最強騎士は料理が作りたい

菁 犬兎

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第二章

ラットは退屈である

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あーーー暇だぜ。
こんなに暇な事は俺の人生において初めてじゃねぇか?
おう?首輪を付けたまま放り出されたデズロのおっさんの飼い犬ラットだぜ。

サンチコアの宿舎で働き出したのはいいけどよ?毎日毎日庭の手入れやら宿舎内の掃除やら設備の管理やら、正直なんの刺激もない毎日で飽き飽きしてるわ。

俺達これまで散々頭のおかしい奴らにこき使われてきたからな?感覚が狂ってるのかもな?

「あら?ラット君。今日は一人?」

「おう!エリスは昼間から買い物に行くとか言って出てった。もう宿舎に帰ってるかもな?何か用事か?」

「いいえ。あ、ラット君暇なら寄ってかない?お客さんに貰ったお菓子があるんだよ?珍しい物だからよかったら一緒に食べないかい?」

「いいの?じゃあ遠慮なく」

この酒場のおばちゃん本当に面倒見がいいよな。
最初は警戒してたエリスがすぐ懐いたからなぁ。
潜伏先の人間とあまり仲良くなるなって釘を何度も指したけど結局意味無くなったな。

「裏口から入ってね?それで、こっちの仕事には慣れたかい?」

「慣れたというか、ちょろ過ぎる。あんなの労働とは言わねー」

「あはは!頼もしいねぇ?あ、そこに座って。お茶も用意するからね」

ここに来るのも久しぶりだなぁ。
エリスを迎えに何度か来た時以来、ん?あれは・・・・。

「マリー。あの石どこで手に入れた?」

「え?ああ!綺麗だろう?他の街から来た行商人がくれたんだよ?沢山あるからって。このお菓子もその人がくれたんだよ。色んな国を行き来してるらしくてね?次はオスカールに向かうと行っていたかね?」

へぇ?ふーん?成る程な?なんとなく分かったぜ?
この街に突然ライスベガが出現した理由がな。

「そいつ。いつもマリーに手土産寄越したりするのか?」

「そういえば、今回が初めてかねぇ?たまに来てくれて旅先の話を聞いたり物を買い取ったりはしてたけど」

・・・・このケーキ。本当に大丈夫なのか?

「このケーキ、マリー食べたか?」

「いや?今開けたばかりだよ?なんでだい?」

「実はよ、その石、結構危険な物なんだよ。だから、それを置いていった奴が何のつもりでマリーに渡したのか、ちょっと引っかかってよ?このケーキも、食べない方がいいかも知れないぞ?」

「え?そうなのかい?」

これは、ササラに言って中身を確認する方がいいな。
ここの住民どもは危機管理がなってねぇからな?

「マリー。悪りぃけどコレ調べる為に預かっていいか?あと、その石も危ないからここに置いとかない方がいい」

「それは構わないけど、そんなものラット君が持ってたら危ないんじゃないのかい?」

「大丈夫だって。それに、俺宮廷内に知り合いがいるから、そいつに調べてもらうだけだ。マリーには迷惑かけねぇよ」

あの石は直接触ると危ねぇから何か容れ物に入れないとな。何かあったか。

「じゃあこの石は容器に入れておくね。その様子だと触ると危険なんだろう?」

「サンキュー!ごめんなマリー。今度ティファのケーキ持って来てやるからよ」

「ティファ?誰だいそれ」

「宿舎の料理人だよ。会ったことねぇの?」

「あー聞いたことあるね?料理がとても上手なんだろう?」

そうか、ここは宿舎から離れてるから会ったことねぇんだな。それでここに潜伏してたんだっけか。

「美味いぞ。その時はエリスも連れて来るからな」

「そりゃ楽しみだねぇ。でも、ラット君。あまり危ない事はしちゃ駄目だよ?」

「大丈夫だって!俺これでも何度も危ない橋を渡って来てるからな?じゃあコレ預かってくわ!」

急いだ方がいいな。行商人はオスカールに向かったって言ってたし、被害が広がるかもしれないしな。
もう夜だけど、とりあえずベロニカに言って・・・・。

「あ!ラット!ナイスタイミング!」

「ぐぇ!!」

な!デズロ?!お前なんでこんな所に?っつか抱きつくな!!キモい!!

「お前なんで、こんな所に?護衛は?」

「はいはい話は歩きながらしようね?時間ないから」

ちょっちょっ早い早い!なんなんだ急に現れたと思ったら何急いでんだこいつ。

「なんだよ?何かあったのか?」

「宰相の娘が異空間に吸い込まれたんだ。その穴を探してたらどうもティファ達はそれの開き方を知ってたみたいでさ?僕達待たずに入っちゃったらしいんだよね?本当無茶するよ」

「その女吸い込まれてどれくらいなんだ?」

「昼間に吸い込まれてるからかなり経過してる。ラットそれが何か知ってる?」

「ああ。丁度俺もそれに関係ありそうな物を回収してきた。アズラエルの門だろ?」

デズロが知らないのは意外だな?
まぁコイツはこの国から出られないとか言ってたからそこまで詳しいカスバールの事情はわからねぇのか。

「カスバール各地方で大規模な干ばつと洪水の被害が相次いで起こった時によ、魔物の住処も流されたり、住めなくなった魔物が町や村を襲ったりした時期があったんだけどな?その時この石がいくつも発見された。恐らくだけどよ、コレは魔物が持っていたか、魔物の身体の一部なんじゃないかと思うんだよな?」

「その石がそのアズラエルの門とやらを開くと?」

「だな。カスバールの魔力持ちは何度もコレを使って吸い込まれた人間を救出してる。だが、セラとか言う女は助からないかもな?時間が経ち過ぎてる」

三時間で助かる確率は半分くらい。魔力持ちで、な。

「中に入ると何があるのかな?」

「それは、行ってみないとなんとも言えねぇ。ただし、入り口付近は皆同じなんだ。奥に行かなければ、どこから開こうと同じ所に出る。つまり、セラが入り口から移動してなければ、助かる確率は数段に上がる。だけどよ?何時間も同じ場所でジッと待てる奴なんているか?知ってる奴ならともかくよ?」

「それはもう。セラの賢さを信じるしかないよね?僕達が助けに来ると、信じて待っててくれるのを」

俺なら間違いなく奥に行って散策するな。
まぁ、運が良けりゃ反対側の入り口に出られるかも知れないしな?

「で?ラットが回収した物ってなんなのかな?」

丁度退屈してたし、面白そうじゃん?
俺もティファ達の後追いかけて久々に大暴れしてーなー。

「ラット?君は開いちゃ駄目だからね?首輪は外さないよ?」

チッ!!こんな時ばっかり常識人ぶりやがって。
お前は人を人とも思わぬ変態魔術師がお似合いだろうが!
こういう時こそ、本領を発揮しやがれ!!ケーーチ!
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