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世界救済編

在るべき場所へ■した汝は

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「ねぇ、どうしてマオはあの生物を殺したのかな。なのに…わたし達には全然興味がなかったよ」

 答えてくれたのは隣にいたウラヌスだった。

「おそらくだが……偶々巨体がやつの目に留まり、目障りだったのだろう。そして偶々、おれ達を気に留めなかった。マオはそういう……気まぐれな生き物と聞く」
「たまたま、って……」
「実はマオに遭遇したからといって、必ずしも殺される訳ではない。長い時間側にいても、一切の怪我なく生還した者もいる。かと思えば、出会い頭にやられた者もいるんだ。……つまりやつの行動理念など、人には理解出来ないのさ」
「……そんな……」
「傍若無人な地上の王。それがマオだ」

 どうやらマオは、わたしが思っていた以上に危険な存在だったらしい。
 沈み込むルジーの肩をウラヌスがぽんと叩いた。

「まぁ、無責任な事はあまり言えないが……今は無理でも、未来は分からないさ。真面目に鍛錬を重ね、研鑽を積めばいつか……あれを倒せる日も来るかもしれないぞ」
「…………そうだな!!」

 根が明るいルジーの復活は早かった。

「修行しながら金を稼げば良いんだ! 傭兵だ!!」

 拳を突き上げるルジーを仲間達が囃し立てる。彼らしい前向きな姿に思わず微笑みがこぼれた。
 そんな中、逆境の中でもたくましい民の姿に、ローダーがひっそりと拳を握り締めているのを見つけてしまう。わたしが見ているのに気付いた彼は、バツが悪そうに顔を逸らした。

(その気持ちだけでも、民は救われてるんじゃないかな……)

 かつての穀倉地帯は見捨てても、決して自分達まで見捨てたわけじゃないと、村の人達が感じているのは明らかだったもの。

「……さて、では、そろそろ旅を再開しようか。だがその前に……」

 ウラヌスの一言にみんなが注目する。視線を引き付けた彼は、ある意味でマオ以上の不気味さに、誰も口にしなかった事を話題に上げた。

「あの生物は何だったんだ?」

 地中に棲む巨大な魚。結局その正体は誰も知らなかったのだ。

「ま~たエレヅ皇帝が秘密裏に研究してる、とかじゃないよなぁ……?」

 オージェの皮肉をローダーは堂々と否定した。

「侮るな。確かに父上はキメラ研究をしておられるが……あくまで堅牢な地下研究所ならではのこと。善良な民の側で枷もなく、危険生物を飼うものか」
「ま、そうよね……やり方はともかく、自国想いは事実だ。失礼した」
「でもそれなら、エレヅ人すら知らない、いよいよ未知の生物ということになりますわね。……私達、新発見の第一人者、ということかしら? エレヅから表彰していただかなくては」

 好き放題言っているシゼルにふと思い浮かぶ。

「新しく生まれた生物、とか?」

 今度はみんなの視線が、訝しむ眼差しがわたしへ送られる。

「誰も知らないなら、まだ生まれて歴史の浅い命だったり……なんて言ったら良いのかな。……この地に適応した、新種が誕生した。人でもアザーでもない、既知のどんな生き物とも違う……強い生命体が」

 何気なく思いついた事を述べただけのつもりだった。だけど仲間達の表情は険しくて、晴れない。
 そんなに変な事を言ったつもりはない。
 その反応が理解出来なくて、逆にわたしが眉を顰めそうになった時だった。言い回しを考えているといった様子で、歯切れ悪くウラヌスがわたしに問う。

「それは、つまり……人とアザーに次ぐ、あるいは……上回る生物が、誕生したと言いたいのかい?」
「……!!」

 それは……。

「……だとしたら、大変な事になるな。この先どこまで増えるか、棲息範囲を広げるか、判らない。どんな進化を遂げるかさえ」
「……あ、ごめ、わたし、縁起でもないことを……。ちょっと思いついただけだから」
「いンや。異界人の見解は馬鹿に出来ないね~……。たとえオレ達が知らなかっただけで、既存の生物だったとしても危険に変わりなし。……どうするよ。マジで戦争やってる場合じゃねーや」

 そこでルジーが名乗りを上げた。

「オレが村長に言うよ! 国に報告してくれって」

 でもその提案に良い反応を示す人はいなくて、ローダーが抑揚のない声で告げる。

「それは止めぬが、今は戦時。……お前の村ならともかく、見捨てた辺境の地を構うことは、ないだろう」
「…そ、そんな……あんな危険生物だってのに! 戦争やってる場合じゃないって、オージェも言ったじゃないですか!!」
「ルジー、たとえそうであっても、今さらエレヅは剣を下ろせない。世界のためと大義を掲げ、戦いを始めたのは彼らだ。むしろ下手に知らせて、皇帝が生物兵器にと企んだら危険だ。今は……先を急ごう。戦争を終わらせれば、おのずとその余裕も出てくる」
「ウラヌス……」
「また一つ、急ぐ理由が増えたな。ではそろそろ行こう。まだ山も登らなければならないからな」
 
 急ぐっていうのに先は長過ぎる。途中で見た、一際大きく隆起した場所もまだだ。
 まだまだ長い時間を、緊張状態のまま過ごさなければならない。
 どうして鳥さえ飛ばないんだろう。
 その意味を考えては進めなくなる恐れに、わたしは疑問へそっと蓋をした。
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