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落とした10円が100円になることもある

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学校らしき建物の前の道には多くの人でごった返している。同じ制服を着ているので、学校の場所は確定したと言えるだろう。
水無月によると、学校関係者にジル・ネライダの名前を出して、教室に案内してもらう事になってるらしい。けれど、この人数で先生らしき人を探すのは至難の業かもしれない。先生かと思ったら学生とか、一般人だっときの恥ずかしさは、溜まったもんじゃない。いや、やったことないけどね?いや…ないよ?ほんとほんと!店員と間違えて知らない人に話しかけたことなんて、ないから。
そんな脳内会議をしているさなか、目の前に重そうに荷物を抱えたご老人が歩いていた。相当重いのか、あと少しで腰が90度に曲がりそうだ。
神一郎は、何も躊躇することなくご老人に近づいた。
「大丈夫ですか?よかったら、荷物持ちますよ?」
驚いたのか、ご老人の眉が一気に上がる。けれど、ご老人は髪の毛や髭がかなり長めで、ほんとに眉が上がってるのか定かではない。
神一郎は、ご老人の返事を待つことなく、荷物を持った。少し楽になったのか、ご老人の顔は少し晴れやかだ。たぶん。けれど、重い荷物を長時間持っていたせいか、顔には疲労のあとが見える。
仕方がない、俺だって頑張るときは頑張る。
神一郎は、荷物を前に背負って、ご老人をおんぶした。
これで、かなり楽になるだろう。
「どこに行きたいんですか?連れていきますよ」
「ほほほ。この学校にこんなにいい眼鏡くんがいたんだねぇ~、うれしいねぇ~」
「眼鏡は余計です…、言っても、今日から学校行くんですけどね」
「あー、そーなのね~。君みたいな人が入ってくれると、嬉しいねぇ~」
ゆったりと話すご老人からは、とても優しいオーラを感じる。少し胸の奥がきゅっとした気がした。

「ここでいいよ、ありがとーねぇ~」
「いえいえ、こっちが勝手に手伝っただけなので、おじいさんとの話楽しかったですよ」
「そう言ってもらえてうれしいねぇ~、ありがとねぇ~」
おじいさんはニッコリと笑った、気がした。相変わらず、髭やらで顔の表情が読み取りにくい。
「お礼にこれをあげようかな~、君の目の色と同じ指輪だよ~」
手に載せられたのは、真珠のような光沢を放った、特殊な指輪だった。光に当たると、七色に光っているように見えて、とてもきれいだ。
「こんな貴重そうなものをもらっていいんですか?」
「いいんだよ~、お礼だからもらってねぇ~、眼鏡くんの役に立つと思うよ~」
変なあだ名をつけるのはやめていただきたいが、ありがたく指輪をもらった。それを右手の中指にはめる。中指にはめた理由としては、右手の中指は自分を守るというジンクスを前にネットで見たからである。どうせ付けるなら、意味を持ってる指につけようと思ったのだ。単純!
そして、おじいさんと別れの挨拶をし、学校へとまた、歩みだした。
さっきまで大勢の人で騒いでいた学校前には、ほとんど人はいなくなっていた。
やばいやばい、初日から遅刻は悪目立ちする。一刻も早く、先生をさがさねば。
小走りになりながら、辺りを見渡していく。すると、門の前で凛々しく立っている人が見えた。けれど、先生かどうかはまだ自信がないので、ちゃんと確認をとった。
「あの、ここの学校の先生ですか?」
「何を馬鹿なことを、入学式で紹介されてただろ」
いや、知らないんですけども。今日、初めて来るんですけど。怒んなくてもいいじゃんよ。
神一郎は眼鏡のブリッチをあげ、先生に事情を説明した。
これで、教室連れてってくれるかな。水無月も言ってたし大丈夫だよね…。
それをフラグとするように、先生は神一郎に冷たい言葉を送る。
「ジルさんが送ってきた生徒は白のはずがない。嘘をつくのも大概にしろ。早く、教室にいけ!」
先生は強い口調で、学校の方を指さした。神一郎の眼鏡が曇る。
ここでも、白を馬鹿にされるのか。いや、知らないよ。自界から来たんだよ?能力なくてよくない?だめなの。ムカつくんだけど。
神一郎は、負けず劣らず事情を話し続けた。しかし、話すに連れて先生の額にしわがよっていく。
「お前はなんだ。この学校のルールも覚えてないのか!嘘を付く者、先生に楯突くものは罰則!」
そう言って、先生は目をきらりと輝かせ、能力を発動した。先生の緑の瞳が、キラキラと輝いている。
これが、能力か…。って、なるか!!!え、なになに?なになになに?まじで言ってる?これ、死ぬじゃん。死神証明するどころか、俺がまず死骸になりますけど?ただの屍のようだ状態だよ!?
先生は拳に力をこめ、俺の顔面めがけてパンチを食らわす、、、。はずだった。怖すぎて、目を瞑っていた神一郎の前に、誰かが立っていた。その男は、金色の髪をもち、漆黒の瞳を輝かせていた。この状況には、見に覚えがあった。公園での出来事に似ていたため、デジャブを感じる神一郎であった。
「せんせー、これ俺のクラスのやつ。連れてくわ」
「きみは…グレンくん。困るね…、その子は校則を破って今、罰をあたえているとこだ。邪魔しないでいただきたい」
先生とグレンという人は、終始睨み合っていた。これは危険だと思った神一郎は、グレンの手を取り走り出していた。けれど、こんな速度で先生にはすぐに捕まってしまうだろう。そう思ったが、二人が走り出してから、一向に追いかけてくる様子はなかった。
先生が見えなくなったところで、止まって息を整える。急に走ったせいか、方が上下する。
「ごめん、急に走ったりして…はぁ、はぁ、助けてくれてありがとう!」
息はまだ整ってないが、一刻も早く感謝の意を示したかった。神一郎は、顔を上げてグレンを見る。さっきは黒く光っていた瞳は、少し青っぽい色になっていた。
「あー!!?さっきの人!!同じ学校だったの!?」
そう、目の前にいるグレンという人物は、さっき神一郎が手当をした男だった。
「あ?気づいてなかったのか?ひでーやつだな」
「え、ごめん」
純粋にそれはごめん。だってさ、さっき目の色違ったんだもん。違う人かなって思ったんだもん。正直に言うと、殺されるかと思って切羽詰まってたから、ちゃんと見てませんでした。
すいませんでした!!!
心のなかで大謝罪をした。
「お前、なんでこの学校に来たんだ?」
唐突な質問だった。しかし、水無月には死神の証明の件は、誰にも言うなと言われているので、そこを隠すように説明した。
「ふーん」
考え込むように口に手をあて、何かを考えている。
「じゃあ、俺はここで、そろそろ教室を探しに行かないと」
そうだ、俺には入学イベントが残っている。入学イベントの最重要条件は目立たないこと。ただでさえ転入生ってだけで目立つのに、何かをしでかしたら平穏な学校生活とはおさらばだ。そんなのは絶対やだ。まぁ、もう先生には目をつけられた気がするけど。4日間くらい、ゆったりと過ごしたい。
「それなら、さっきも言ったが、たぶん俺と同じクラス」
「え、まじ?」
「あぁ、クラスのやつが転入生が来るって騒いでたからな、あってると思う」
「ほんと!ありがとう!君はやっぱり優しいね」
最初見たときから、彼からはなんだか優しい感じが伝わってきた。
「グレン…」
「え?」
「俺の名前だ。覚えとけ、クソが」
どうやら自己紹介をしてくれたようだ。
「わかった、グレン!」
そして、一同は仲良く教室へと足を踏み出した。

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