宮の皆が跪く中、双子たちは皇帝でもあり父でもある神にも等しい人が発する怒りを感じ、恐ろしさのあまり立ち竦んでしまう。
皇帝は黙ったまま双子の側まで近付くと、すらりと剣を抜き双子のうちの一人に振り下ろした。
「皇帝陛下っ! 御子ですぞ!」
「陛下! お静まりを!」
金属の鈍い音がして、双子の一人が処刑されたのだと周囲の者たちは思ったが、人の身体を斬ってもあんな金属音はしない。
剣は硬質なガラスのようなものに阻まれていて、双子には届いていなかった。
「……防御結界……」
誰かが驚嘆したように呟いた。
ほっとしたようにため息を漏らす者もいる。
「……アリアンの結界か。命拾いしたな」
剣を鞘に納めると皇帝は言った。
アリアンは処罰が下ることを見越して、移動魔法陣が発動する寸前に、防御結界を双子に張ったのである。
皇帝にしか知らされない秘中の秘がある。
皇帝を皇帝たらしめる、代々伝えられてきた知識は、戴冠式で帝冠を戴けば完成する。
先祖等が降りてくる日と時が、大司祭に託宣として伝えられ、日時を延期することは叶わない。
戴冠式直前の皇太子教育で半分の知識を得たアリアンに向けて、残りの半分を伝達しに降りてくるチャンスはただ一度。
三日後の戴冠式までに娘が戻らなければ──それは即ち彼女の死となろう。
半分とはいえ、知識を持ったまま只人になることは許されない。全か死か。そうして帝国の歴史は続いてきた。
秘儀が次代に伝わったあと、前皇帝の秘儀の記憶は失われるというが……
己が皇帝で無くなる未来が今はまだ描けない。
だがアリアンに伝達されるならば後悔は無い。幾度となく繰り返される娘の暗殺未遂に、とうとう決意した形ではあるが……
アリアンならば残った皇族を皆殺しにすることなく治世を敷くことだろう。
移動魔法陣がアリアンごと消失したことを知らされた。
戴冠式に間に合わないようにするならば、相当遠い地に飛ばされたに違いない。
現在も皇都を覆う結界は発現し続けていて、娘が生きていることが分かる。
「……この結界が、アリアンの意思ならば──三日だけ、待つ。移動魔法陣を作製した者を探し出し、移動ポイントを何としてでも聞き出せ。こ奴らに毒と魔法陣を渡した者を見つけ相応の罰を与えよ。たとえ皇族であっても躊躇うな。私が許可する。戴冠式の準備はそのまま進め、厳重に警戒せよ」
「畏まりました」
皇太子宮を離れた時、皇帝は一人の影を呼び寄せ耳打ちした。
「皇后も動き出したであろう。決して邪魔せず好きに動かしておけ。影に全力で事に当たらせよ」
皇后が動くということは即ちあのシャトリエ王国が動くということ──
影は好奇心を抑えきれぬまま答えた。
「御意」
皇都でもそれぞれの者が思惑を抱え動き出した──
皇太子宮では、茶会の場に居た者たちが全て捕らえられ、広間に集められた。
くまなく皇太子宮に捜索の手が入ったが、アリアンは見つからなかった。
双子は自分たちのしたことにブルブルと震え、茶会の際に側にいた護衛騎士たちも顔色は真っ青だ。
そこへ皇帝が供を連れやってきた。
状況は既に伝えられているのだろう。双子等が集められている広間まで真っ直ぐに。
皇太子宮の皆が跪く中、双子たちは皇帝でもあり父でもある神にも等しい人が発する怒りを感じ、恐ろしさのあまり立ち竦んでしまう。
皇帝は黙ったまま双子の側まで近付くと、すらりと剣を抜き双子のうちの一人に振り下ろした。
「皇帝陛下っ! 御子ですぞ!」
「陛下! お静まりを!」
金属の鈍い音がして、双子の一人が処刑されたのだと周囲の者たちは思ったが、人の身体を斬ってもあんな金属音はしない。
剣は硬質なガラスのようなものに阻まれていて、双子には届いていなかった。
「……防御結界……」
誰かが驚嘆したように呟いた。
ほっとしたようにため息を漏らす者もいる。
「……アリアンの結界か。命拾いしたな」
剣を鞘に納めると皇帝は言った。
アリアンは処罰が下ることを見越して、移動魔法陣が発動する寸前に、防御結界を双子に張ったのである。
皇帝にしか知らされない秘中の秘がある。
皇帝を皇帝たらしめる、代々伝えられてきた知識は、戴冠式で帝冠を戴けば完成する。
先祖等が降りてくる日と時が、大司祭に託宣として伝えられ、日時を延期することは叶わない。
戴冠式直前の皇太子教育で半分の知識を得たアリアンに向けて、残りの半分を伝達しに降りてくるチャンスはただ一度。
三日後の戴冠式までに娘が戻らなければ──それは即ち彼女の死となろう。
半分とはいえ、知識を持ったまま只人になることは許されない。全か死か。そうして帝国の歴史は続いてきた。
秘儀が次代に伝わったあと、前皇帝の秘儀の記憶は失われるというが……
己が皇帝で無くなる未来が今はまだ描けない。
だがアリアンに伝達されるならば後悔は無い。幾度となく繰り返される娘の暗殺未遂に、とうとう決意した形ではあるが……
アリアンならば残った皇族を皆殺しにすることなく治世を敷くことだろう。
移動魔法陣がアリアンごと消失したことを知らされた。
戴冠式に間に合わないようにするならば、相当遠い地に飛ばされたに違いない。
現在も皇都を覆う結界は発現し続けていて、娘が生きていることが分かる。
「……この結界が、アリアンの意思ならば──三日だけ、待つ。移動魔法陣を作製した者を探し出し、移動ポイントを何としてでも聞き出せ。こ奴らに毒と魔法陣を渡した者を見つけ相応の罰を与えよ。たとえ皇族であっても躊躇うな。私が許可する。戴冠式の準備はそのまま進め、厳重に警戒せよ」
「畏まりました」
皇太子宮を離れた時、皇帝は一人の影を呼び寄せ耳打ちした。
「皇后も動き出したであろう。決して邪魔せず好きに動かしておけ。影に全力で事に当たらせよ」
皇后が動くということは即ちあのシャトリエ王国が動くということ──
影は好奇心を抑えきれぬまま答えた。
「御意」
皇都でもそれぞれの者が思惑を抱え動き出した──
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