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運命を求めた男(雄大視点)
運命を求めた男15
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「脅えないでよ。カケ。傷つくじゃん。………俺はあくまで理想のΩについて、話しただけだよ。カケがΩだったら、理想ど真ん中だったって話」
「……だ、だよな! 悪いな。自意識過剰で。つい……」
「つい、襲われるかと思った?」
「っ…………ごめん」
「いいよ。勘違いさせるようなことを言った、俺が悪い」
安堵からか、乾いた笑いを漏らすカケに、胸がちくちくと痛んだ。
………同じセクシャルマイノリティでも、女性のΩしか愛せないカケと、同じαであるカケを愛した俺とでは、事情が違う。
カケは愛した人と、社会的にも認められた形で堂々と婚姻関係を結ぶことができるし、男性Ωを愛せないことは口に出さなければまずばれない。
だけど俺は………「愛している」と口にすることすら、社会一般的には許されないのだ。俺がカケと同じαである故に。
こんなに、近くにいるのに。
手を伸ばせば、届く距離に、カケが……こんなにも好きで好きで仕方ない人がいるのに。
「もし、カケがΩだったらさ……それで俺のこと好きになってくれたら、例えカケが運命の番でなかったとしても、俺はきっと今みたいに運命の番が現れるかもしれない未来に脅えることはなかったんじゃないかなって。……そう、思ったんだ。今日、こうやってカケと過ごしてたら」
告げることが許されない言葉の代わりに、「仮定」の話で、想いを紡ぐ。
「俺はΩのカケのことを、きっとすごくすごく愛して……カケの運命の番が現れることに脅えたとしても、自分の気持ちを疑うことなんて、なかったんじゃないかなって」
「……………」
「大事に大事に……他のαに取られないように、大事にカケを閉じ込めて……それでも愛の言葉を返してもらうことができたなら、それだけできっと俺は世界一幸せだろうから。例え運命のΩに出会ったとしても、カケに対する想い以上に強い気持ちを抱けるはずないって、確信できた気がするんだ。そうなったら俺はカケみたいに、運命なんてただの体の相性だ。信じるだけ馬鹿馬鹿しいって、心から言えるだろうなって……そんな、もしもの話を想像しちゃったんだ。今日が、すごく楽しかったから」
--好きだよ。カケ。
自分でも、どうしようもないくらい、カケだけを愛しているんだ。
想いが叶わないことなんて、分かってる。
だけど……どうか、そんな想いを抱いていることだけは、許して。
お願いだから……気持ち悪いって、嫌わないで。
「……俺もだよ。雄大」
告げられたカケの言葉は、やっぱり優しくて。けして俺の想いを、否定するものではなかった。
「俺もお前がΩの女だったら………きっと運命なんてどうでもいいくらい、すごく愛したと思う」
カケなりに、俺の想いを精いっぱい受け止めてくれたことが嬉しくて……だからこそ、余計に残酷だとも思った。
だって、そんな風に言われたら………益々、カケを好きになってしまう。
「……そっか。じゃあ、両想いだね」
「ああ……両想いだな」
「もしもの、世界ならね」
「……もしもの世界ならな」
仮定の話は、あくまで仮定。
--けしてそれが現実になることはない。
「--おやすみ。カケ」
零れた涙を万が一でもカケに見られないよう、寝返りを打って、反対側を向いた。
「ああ……おやすみ。雄大」
嘘の寝息を立て、寝たふりをしながら、必死に声を殺して泣いた。
………神様。神様。
もしも、願いを一つだけ、叶えてくれるなら。
俺は、運命の番なんて要りません。
願いを叶えてもらう代償に、一生あの人の奴隷にされたって構いません。
だからどうか………どうか俺に、カケをください。
代わりに何を捨てたって、構わないから。
そんな馬鹿みたいなことを祈りながら、眠りに逃避すべく目を瞑る。
--寝る前の願いが届いたのか……その晩見た夢は、幸せな夢だった。
『ようやく言える。……雄大。俺はお前を愛している。だから、これからもずっと傍にいてくれ』
微笑むカケの体を、震える手で抱き締めながら、俺はただ子どものように泣きじゃくる。
そんな俺に、カケは呆れたように笑いながら、『待たせてごめん』と、抱き締め返してくれた。
けして叶うことはない--幸福な夢だった。
「……だ、だよな! 悪いな。自意識過剰で。つい……」
「つい、襲われるかと思った?」
「っ…………ごめん」
「いいよ。勘違いさせるようなことを言った、俺が悪い」
安堵からか、乾いた笑いを漏らすカケに、胸がちくちくと痛んだ。
………同じセクシャルマイノリティでも、女性のΩしか愛せないカケと、同じαであるカケを愛した俺とでは、事情が違う。
カケは愛した人と、社会的にも認められた形で堂々と婚姻関係を結ぶことができるし、男性Ωを愛せないことは口に出さなければまずばれない。
だけど俺は………「愛している」と口にすることすら、社会一般的には許されないのだ。俺がカケと同じαである故に。
こんなに、近くにいるのに。
手を伸ばせば、届く距離に、カケが……こんなにも好きで好きで仕方ない人がいるのに。
「もし、カケがΩだったらさ……それで俺のこと好きになってくれたら、例えカケが運命の番でなかったとしても、俺はきっと今みたいに運命の番が現れるかもしれない未来に脅えることはなかったんじゃないかなって。……そう、思ったんだ。今日、こうやってカケと過ごしてたら」
告げることが許されない言葉の代わりに、「仮定」の話で、想いを紡ぐ。
「俺はΩのカケのことを、きっとすごくすごく愛して……カケの運命の番が現れることに脅えたとしても、自分の気持ちを疑うことなんて、なかったんじゃないかなって」
「……………」
「大事に大事に……他のαに取られないように、大事にカケを閉じ込めて……それでも愛の言葉を返してもらうことができたなら、それだけできっと俺は世界一幸せだろうから。例え運命のΩに出会ったとしても、カケに対する想い以上に強い気持ちを抱けるはずないって、確信できた気がするんだ。そうなったら俺はカケみたいに、運命なんてただの体の相性だ。信じるだけ馬鹿馬鹿しいって、心から言えるだろうなって……そんな、もしもの話を想像しちゃったんだ。今日が、すごく楽しかったから」
--好きだよ。カケ。
自分でも、どうしようもないくらい、カケだけを愛しているんだ。
想いが叶わないことなんて、分かってる。
だけど……どうか、そんな想いを抱いていることだけは、許して。
お願いだから……気持ち悪いって、嫌わないで。
「……俺もだよ。雄大」
告げられたカケの言葉は、やっぱり優しくて。けして俺の想いを、否定するものではなかった。
「俺もお前がΩの女だったら………きっと運命なんてどうでもいいくらい、すごく愛したと思う」
カケなりに、俺の想いを精いっぱい受け止めてくれたことが嬉しくて……だからこそ、余計に残酷だとも思った。
だって、そんな風に言われたら………益々、カケを好きになってしまう。
「……そっか。じゃあ、両想いだね」
「ああ……両想いだな」
「もしもの、世界ならね」
「……もしもの世界ならな」
仮定の話は、あくまで仮定。
--けしてそれが現実になることはない。
「--おやすみ。カケ」
零れた涙を万が一でもカケに見られないよう、寝返りを打って、反対側を向いた。
「ああ……おやすみ。雄大」
嘘の寝息を立て、寝たふりをしながら、必死に声を殺して泣いた。
………神様。神様。
もしも、願いを一つだけ、叶えてくれるなら。
俺は、運命の番なんて要りません。
願いを叶えてもらう代償に、一生あの人の奴隷にされたって構いません。
だからどうか………どうか俺に、カケをください。
代わりに何を捨てたって、構わないから。
そんな馬鹿みたいなことを祈りながら、眠りに逃避すべく目を瞑る。
--寝る前の願いが届いたのか……その晩見た夢は、幸せな夢だった。
『ようやく言える。……雄大。俺はお前を愛している。だから、これからもずっと傍にいてくれ』
微笑むカケの体を、震える手で抱き締めながら、俺はただ子どものように泣きじゃくる。
そんな俺に、カケは呆れたように笑いながら、『待たせてごめん』と、抱き締め返してくれた。
けして叶うことはない--幸福な夢だった。
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