最強騎士は料理が作りたい

菁 犬兎

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第三章

フィクスはハイトが羨ましい

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「ハイト・ゼクトリアムと申します」

「フィクス・ヴァンディルだ」

初めてハイトに会ったのは確か10歳くらいの時。
ハイトの父親と俺の父親はとても仲が良く、ハイトの父親が平民貴族でも付き合いは続いていた。

ハイトの母親はサンチコアの土地を代々守ってきた一族で、平民だったけど貴族並みに口を出せる権利を所持していたらしい。それにはどうも複雑なこの国の事情が絡んでいたらしいけど、それは未だに俺は聞かされていない。

ハイトの初めて会った時の第一印象は愛想がない奴。

「フィクス。ハイトに屋敷を案内してあげなさい」

「はい」

ヴァンディル家は代々この国の半分の領土を任されている。とても格式高い家柄だ。俺もアイラも子供の頃から両親に耳が痛い程言い聞かされてきた。その名に恥じぬ行いをしろ。人の見本になる人間になれ。全てにおいて秀でていなければならない。この国の為に、死ぬ覚悟を持てと。

「緊張しなくていい。私の父と君のご両親は親密な関係だと聞いている。私とも仲良くしてくれると嬉しいな」

「・・・・・はい」

心にもない上っ面だけの言葉だった。
だって、そういう風に育てられてたからね?
実際今までそうやって各方面人脈を築き上げてきた。

「ハイトは今、何の勉強をしているんだ?将来、何を目指している?」

「僕は、騎士になります。その為に今武術の指南を受け始めました」

適当に流そうと思ってたのに驚き過ぎて思わず聞き返したよ。だってそんな風に見えなかったんだ。その頃ハイトはまだ、俺よりも背が低くて細かった。

「君が騎士?何故?」

「・・・・・欲しいものがあるからです」

その、ハイトの一言が始まりだった。
ハイトは、その言葉通り、自分の望みを叶えていった。
自分の、実力だけで。

俺とハイトはその頃から偶に会う程度の関係だった。
それが変わったのは父が口にした一言だった。

「私が治めていた領土が半分以上国に返還される。フィクス、お前は宮廷に仕える仕事に就け」

「は?何を仰っているのですか?」

それを告げられたのは14歳の春。
勿論それまで剣さえ握った事がなく、選択肢は限られていた。つまり、政務官になれと言われたんだ。俺に務まるような仕事だとは思えなかったし、やりたい仕事ではなかった。そもそも領主以外の選択を考えていなかった。

「皇帝陛下はゆくゆくは階級制度を廃止されるおつもりだ。そうなった時、お前が困る事になるだろう。それが、いつ行われるかは、私にも分からないからな」

14年。14年間信じて疑わなかったものが崩れ去る瞬間。そりゃどうすればいいのか分からなくて当然だと思う。別に俺だって好きで貴族に生まれたわけじゃない。
家督を継ぐのだって、それが当然と教えられて育って来たからだ。

でも、まるで自分が必要ないと言われた様で正直ショックだった事は確かだ。

「チキショウ」

子供ってこういう時、思いもよらない行動起こすよな?
家を飛び出してさ?街中走り回って暗くなる頃に、ある場所にたどり着いた。それが・・・・。

「フィクス様?どうされました?こんな時間に、こんな所で」

サンチコアの、この宿舎だった。

「なんだぁ?ん?フィクスじゃん?お坊ちゃんがこんな所で何してんだ?」

「ここに入るには、どうしたらいい?」

「は?」

「フィクス様?」

「ここ国の騎士になるには、何が必要だ?俺は、騎士になる!」

まぁ笑うよね?こんな剣の鍛錬を何もしてなさそうな坊ちゃんが、いきなり騎士になるって言ってもな?
でも、なぜかその時ギャドも、ハイトも笑わなかったんだ。

「ギャド。部屋空いてたっけ?」

「おう。じゃあ明日から訓練だなぁ?とりあえず俺、団長に話してくるわ」

「じゃあ僕この人部屋に案内した後、この人の屋敷に行ってくる」

呆然とする俺の目の前でどんどん話を進める二人に、俺は何も出来る訳も無く。その日から地獄の訓練開始。手加減なしだからな?でも、そのお陰で俺、結構強くなったよ。
俺の事情分かってたんだよな。二人共。

「この宿舎では基本階級が上でも下でも敬語は使わない。形式な行事の時のみ。だからフィクス、君にも敬語は使わない」

「当たり前だろ!お前は俺の先輩だからな!」

「はは!フィクスってけっこう面白い奴だったんだね?」

その日から俺は自分を偽って生きるのをやめた。
それで、ハイトがあの時何故騎士になると言ったのか、俺は初めて理解したんだ。お前ここに来たかったんだな?

「お前も。ちゃんと笑えるんじゃん?」

「そうだね?そう、なった」

お前はいつだって真っ直ぐだもんな?
純粋な方じゃなく、目的を叶える為にって意味だけど。
一度狙いを定めたら真っ直ぐそこに向かって走って行くんだ。そこに躊躇いなんてない。俺は迷ってばかりなのに。

でも、ティファが来てからハイトはもっと変わったよな。
なんだか、人間らしくなった。

「フィクス。僕、早まったかも知れない」

「・・・・もしかして、ティファに何か言われたのか?」

「何故か、新しい出会いを応援されて、もう面倒になってはっきり宣言しちゃった」

「あー。そういう展開になったかぁー」

なぁハイト?俺お前みたいになりふり構わず一人の女性を思い続けるとか中々出来ないと思う。
疑っちゃうんだよ、自分の気持ちも相手の気持ちも。
今も正直凄く、躊躇してる。

「あー!僕の計画がぁ!もっと辛抱強く待つ予定だったのに!!」

「いや。ハイト。お前は充分我慢したと思うぞ?俺は無理だ。耐えられない。それにしてもハイト。お前ティファの事、俺に話して良かったのか?今までずっと隠してただろ?」

「敢えて口にしなかっただけだよ。それに、フィクス途中で身を引いたじゃないか」

・・・・お前。よく平然とそんな事俺に言えたな?
傷を抉りに来てるのか?確実にトドメを刺すために!

「ティファより大事なもの見つけたんだろ?それならそっちに集中しなよ。中途半端にティファに手を出して欲しくない」

「・・・・お前さ?いつから」

「フィクスも大概だよね?ベロニカがここに来てからずっと気に掛けてたよね?君は認めたくなかったみたいだけど、僕にはすぐ分かったよ?だって、ベロニカが絡むと少し感情的になってたから」

「まぁ、でもそれはティファにだって・・・」

「そうだね。でもそれはティファが君をずっと無視してたからでしょ?じゃあ何で普通に生活してたベロニカに感情的になるの?あの子君の事、無視した事なんてないし、君に楯突いた事もないよね?」

確かに。
無意識にベロニカに苛ついてた。何でこんなに卑屈なんだろうって。もっと楽に過ごせばいいのにって思って。
でも、普段そんな事で女性に苛立つ事なんて俺ないわ。

「ギャドもフィクスもさぁ。ティファの事言えないよね?ヨシュアを見習いなよ。言っとくけどヨシュア。絶対アイラを手放さないと思うよ?」

そうか?アイツら最近喧嘩ばかりで上手くいってなさそうだぞ?俺ちょっと安心してたんだが?

「自分に必要な物が何か、ちゃんと知ってるんだ。だからヨシュアも僕も迷わない。明日死んでも後悔しないように」

「お前達が羨ましいよ。俺には、難しい」

「そう、思い込んでるだけだよ。フィクス」

明日死んでも、な?本当、お前が羨ましい。相手がお前なら、きっとベロニカを救うことが出来たかも知れないな。
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