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大エレヅ帝国編
エステレアからの迎え
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研究所を出て噴水広場に戻ると、相変わらずエステレア人が何人かいて、どの人がそうなのか、違うのかわたしには判らない。ただ一人、青髪の艶麗なお姉さまの姿を見つけて釘付けになる。
するとそのお姉さまがこっちを見て、にこりと微笑むとわたし達の前へ歩いて来た。
「お待たせしたようね。お迎えに上がりましたわ」
はんなりとした、同性のわたしでも惹かれる声と口調だった。
「いや、よく来てくれた。紹介しようエイコ。彼女はシゼル。おれ達を迎えに来てくれた待ち人だ」
「よろしくね。お話はうかがってますわ。エステレアまで貴方のこと、しっかりお守りするから任せてくださいな」
すごく近くでわたしを見る綺麗なお姉さまに緊張して、すっかりあがってしまう。
「エイコです。よ、よろしくお願いします」
「もちろんよ。殿方二人に囲まれて不便な事もあったでしょう。これからは、何でも私に言ってよろしいのよ」
「ありがとうございます…」
優しそうな人で良かった。
シゼルは薙刀に見える武器を持っている。綺麗で強いなんて羨ましい。彼女を羨望の眼差しで見ていると、これからの事について話し合いが始まったので意識を移した。
「ではこのまま出発するが、その前にシゼルは何か調達する物はあるか?」
「ありませんわ。早く立ちましょう。用のない場所に長居する理由はなくってよ」
「相変わらず見た目と中身の乖離が…」
「あらオージェ、何かおっしゃって?」
「いいえ」
ーーとうとう、お別れか。
何とも言えない想いがわたしにのし掛かる。でも最初から分かっていた事だ。
ウラヌスとオージェのおかげでここまで来られた。二人の献身には本当に感謝してもしきれない。ここから彼らは、ようやく本来の目的に集中出来るんだ。
こっそりウラヌスとオージェを見つめて、二人を想うと、意外にもわたしの中の波立ちは収まっていく。
(……うん、心から、二人の旅の幸運を祈れる。探している人が見つかりますようにって、言える)
その事実に安心した時、ウラヌスがついに出発を決めた。ーーわたしの手を取って。
(え? ここでお別れじゃ、ないの)
その疑問が思わず口を突いて出る。
「ウラヌス? 外まで見送ってくれるの」
「……は?」
返って来たのは、何故か意表を突かれたといわんばかりの表情だった。
「え……? ここでお別れじゃ……」
言葉を重ねると唖然とされる。それから少しして、急に合点がいった様子で説明してくれた。
「いや、エイコ。おれ達も一緒にエステレアに帰るんだ。お別れじゃない、置いて行かないでくれ」
「え! だ、だって……」
「ん?」
「……探してる人が、いるって……」
消え入りそうになった声。また少しの間があったから、聞こえなかったのかもと思った。でもウラヌスはちゃんと拾ってくれたようで、何かを言おうと形の良い唇が開く。
交差した視線。青空が真っ直ぐわたしを見ていた。
「ーー多分、もう……見つかった」
そのたった一言が、この心臓を氷に晒したような心地に落とす。
「そ……そうなんだ」
どうして、こんな気持ちになるの。たった今わたしは、二人の幸運を祈れると確信したばかりなのに。
苦しい。何かを口走って、ぶつけてしまいたい。
これじゃわたし、まるでその誰かを……妬んでるみたいだ。
「そーいうこと。だからさ、一緒に船旅だよ~。嬉しいね、エイコ」
「気持ちの強要は良くありませんわ」
「シゼル、どういう意味?」
オージェの明るい声に少し気持ちが浮上する。そうだ、まだ一緒にいられる。
(ーーあれ、わたし、悲観してばかりだった?)
唐突に気付いて、わたしなりの衝撃が走る。いつからだったんだろう。ウラヌスとオージェの事になると、後ろ向きで悩んでばかりだったかもしれない。ああ……そうだった気がする。
違う。もっとーー幸せに目を向けたい。
そう思い直してウラヌスに視線を戻すと、彼はその瞳に優しい温もりを灯して。
「エステレアまで一緒だ。一緒に、行こう」
優しい誘いに、わたしはしっかり頷いた。そして思う。
この恩を何か返せたらって。
この時間が限りあるからっていじけるんじゃなくて、明るい未来を想像したい。
そのためにはまず、この不安定な足場をしっかりさせなきゃいけない。皇子様に逢って、この世界に呼ばれた理由を知って、自立して。
そうしたら……ウラヌスとオージェに恩返しがしたい。お荷物のわたしを見放さずに、ずっと傍にいてくれた人達。神様みたいな二人。
(わたしに何が出来るかな)
まだ何も、分からないけれど。きっと何か出来る事があるはず。
それから二人と本当の話がしたい。記憶喪失のわたしじゃなくて、異世界から来たわたしで、ウラヌス達と話したい。向き合いたい。
(それが出来たら、ウラヌスとオージェの事も教えてもらいたいな。どんな所で育って、どう生きて、ううん……もっと些細な事でも良いの。だってわたし、二人の好きな物一つ知らないもの。でもまずは自己紹介をやり直したいな。わたしの名前はーー)
野々咲エイコです、って。
するとそのお姉さまがこっちを見て、にこりと微笑むとわたし達の前へ歩いて来た。
「お待たせしたようね。お迎えに上がりましたわ」
はんなりとした、同性のわたしでも惹かれる声と口調だった。
「いや、よく来てくれた。紹介しようエイコ。彼女はシゼル。おれ達を迎えに来てくれた待ち人だ」
「よろしくね。お話はうかがってますわ。エステレアまで貴方のこと、しっかりお守りするから任せてくださいな」
すごく近くでわたしを見る綺麗なお姉さまに緊張して、すっかりあがってしまう。
「エイコです。よ、よろしくお願いします」
「もちろんよ。殿方二人に囲まれて不便な事もあったでしょう。これからは、何でも私に言ってよろしいのよ」
「ありがとうございます…」
優しそうな人で良かった。
シゼルは薙刀に見える武器を持っている。綺麗で強いなんて羨ましい。彼女を羨望の眼差しで見ていると、これからの事について話し合いが始まったので意識を移した。
「ではこのまま出発するが、その前にシゼルは何か調達する物はあるか?」
「ありませんわ。早く立ちましょう。用のない場所に長居する理由はなくってよ」
「相変わらず見た目と中身の乖離が…」
「あらオージェ、何かおっしゃって?」
「いいえ」
ーーとうとう、お別れか。
何とも言えない想いがわたしにのし掛かる。でも最初から分かっていた事だ。
ウラヌスとオージェのおかげでここまで来られた。二人の献身には本当に感謝してもしきれない。ここから彼らは、ようやく本来の目的に集中出来るんだ。
こっそりウラヌスとオージェを見つめて、二人を想うと、意外にもわたしの中の波立ちは収まっていく。
(……うん、心から、二人の旅の幸運を祈れる。探している人が見つかりますようにって、言える)
その事実に安心した時、ウラヌスがついに出発を決めた。ーーわたしの手を取って。
(え? ここでお別れじゃ、ないの)
その疑問が思わず口を突いて出る。
「ウラヌス? 外まで見送ってくれるの」
「……は?」
返って来たのは、何故か意表を突かれたといわんばかりの表情だった。
「え……? ここでお別れじゃ……」
言葉を重ねると唖然とされる。それから少しして、急に合点がいった様子で説明してくれた。
「いや、エイコ。おれ達も一緒にエステレアに帰るんだ。お別れじゃない、置いて行かないでくれ」
「え! だ、だって……」
「ん?」
「……探してる人が、いるって……」
消え入りそうになった声。また少しの間があったから、聞こえなかったのかもと思った。でもウラヌスはちゃんと拾ってくれたようで、何かを言おうと形の良い唇が開く。
交差した視線。青空が真っ直ぐわたしを見ていた。
「ーー多分、もう……見つかった」
そのたった一言が、この心臓を氷に晒したような心地に落とす。
「そ……そうなんだ」
どうして、こんな気持ちになるの。たった今わたしは、二人の幸運を祈れると確信したばかりなのに。
苦しい。何かを口走って、ぶつけてしまいたい。
これじゃわたし、まるでその誰かを……妬んでるみたいだ。
「そーいうこと。だからさ、一緒に船旅だよ~。嬉しいね、エイコ」
「気持ちの強要は良くありませんわ」
「シゼル、どういう意味?」
オージェの明るい声に少し気持ちが浮上する。そうだ、まだ一緒にいられる。
(ーーあれ、わたし、悲観してばかりだった?)
唐突に気付いて、わたしなりの衝撃が走る。いつからだったんだろう。ウラヌスとオージェの事になると、後ろ向きで悩んでばかりだったかもしれない。ああ……そうだった気がする。
違う。もっとーー幸せに目を向けたい。
そう思い直してウラヌスに視線を戻すと、彼はその瞳に優しい温もりを灯して。
「エステレアまで一緒だ。一緒に、行こう」
優しい誘いに、わたしはしっかり頷いた。そして思う。
この恩を何か返せたらって。
この時間が限りあるからっていじけるんじゃなくて、明るい未来を想像したい。
そのためにはまず、この不安定な足場をしっかりさせなきゃいけない。皇子様に逢って、この世界に呼ばれた理由を知って、自立して。
そうしたら……ウラヌスとオージェに恩返しがしたい。お荷物のわたしを見放さずに、ずっと傍にいてくれた人達。神様みたいな二人。
(わたしに何が出来るかな)
まだ何も、分からないけれど。きっと何か出来る事があるはず。
それから二人と本当の話がしたい。記憶喪失のわたしじゃなくて、異世界から来たわたしで、ウラヌス達と話したい。向き合いたい。
(それが出来たら、ウラヌスとオージェの事も教えてもらいたいな。どんな所で育って、どう生きて、ううん……もっと些細な事でも良いの。だってわたし、二人の好きな物一つ知らないもの。でもまずは自己紹介をやり直したいな。わたしの名前はーー)
野々咲エイコです、って。
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