CROWBAR〜あだ名死神の主人公が本当に死神になったとしたら?〜

さしみ

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日常には、必ずいじめもある

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机に広げられるカラフルな水性ペンや、紙すぐたち。神一郎はいつもの癖で、眼鏡のブリッチに手をやった。
『死神キエロ』
と、雑な字で大きく書かれたそれは、書いた人の感情が直に伝わってくる。
僕は、如月学園高校1年31番、不死原(ふじわら)神一郎(しんいちろう)だ。死神というのは、名前に死と神が入っているからと、つけられたあだ名だ。
この学校には、4ヶ月ほど前に入学したばっかりだけど、こんな状況だ。泣きたい。
神一郎は、静かに机の上に雑巾をのせる。なかなか消えない文字は、自分の今を示しているようだ。学校に溶け込めずに、薄っすらと存在する俺は、いったい何を活力に生きているのだろうか。そんな、疑問が頭を巡る。
消えない字は、仕方がないので残すことにした。授業に支障はきたさないだろう。

そして、時間は過ぎ放課後になった。
「じゃあ、死神くん、掃除ひとりでよろしく」
複数の人が、神一郎にホウキを押し付けた。
「いつもありがとーね、死神様」
彼らは神一郎をあざ笑う。教室にいる人は、その光景をただ傍観していた。誰一人、彼らを制裁する人はいない。
まぁ、仕方がない。俺は困ってる人はほっとけない人間だ。彼らにも彼らなりに事情があるかもしれない。それに、自分がやらなかったら彼らが何するかわからないし、他の人が犠牲になるかもしれない。それは絶対に嫌だ。
神一郎は、黙ってホウキを手に取った。
「いつもほんとにご苦労さん、感謝感謝。じゃあ」
そう言い捨てて、彼らは教室をあとにした。
神一郎は、彼らに悪態も陰口すらもたたかなかった。周りで見てる人は、逃げ出すように教室から出ていく。
俺は、笑顔で掃除を始めた。
掃除をするのは、案外好きなのだ。
教室のホコリを集めて、黒板を綺麗にしていった。チョークの粉が眼鏡やブレザーに付いて、その部分が少し白くなる。全部の仕事を終えたあとに、眼鏡を拭きブレザーをはたいた。ブレザーの汚れはなかなか取れないので、脱いでからやればよかったと後で後悔した。ほんとに、馬鹿すぎる。
掃除があらかた終わったので、神一郎は大きなゴミ袋をしばり、プラットフォームへ運んだ。
「よいしょっと」
プラットフォームにゴミ袋を投げ入れた。そして、手についたホコリをはらい、その場を去ろうと歩みを進めた。そこに、一匹の黒猫が現れた。透き通るような黒毛に、宝石のように輝く琥珀色の瞳。間違えなく、知っている猫だった。
「あー!水無月だめじゃないか!また、学校に忍び込んだりして、保健所に連れてかれたらどーするんだ」
黒猫はそんなことお構いなしに、自分の毛づくろいをしている。この黒猫は、通学路の近くの公園にいる野良猫だ。
俺が勝手に水無月ってよんでる。
「もー、仕方ないな。今からコンビニでミルク買ってくるから、おいで」
黒猫は神一郎の胸に飛び込んだ。神一郎は黒猫の首を優しくかきながら、学校をあとにした。

コンビニで牛乳を手に取り、会計を済ませる。店員は、いつも神一郎が牛乳を買いに来ることをわかっているからか、何も言わずに袋に牛乳を入れてくれた。そして、レシートを握りしめた。
いや、レシートいつもいらないって言ってるからって、目の前で握りしめられると、なんか悪いことした気分になるから、やめてほしいな。
神一郎は眼鏡のブリッチに手をやり、コンビニをあとにした。
外に出ると、黒猫は車止めの上で大きなあくびをしていた。
神一郎が出てくるのを確認すると、なんの躊躇もなくあとをついてくる。
「水無月、もう学校に来るのは駄目だぞ。見つかったらどうなるか、わかんないからな」
聞いているのかわからないが、神一郎は黒猫に語りかける。今日の出来事を楽しそうに話すその姿は、なんとも仲睦まじい。しかし、周りからしたら変な人。友達にバレたら一般の人は恥ずかしいだろう。でも、神一郎にはそんなこと関係なかった。だって、数少ない本当の友達と呼べるものだったから。
俺は中学の時からいじめにあっていて、友達と呼べる人間は無に等しい。小学生のときは友達の一人や二人はいたけど、そんな小学生の交友関係なんてめったに続くことはない。案の定、続いてない。こんな、寂しい俺の心を埋めてくれたのが、この水無月という黒猫だ。
そうこうしているうちに、一同はいつもの公園についた。神一郎は、鞄からゴム製のコップを取り出し、そこに牛乳を少し流し込んだ。そして、黒猫が飲みやすいように、少し傾けながら黒猫の口元に運ぶ。
黒猫は美味しそうに、ぺろぺろと牛乳を飲んでいる。
猫の食事のシーンって、なんかほっこりしていいんだよな~。水無月は、毛並みもきれいだし、琥珀色の瞳は光が当たるとキラキラと輝いて見える。
神一郎は、そっと黒猫の背中をさすった。
食事を終え、黒猫は大きく伸びをした。そして、鳴き声を一つ漏らしてその場を去っていった。
「ほんと、気まぐれだな。まぁ、明日もここ来るし、次は何の話しようかな」
神一郎は、ささっとコップを洗い、家路へと向かった。

「ただいま」
家に帰ると、妹が玄関に小走りしてやってきた。神一郎はその姿を見て、優しく妹の頭をなでる。妹は嬉しそうに笑って、リビングに向かった。
神一郎は荷物をおろして、まず、洗面所でしっかりと手洗いを済ませる。そして、リビングへと足を運ぶ。
そこには、夢中でテレビアニメを見る妹の姿があった。妹は今年で中学デビュー。何かに夢中になるのはいいことだが、少しくらい会話をしてくれてもいいと思う。かなしい。まぁ、妹はもともと無口なのでいつもと変わらないのだが、お兄ちゃん的にはもっとお話したい。
その悲しさを胸に、神一郎は台所で料理をし始めた。
神一郎の親は小さい頃に亡くなっており、今はおばさんの家に留めてもらっている。そのおばさんは、ある別荘でこもって仕事をしているので、めったにこの家に帰ってくることはない。前になんの仕事をしているか尋ねたが、明確には教えてもらえなかった。自分もそこまで気にならなかったし、お世話になってる身なので、そこまで変に言及はしなかった。
ほんとに、おばさんはなんの仕事してるんだろう。言えないほど恥ずかしい仕事なのか、それとも危険な仕事なのか、、、。
「きょうは、神一郎がごはん?」
妹の発言に、思わず眼鏡が曇る。妹の語彙が不足して、今日はお前が獲物?みたいなバイオレンスな雰囲気につつまれてしまった。(俺だけ)
「楓、今日は家政婦さんはお休み!できたら教えるから、もうちょっと待ってて」
楓はコクリと頷き、またテレビを見始める。
いつもなら、おばさんが雇った家政婦さんが家事をしてくれるのだが、今日は家政婦さんの息子が風邪ひいたとかで、今日は俺の担当。その日は二人で仲良く食卓を囲んだ。




そして、俺はまだ知らなかった。このほのぼのとした日常に終止符を打たれることを…。
   
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