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3章 戸惑い
16話
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顔を見るなり平手打ちが放たれた。
受けたのが自分だったらどんなに良かっただろうと、真理子は思う。
かわすことはできたんだろうけど、志田は甘んじて真理子の母による平手打ちを顔に受けていた。
志田は少しよろめいたが、すぐに体を戻して、玄関前に陣取る母に向き合う。
(最低だ、この人……)
母の言動を10年以上見てきた真理子でもドン引き。
いったい何様のつもりなんだろう。普段は高圧的な母に対して恐怖で埋め尽くされていたが、今は怒りがこみ上げてくる。
自分ならいくら殴っても構わない。でも志田だけはダメだ。
「お母さん!!」
抗議しようと思って前に出ようとするが、志田に手で制止される。
「申し訳ありませんでした」
志田は体が折れ曲がるのではないかというぐらい、深々と頭を下げた。
対して母はきっと志田をにらみつける。
一発はたいても怒りは収まらないらしく、腕が上がり、今にも志田は再び殴りつけそうだった。
おそらく生真面目に対応されたのが気に食わないのだ。謝られると、今度は自分が許さないといけなくなる。でも、プライドがそれを許さない。
本当はその感情のまま殴りつけてやりたい。けれど、さすがに大人としてよその子供を一方的に殴るのは気が引けたようだった。
もしかすると、自分より体の大きい志田の反撃を恐れているのかもしれない。
「真理子さんは何も悪くありません。悪いのは全部俺です……」
「なれなれしく人の娘の名前を呼ぶな!!」
真理子の母が叫ぶ。
頭の中が怒りでいっぱいで、なんでもいいから攻撃を加えたいというのと、自分の大切な所有物である真理子に近づく者がいるのが許せない。
「くっ……」
真理子はひたすら悔しかった。唇をかみしめて血が出そうなくらい。
自分の友達が自分の代わりに、殴られ怒鳴られている。それに対して、自分は何もしてあげられない。
「ちっ」
真理子の母は舌打ちする。
志田が何も抵抗せず、言い返しもせず頭を下げているのが気に食わない。何かしてくれれば反撃できるのに。
「二度と真理子に近づくな!!」
しびれをきらせてそう言うと、思いっきり志田を突き飛ばした。
志田は受け身を取れず、尻餅をついて倒れる。
そして真理子の腕を引っ張り、家に入れようとする。
「志田くん!!」
真理子の声に志田は顔を上げた。
その顔には母によってつけられた手のひらのあとが、うっすら赤くついていた。
すぐに志田のもとに駆け寄りたかったが、母は強引に真理子を押しやり、ドアを閉めてしまう。
ガチャッと鍵を閉め、チェーンまでかけてしまう。
「なんでこんなこと……!」
感情がかつてないほどに高まり、今にもあふれそうだった。真理子は無意識に腕を振り上げ、母を殴りそうになっていた。
けれど、すぐに腕を下ろす。
(何やってんだ、私……)
そんなことをしようとした自分にショックを受ける。
人を殴ったら母と同じ。自分が心底嫌う人間と一緒になってしまう。
でも、嫌なのはそれだけじゃなかった。母には絶対に逆らっちゃいけないという心の奥底に根付いた意識が行動を止めていたから。
(ホント情けない……)
志田のために一発殴ってやりたかった。せめて口で罵ってあげるべきだったのかもしれないのに、自分は結局母には逆らえなかった。
真理子は逃げるように階段を駆け上がる。
「真理子!!」
母がその背に向かって叫んだ。
でも振り返ることなく、真理子は自分の部屋に飛び込んでドアを閉めた。そして自分の体をつっかえとして、背をドアに押しつける。
「真理子!! 出てきなさい!!」
ドアが激しく叩かれる。
その振動が背に伝わってきて恐怖を感じる。
さすがに手でドアを壊せるわけがないが、この母なら何か工具を持ってきて破壊してしまうかもしれない。
でも、母はしばらくしてからその場を去った。
単純に諦めたのか、少しでも良心が芽生えたのかはわからない。
受けたのが自分だったらどんなに良かっただろうと、真理子は思う。
かわすことはできたんだろうけど、志田は甘んじて真理子の母による平手打ちを顔に受けていた。
志田は少しよろめいたが、すぐに体を戻して、玄関前に陣取る母に向き合う。
(最低だ、この人……)
母の言動を10年以上見てきた真理子でもドン引き。
いったい何様のつもりなんだろう。普段は高圧的な母に対して恐怖で埋め尽くされていたが、今は怒りがこみ上げてくる。
自分ならいくら殴っても構わない。でも志田だけはダメだ。
「お母さん!!」
抗議しようと思って前に出ようとするが、志田に手で制止される。
「申し訳ありませんでした」
志田は体が折れ曲がるのではないかというぐらい、深々と頭を下げた。
対して母はきっと志田をにらみつける。
一発はたいても怒りは収まらないらしく、腕が上がり、今にも志田は再び殴りつけそうだった。
おそらく生真面目に対応されたのが気に食わないのだ。謝られると、今度は自分が許さないといけなくなる。でも、プライドがそれを許さない。
本当はその感情のまま殴りつけてやりたい。けれど、さすがに大人としてよその子供を一方的に殴るのは気が引けたようだった。
もしかすると、自分より体の大きい志田の反撃を恐れているのかもしれない。
「真理子さんは何も悪くありません。悪いのは全部俺です……」
「なれなれしく人の娘の名前を呼ぶな!!」
真理子の母が叫ぶ。
頭の中が怒りでいっぱいで、なんでもいいから攻撃を加えたいというのと、自分の大切な所有物である真理子に近づく者がいるのが許せない。
「くっ……」
真理子はひたすら悔しかった。唇をかみしめて血が出そうなくらい。
自分の友達が自分の代わりに、殴られ怒鳴られている。それに対して、自分は何もしてあげられない。
「ちっ」
真理子の母は舌打ちする。
志田が何も抵抗せず、言い返しもせず頭を下げているのが気に食わない。何かしてくれれば反撃できるのに。
「二度と真理子に近づくな!!」
しびれをきらせてそう言うと、思いっきり志田を突き飛ばした。
志田は受け身を取れず、尻餅をついて倒れる。
そして真理子の腕を引っ張り、家に入れようとする。
「志田くん!!」
真理子の声に志田は顔を上げた。
その顔には母によってつけられた手のひらのあとが、うっすら赤くついていた。
すぐに志田のもとに駆け寄りたかったが、母は強引に真理子を押しやり、ドアを閉めてしまう。
ガチャッと鍵を閉め、チェーンまでかけてしまう。
「なんでこんなこと……!」
感情がかつてないほどに高まり、今にもあふれそうだった。真理子は無意識に腕を振り上げ、母を殴りそうになっていた。
けれど、すぐに腕を下ろす。
(何やってんだ、私……)
そんなことをしようとした自分にショックを受ける。
人を殴ったら母と同じ。自分が心底嫌う人間と一緒になってしまう。
でも、嫌なのはそれだけじゃなかった。母には絶対に逆らっちゃいけないという心の奥底に根付いた意識が行動を止めていたから。
(ホント情けない……)
志田のために一発殴ってやりたかった。せめて口で罵ってあげるべきだったのかもしれないのに、自分は結局母には逆らえなかった。
真理子は逃げるように階段を駆け上がる。
「真理子!!」
母がその背に向かって叫んだ。
でも振り返ることなく、真理子は自分の部屋に飛び込んでドアを閉めた。そして自分の体をつっかえとして、背をドアに押しつける。
「真理子!! 出てきなさい!!」
ドアが激しく叩かれる。
その振動が背に伝わってきて恐怖を感じる。
さすがに手でドアを壊せるわけがないが、この母なら何か工具を持ってきて破壊してしまうかもしれない。
でも、母はしばらくしてからその場を去った。
単純に諦めたのか、少しでも良心が芽生えたのかはわからない。
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