59 / 311
期限付きの関係
しおりを挟む
「……お前、それを本気で言っているのか」
アストルディアの金の瞳に以前見たのと同じ……いや、それ以上の怒りの色が宿る。
だが、どれだけアストルディアが怒り狂ったとしても、俺は前言撤回する気はなかった。
「だって、そうだろう? もし戦争になって負けたら、魔力の高い俺は死なない限り性奴隷だ。ヴィダルスのあの執着を考えれば、俺を他の奴に譲るとは思えないし。その時抗える力がないなら、早いか遅いかの違いだけだ」
「そんなことは、俺がさせないっ!」
珍しく声を荒げたアストルディアが、歯ぎしりをしながら俺を睨みつける。
「万が一戦争が避けられずお前が捕虜になる時が来れば、その時は必ず俺がお前をもらい受ける。絶対に性奴隷なんかにさせるものかっ! お前は俺が守ってみせるっ!」
「守ってみせる、ね……」
最強の獣人に守られて幸せになる……これが女の子だったり、原作の主人公だったりしたら、ハッピーエンドなんだろうとは思う。
だけど、到底俺には受け入れられない話だ。
「アスティ……俺はお前に守ってほしいわけじゃないんだよ。俺はお前がいなくても、戦って勝てる強さが欲しいんだ。俺自身と……辺境伯領を守れる強さが」
どっぷり依存した親友関係も、最初から期限付きなのはわかりきった話。
俺は卒業すれば【国境の守護者】として、ネルドゥース辺境伯領に戻ることになる。
誰も守っちゃくれないし、守られるつもりもない。
俺は学生時代にアストルディアとの間に築いた友情だけを頼りに、一人で運命と戦わないといけない。
「だから、この親善試合はいい機会だと思ってる。いざと言う時に、どれくらい一人で戦えるのか。ヴィダルスとの戦闘を通じて俺自身を測ることができるからな」
「…………」
「だからアストルディア、お前も……ぶはっ!」
思わず、シリアスな雰囲気も忘れて噴き出してしまった。
ーー耳が、アストルディアの素直な三角お耳が、ぺたりと倒れてらっしゃる!
「くくくっ……そんな反応すんなよ。アスティ。俺はお前が思うより、ずっと強いぞ? 警告してもらったからには、油断する気もさらさらないしな」
「…………」
「ほら、おいで。アスティ。今日は遅いし、もう寝よう?」
いつも通りベッドに促すと、珍しくアストルディアはお犬様モードにならず、人型で着いてきた。
正直モフモフのが嬉しいが、まあアストルディアなら何も問題はない。預かった服を常備するようになったから、最初の時みたいな裸族でもないし。
モフモフ毛皮の代わりに、ムキムキ筋肉を抱きしめてベッドに横になる。手触りは違っても、伝わる体温も魔力も、普段のお犬様モードのままだから、十分落ち着く。
「あー……やっぱりアスティと寝るのが、一番リラックスできるなあ。卒業して不眠症になっちゃったら、どうしよう」
「……エディ」
「うん?」
爪を短く切ったアストルディアの指が、不意に首の後ろを撫でた。
一瞬びくりと体が跳ねたが、その手つきがあまり優しいので、すぐにリラックスして体の力が抜けた。
「これ以上俺に何か言われるのは嫌だろうが……どうか、ここだけはヴィダルスに噛まれないように気をつけてくれ」
「ここって……首の後ろ?」
「ああ……ここを噛めば、ヴィダルスはお前を番と認識するようになる」
そう言ってアストルディアは、そこに口元を埋めるように、後ろから抱き込んできた。
「狼獣人が番と定めるのは、生涯ただ一人だけだ。ここを噛まれれば、あいつのお前への執着は今の比ではなくなる」
……そういえば、そんな設定もあったね。
前世妹曰く、獣人物よりオメガなんちゃらで一般的な設定らしいけど。
「狼獣人の番への執着は、他の獣人に比べても異常だ。もしあれがお前を番に定めれば、あれかお前を殺すことでしか、逃がしてやれなくなる」
「でもヴィダルスは、獅子獣人の血が混ざっているから番を複数持てるとか言ってたぞ? そんな心配しなくてもいいんじゃないか?」
アストルディアの金の瞳に以前見たのと同じ……いや、それ以上の怒りの色が宿る。
だが、どれだけアストルディアが怒り狂ったとしても、俺は前言撤回する気はなかった。
「だって、そうだろう? もし戦争になって負けたら、魔力の高い俺は死なない限り性奴隷だ。ヴィダルスのあの執着を考えれば、俺を他の奴に譲るとは思えないし。その時抗える力がないなら、早いか遅いかの違いだけだ」
「そんなことは、俺がさせないっ!」
珍しく声を荒げたアストルディアが、歯ぎしりをしながら俺を睨みつける。
「万が一戦争が避けられずお前が捕虜になる時が来れば、その時は必ず俺がお前をもらい受ける。絶対に性奴隷なんかにさせるものかっ! お前は俺が守ってみせるっ!」
「守ってみせる、ね……」
最強の獣人に守られて幸せになる……これが女の子だったり、原作の主人公だったりしたら、ハッピーエンドなんだろうとは思う。
だけど、到底俺には受け入れられない話だ。
「アスティ……俺はお前に守ってほしいわけじゃないんだよ。俺はお前がいなくても、戦って勝てる強さが欲しいんだ。俺自身と……辺境伯領を守れる強さが」
どっぷり依存した親友関係も、最初から期限付きなのはわかりきった話。
俺は卒業すれば【国境の守護者】として、ネルドゥース辺境伯領に戻ることになる。
誰も守っちゃくれないし、守られるつもりもない。
俺は学生時代にアストルディアとの間に築いた友情だけを頼りに、一人で運命と戦わないといけない。
「だから、この親善試合はいい機会だと思ってる。いざと言う時に、どれくらい一人で戦えるのか。ヴィダルスとの戦闘を通じて俺自身を測ることができるからな」
「…………」
「だからアストルディア、お前も……ぶはっ!」
思わず、シリアスな雰囲気も忘れて噴き出してしまった。
ーー耳が、アストルディアの素直な三角お耳が、ぺたりと倒れてらっしゃる!
「くくくっ……そんな反応すんなよ。アスティ。俺はお前が思うより、ずっと強いぞ? 警告してもらったからには、油断する気もさらさらないしな」
「…………」
「ほら、おいで。アスティ。今日は遅いし、もう寝よう?」
いつも通りベッドに促すと、珍しくアストルディアはお犬様モードにならず、人型で着いてきた。
正直モフモフのが嬉しいが、まあアストルディアなら何も問題はない。預かった服を常備するようになったから、最初の時みたいな裸族でもないし。
モフモフ毛皮の代わりに、ムキムキ筋肉を抱きしめてベッドに横になる。手触りは違っても、伝わる体温も魔力も、普段のお犬様モードのままだから、十分落ち着く。
「あー……やっぱりアスティと寝るのが、一番リラックスできるなあ。卒業して不眠症になっちゃったら、どうしよう」
「……エディ」
「うん?」
爪を短く切ったアストルディアの指が、不意に首の後ろを撫でた。
一瞬びくりと体が跳ねたが、その手つきがあまり優しいので、すぐにリラックスして体の力が抜けた。
「これ以上俺に何か言われるのは嫌だろうが……どうか、ここだけはヴィダルスに噛まれないように気をつけてくれ」
「ここって……首の後ろ?」
「ああ……ここを噛めば、ヴィダルスはお前を番と認識するようになる」
そう言ってアストルディアは、そこに口元を埋めるように、後ろから抱き込んできた。
「狼獣人が番と定めるのは、生涯ただ一人だけだ。ここを噛まれれば、あいつのお前への執着は今の比ではなくなる」
……そういえば、そんな設定もあったね。
前世妹曰く、獣人物よりオメガなんちゃらで一般的な設定らしいけど。
「狼獣人の番への執着は、他の獣人に比べても異常だ。もしあれがお前を番に定めれば、あれかお前を殺すことでしか、逃がしてやれなくなる」
「でもヴィダルスは、獅子獣人の血が混ざっているから番を複数持てるとか言ってたぞ? そんな心配しなくてもいいんじゃないか?」
262
あなたにおすすめの小説
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる