最強騎士は料理が作りたい

菁 犬兎

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第二章

セラは不思議な生き物と遭遇する

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「なんだお前、そんな所でしゃがんで何してんだ?」

「え?貴方はどちら様?」

昔から私とても鈍臭い子でした。
物を覚えるのは得意でしたが、とにかく動きが遅くて、他の子が出来る事を私は何度も練習しないと出来ませんでした。

「俺?俺は親父の付き添いでここに来てるんだけどよ?堅っ苦しいのがどうも苦手で抜けて来た。お前は?」

「私は、私も、父に連れられて。私も社交場は息苦しくて・・・」

皆、表面上は笑っているのに目は全然笑ってないんですよ。明らかに宰相の娘だからしょうがなく声かけてやる的な態度です。正直息が詰まります。

「ふぅん?俺もここで少しサボっていいか?邪魔はしねぇから」

「はい。どうぞ」

ギャド様との初対面はこんな感じ。
とくに凄く気が合うとか、何かに惹かれるとか全くなく、まぁ邪魔されないならいいかな?ぐらいの感想。

でも、それからしばらく、そんな日が続くと何となく近況を教えあったりするようになって、自分の話もするようになって。でも、お互いどこの家の人間かは口にしませんでした。だって、それで避けられたら嫌だったんです。

「学者になりたい?すげぇな。お前頭良いんだな?」

「良くないから勉強するんですよ。でも、どちらにせよ学者にはなれないです。お父様が許してはくれませんもの」

お父様は男の子が欲しかったみたいですが、残念ながら私は女ですもの。このまま後継が出来なければ私は政略結婚しなければなりませんからね。

「まぁどの家にも色々な事情があるよな。その点俺は気楽でいいな。俺の所は弟が後を継ぐって決まってるんだ」

「え?ギャド様長男なのにお家をお継にならないのですか?何故?」

「馬鹿だからだとよ?」

え?馬鹿?ギャド様が?

「そんな。ギャド様まだお若いですし、馬鹿だなんて、失礼ですわ!」

なんでしょう。なんだか腹が立ってきました。
ギャド様確かに口調は乱暴ですけれど、話すととてもお優しい方なのに・・・・ムカムカ。

「・・・ハハ!ありがとな?でも俺気にしてねぇし。それに、俺自由な方がいいから良いんだぜ?」

ちょっ!ギャド様頭ぐしゃぐしゃにしないで下さいませ!
セットし直すの大変なのですよ?えい!!仕返しです!

「わっ!おい!なんだよ!」

「ギャド様ばっかりずるいですわ!!私もわしゃわしゃします!!あはは!」

楽しいな。ずっとギャド様とこうやって一緒にいたいです。でも、この社交シーズンが終わってしまえば会えなくなってしまいます。せめて、どこの家の方か聞いておかないと。

「あ、あのギャド様・・・」

「あのさ、もしセラがどうしても学者になりたいんならまず俺と婚約すれば良いんじゃね?俺は学者が奥さんでもかまわねぇよ?」

え?今婚約って言いました?それって、私と結婚してくれるって事?

「ほ、本当に?ギャド様それ、本気で言ってくれてます?」

「おう。俺モテねぇから大人になってセラが俺でいいと思ったら約束守ってやるよ。きっとこうやって会えるのも後少しだろ?だから、辛くなったらそれを思い出せ」

「や、約束ですよ?本当に、婚約して下さいね?」

「おう。だから、自分のやりたい事を最後まで諦めんなよ。もし、無理矢理他の奴と結婚させられそうになったら俺が攫いに行ってやるよ」

嘘つき。
完全に忘れてましたわよね?
まぁ、私も自分の家の事隠してましたから、悪いんですが。それにしても、綺麗さっぱり忘れるなんて酷い。
ギャド様から提案してきた癖に。ギャド様の馬鹿。

「苦しい・・・・」

なんでしょう。とても息苦しいというか、体がまともに動かせません。目が、うまく開かない。

「うっ・・・ここは、何処?」

気持ち悪い。今立ち上がったら吐いてしまいそう。
そうです。私、突然現れた真っ暗な穴に吸い込まれて・・・。え?

「ギャド様?うっ・・・・」

大変です。私まさか空間の歪みの溝に落ちたのでは?
それは、もう元の場所に戻れないのでは?

「嘘、嘘でしょう」

私、どれくらい気を失って?それにここ、とても空気が悪いです。息をするだけで体が疲弊して行くような・・・。

「冷静にならなければ。下手に動くと危険だわ、でも・・・」

もし、入り口と出口が別にあるのだとしたら、いつまでもここにいても無駄な気がします。どうしましょう。

「少し、奥に行ってみましょうか・・・」

あれ?でも立ち上がれないです。
足に全く力が入りません。これでは移動出来ません。

「グルルルルルル」

え?なんだか、嫌な唸り声が聞こえたような気がします・・・き、気のせいですよね?ね?

「ひっ!」

な、何?何かこちらに来てます!に、逃げないと行けないのに・・足に力が・・・ギャド様!!助けて!!!

「プキュ?」

え?プキュ?なんだか気の抜けた獣の声ですわね?でも目を開けたら巨大な魔獣が大きな口を開けて待っているのですよね?期待は、期待はしません!!

「プ!プキュプキュー!!!」

「え?」

あ、いけません。思わず目を開けてしまいました。
そして、目の前にいるこの愛らしい生き物は一体?

「くぁ、かぁわいいー」

なんでしょう?これは、竜の子供?
何故竜の子供がこんな所に?彼等はもっとずっと遠くの島国にしか生息してない筈なのに。

「プキュキュー!」

あら?私の胸に飛び込んで来ました。
この子人馴れしてますのね?あれ?なんだか体が少し軽くなりました。立ち上がれます。

「貴方も吸い込まれてしまったんです?一緒に行きますか?」

「プキュ!」

話が通じない筈なのですが。なんだか、こちらの言葉を理解しているような気がするのは気のせいでしょうか?

「キュキュ!プキュプキュー!」

「え?あっちですか?何かあります?」

もしかしたら私以外にも私の様に吸い込まれてしまった人がいるかも知れません。少しだけ移動してみましょう。

「何か、目印になるもの・・・」

でも私とても愚かでした。下手に動かず待っていれば良かったですのに。きっとこの子に会って気が緩んでしまった所為です。後悔しても仕切れません。
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