女の子同士で気持ちよくなっちゃった私達…

SenY

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本編

第五章:泥沼の底で見つけた、柔らかな聖域

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 歌舞伎町の雑居ビル、その隙間から見える空は、いつだってドブ川みたいな色をしている。
 午前十一時。安っぽい遮光カーテンの隙間から差し込む光が、散らかった部屋の埃を照らし出していた。
 枕元で震えるスマホのバイブ音。画面を見なくても分かる。昨日の夜、店に行かなかった「担当」からの鬼電か、あるいはカードローンの督促メールだ。

「……あーあ、だる……」

 私、美希(みき)は、重たい身体を引きずるようにしてベッドから這い出した。
 二十四歳。職業、ソープ嬢。
 ここ一年、私の人生は完全にバグっている。
 きっかけは、友達の付き合いで行ったホストクラブだった。そこで出会った担当・レンの、「お前だけは特別だ」という甘い言葉と、作り物の笑顔。
 典型的なカモだと分かっていたはずなのに、寂しさと承認欲求の隙間に入り込まれ、気付けば私は彼の売上のために身体を売るようになっていた。

 でも、最近限界を感じていた。
 昼夜逆転の生活。客のおっさんたちの脂ぎった肌と加齢臭。そして、稼いだ金を握りしめて会いに行っても、結局は「ありがとう、愛してるよ」の一言で片付けられ、アフターすらなしで帰される日々。
 身体も心もすり減って、ボロボロだった。

 気晴らしに女性向け風俗――いわゆる出張ホストを呼んでみたこともある。
 来たのはジャニーズ系のイケメンで、テクニックも抜群だった。
 でも、終わった後に残ったのは強烈な虚無感だけ。
 『結局、男に金払って抱かれてるだけじゃん。私がレンに貢いでるのと、この男が私にしてること、構造は一緒だよね』
 そう思ったら、余計に惨めになった。
 男はもういい。疲れた。
 そんな時、ネットサーフィンの最中にふと目に入ったのが、『女性専用・レズビアン風俗』という文字だった。

 ――女の子同士なら、何かが違うんだろうか。
 魔が差した、というのはこういうことを言うのだろう。
 私はなけなしのヘソクリを切り崩し、そのサイトの予約フォームに指を走らせた。

 ***

 指定したのは、都内のシティホテルの一室。
 シャワーを浴びてガウンを羽織り、落ち着かない気持ちで待っていると、チャイムが鳴った。

「失礼します……。本日担当させていただきます、静(しずく)です」

 ドアを開けた先に立っていたのは、私の想像を裏切る女性だった。
 レズ風俗というから、てっきり宝塚の男役みたいなボーイッシュな人が来るのかと思っていた。
 けれど、静さんは黒髪のロングヘアが似合う、しっとりとした大人の美人だった。年齢は私より少し上くらいだろうか。柔らかそうなニットのワンピースが、彼女の曲線を優しく包んでいる。

「あ、どうも……美希です」
「ふふ、そんなに緊張しないでください。今日は美希さんのための時間ですから」

 静さんがふわりと微笑むと、部屋の空気が一瞬で浄化されたような気がした。
 男の人のような威圧感も、ホストのようなギラギラした演技臭さもない。ただ、凪いだ海のような安心感。

 ベッドに並んで腰掛けると、静さんは私の手をそっと握った。
 すべすべとした手のひら。指先まで手入れが行き届いている。

「手、冷たいですね。……お仕事、大変でしたか?」
「え……あ、まあ……」
「頑張り屋さんなんですね、美希さんは。手を見れば分かります」

 ただそれだけの言葉なのに、張り詰めていた糸がプツンと切れそうになった。
 男たちは私の手を握っても、「ネイル可愛いね」とか「指細いね」としか言わない。私の生活や、背景なんて見ていない。
 でも、彼女の言葉は、私の疲労に直接触れてきた。

「……まずは、リラックスしましょうか」

 静さんに促され、私たちはベッドに横になった。
 彼女の身体からは、ホワイトリリーの優しい香りがした。男の人の、あのムスクやタバコの混じった匂いとは大違いだ。

「キス、してもいいですか?」

 耳元で囁かれ、私は小さく頷いた。
 チュッ……♥
 唇に触れる感触は、羽毛のように軽かった。
 そして、柔らかい。
 男の人の唇はもっと硬くて、たまに髭が痛いけれど、静さんの唇はマシュマロみたいにふわふわで、吸い付くようだ。

「んっ……ぁ……♥」

 自然と声が漏れる。
 静さんの舌が、遠慮がちに、でも確実に私の舌を求めてくる。
 レロ……チュプッ……♥
 唾液が混ざり合う音さえも、どこか上品で甘い。

「美希さん、肌すごく綺麗……。触り心地がいいです」
「そ、そうかな……商売道具だから、ケアはしてるけど……」
「商売道具なんかじゃありませんよ。これは、美希さんだけの素敵な宝物です」

 静さんの手が、ガウンの紐を解き、私の素肌に触れる。
 ヒヤッとするのに、奥からじんわりと熱くなる。
 彼女の手は、決して痛くしない。
 鷲掴みにしたり、乱暴に揉んだりしない。
 壊れ物を扱うように、指の腹で優しく円を描くように撫でてくれる。

「んぅっ……そこ、くすぐったい……けど、気持ちいい……♥」
「ここ、凝ってますね。リンパ流しますね……」

 愛撫なのかマッサージなのか分からないような、とろけるようなタッチ。
 それが、疲弊した私の神経を一本一本ほぐしていくようだった。

 ガウンがはだけ、私の胸が露わになる。
 静さんはそれを神聖なものを見るような目で見つめ、そしてゆっくりと顔を埋めた。

「あっ♥ はぁ……っ、静さん、舌、やわらかいっ……♥」

 チュゥゥッ……♥
 乳首を甘噛みされ、舌先で転がされる。
 電気が走るような鋭い快感ではなく、お風呂に浸かった時のような、全身が芯から温まるような快感。
 包容力。そう、彼女のセックスには圧倒的な包容力があった。

 そのまま、彼女の手は下へと伸びていく。
 私が一番気後れしていた場所。毎晩のように見知らぬ男を受け入れ、酷使している場所。

「……汚いよ、そこ。あんまり見ないで」

 私が思わず足を閉じようとすると、静さんは首を横に振った。

「汚くなんてないです。一生懸命生きてる証拠でしょう?」
「っ……!」
「綺麗にしてあげますね。私の舌で」

 静さんが私の秘部に顔を寄せ、丁寧に、本当に丁寧に舐め上げてくれた。
 クンニなんて、客のおっさんにされたことはあるけど、ただベロベロ舐め回されるだけで不快なだけだった。
 でも、静さんは違う。
 クリトリスの位置、ひだの形、濡れ具合。すべてを確認しながら、一番気持ちいいリズムを探してくれる。

「ひゃうっ!?♥ そこっ、すごっ、ああっ♥」
「ここですね? 美希さんが感じるところ」
「うんっ、そこっ、静さんっ、上手っ……♥」

 ジュルッ、レロレロ……チュパッ♥
 水音が部屋に響くけれど、それは卑猥というより、どこか癒やしの音楽のように聞こえた。
 快感の波が押し寄せるたびに、心の中に溜まっていた黒い澱(おり)が、涙と一緒に溶け出していくような感覚。

「中、入れますね……」

 ちゅぷっ♥
 細い指が二本、私の中に入ってくる。
 男の人のゴツゴツした指とは違う。爪も短く整えられた滑らかな指が、私の内壁を優しくノックする。

「あぁっ、んあぁっ♥ やばいっ、気持ちいいっ、なんでっ、こんなにっ……♥」
「女の子同士だからですよ。どこがどうなったら気持ちいいか、私には全部わかります」

 静さんは私のGスポットを的確に刺激しながら、もう片方の手で私の髪を撫で、頬にキスをしてくれた。
 身体だけじゃない。心ごと抱かれている。
 その事実に気付いた瞬間、私は限界を迎えた。

「いくっ、イッちゃうっ! 静さんっ、抱きしめてぇッ!!♥」
「はい、ここにいますよ。イッていいですよ、美希さんッ!」

 ビクンッ、ビクビクビクッ!!♥
 私の腰が大きく跳ね上がり、静さんの指を締め付けた。
 脳が溶けるような甘いオーガズム。
 でも、それはただの快楽の絶頂ではなかった。
 「許された」という安堵感が、全身を駆け巡ったのだ。

 ***

 事後。
 賢者タイムのような冷めた時間は訪れなかった。
 静さんは、汗ばんだ私の身体をタオルで丁寧に拭いた後、後ろから優しく抱きしめてくれた。
 ピロートーク。男相手なら一番嫌いな時間。早く帰れよとしか思わない時間。
 でも今は、この温もりが離れていくのが怖かった。

「……美希さん、辛かったですね」

 静さんのその一言で、私のダムは決壊した。

「……うん……辛かった……」
「よしよし。もう大丈夫ですよ」

 彼女は赤ちゃんをあやすように、私の背中をトントンと叩いた。
 私は彼女の腕の中で、子供のように泣きじゃくった。
 ホストにハマって借金まみれなこと。
 身体を売るのが本当は死ぬほど嫌なこと。
 誰も私を人間として見てくれないこと。
 汚い言葉で、みっともない声で、全部吐き出した。

 静さんは嫌な顔一つせず、ただ「うん、うん」と聞いてくれた。
 そして、私の涙を指で拭いながら、彼女自身の目からもポロポロと涙を流していた。

「美希さんの痛み、私にも伝わってきます……。よく一人で耐えてきましたね。偉いです、本当に」

 一緒に泣いてくれるなんて。
 お金を払って呼んだ風俗嬢なのに。
 これは演技? 営業?
 いや、たとえ嘘でもいい。今の私には、この涙が何よりも温かかった。

「……静さん……」
「はい」
「また、会いに来てもいいかな」
「もちろんです。私はいつでも、美希さんの味方ですから」

 静さんが私の額にキスをする。
 その瞬間、私は確信してしまった。
 ヤバい。これはハマる。
 ホストなんて目じゃない。男とのセックスなんて比じゃない。
 ここには、私がずっと探し求めていた「本当の癒し」がある。

 帰り際、私は静さんに延長料金を含めた代金を渡した。
 財布は軽くなったけれど、ホストクラブを出た後のような虚しさは微塵もなかった。
 むしろ、明日からまた頑張ろうというエネルギーが湧いてくる。
 それは、彼女にまた会うために稼ぐという、新しい生きる目的だった。

 歌舞伎町のネオンが、少しだけ優しく見えた。
 私はスマホを取り出し、レンの連絡先をブロックリストに入れた。
 もう、偽物の愛はいらない。
 私には、あの柔らかな聖域があるのだから。

(第五章 完)
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