俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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建国祭⑧

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 ……あ、これ駄目な奴。俺の名を勝手にあげられていることは腹立たしいけど、それ以上に狐お姉さんが心配過ぎる。
 狐お姉さん、もうこれ以上ヴィダルスに何も言わないで。よく見て、他の取り巻きがいやーな感じでニヤニヤしてるよ。こいつら、絶対ヴィダルスのことお姉さんより理解してるうえで、この表情してんだよ。性格悪っ。
 ええと、アストルディアは……うわあ、もう結構離れてる。いくらアストルディアでも、この混雑の中、他の人を傷つけずに戻って来ることはできなさそうだから、割と積んだ。
 ハラハラしながら狐お姉さんの動向を見守ってると、狐お姉さんは何故か嬉しそうに頬を薔薇色に染めて、ヴィダルスの裸の胸に手を這わせだした。

『もちろんです! ヴィダルス様も、去年の熱い一夜を覚えてらっしゃるでしょう? 私は獣人としてそれほど力はありませんが、房中術には自信がありますの。今年もヴィダルス様に、全てを忘れられる夢のような夜を過ごさせてみせますわ』

 あ"あ"あ"あ"あ"あ"ー……これ、ヴィダルスの笑顔を、そのまま好意的に受け取っちゃった奴ぅうう!
 何であの見下しMAXな笑顔見て、そんなポジティブに受け取れるの!? 『お前程度』とか言われてんのよ!? お姉さん、実は天然なかわいい人なの!? セクシー狐美女が、実は天然かわいいとかいいな! できれば俺の童貞もらってほし……じゃなくて、じゃなくて。

 これ……マジでやばいかも。
 
『ーー房中術だぁ? そんなんでエドワードが忘れられるわけねぇだろ。クソが』

 絶対零度のヴィダルスの声が、耳元で響いた。

『ぐぅっ……』

 苦しそうな狐お姉さんの呻き声と共に、周囲がざわめきだす。

「おい……あの狐女、ヴィダルス様を怒らせたみたいだぞ」

「何をしでかしたかわからねぇが……下手したらあれ、殺されるんじゃねぇか?」  

 ざわめく群衆の向こうで、絶対零度の眼差しのヴィダルスが、狐お姉さんの首を片手で鷲掴みにして持ち上げているのが見えた。

『俺の片手すら振りほどけねぇ雑魚が、よくもまあ、エドワードを忘れさせるなんてほざけたな。あいつは親善試合で俺に勝った男だぞ? 魔力も強さも、てめぇなんかとは格が違うんだ』

『離……苦し……』

『あいつは、「俺のエレナ」じゃねぇ。「俺のエドワード」だ。本物のエレナだって、あいつほど俺を興奮させねぇだろうよ。エドワードは、俺の唯一。ただ一人の番だ。それをてめぇごときが忘れさせられるだって?』

『……ぐ……が……』

 ……誰がてめぇの番だ。俺はアストルディア以外に番になることを了承した覚えはねぇぞ。

 ヴィダルスがクソみたいな戯言をほざいている間にも、首を圧迫されている狐お姉さんの顔はどんどん土気色に変わっていく。
 獣人は人間より頑丈ではあるけど、このまま放っておいたら窒息死してしまいそうだ。いや、その前に首が折れるか?

『いい気味~。弱いうえに頭も悪い狐が、一度ヴィダルス様に抱かれたくらいで調子に乗ってウザかったんだよねー』

『髪のまだら模様が汚いとか言われたし』

『ヴィダルス様の番面して、僕達のことを側室扱いしてきたし』

『『このまま死ねばいいのに』』

 ……わかってはいたが、他の取り巻き共はヴィダルスを取りなす気はなさそうだ。
 まあ、狐お姉さんも狐お姉さんで性格悪そうだから、一概に他の取り巻きが悪だとも思えなくはなってはきたが。

「……女に暴力ふるって、イキッてんじゃねぇよ。クソが」

 獣人はある意味では男女同権で、彼らからすれば俺の考えのが異質なのかもしれない。
 けれど俺は前世も今世も、か弱い女性は男が守るべきという価値観に育って来たわけで。
 2メートル近くある巨漢に、俺よりも小さな女性が首を絞められているのは、とてもじゃないけど見過ごせない。……そのせいで、面倒臭いことになるとわかってはいるけど。

『っ!?』

 人混みに紛れて放った火炎魔法は、計算通りヴィダルスの腕を焼き、狐お姉さんを取り落とさせることに成功した。一応風魔法で狐お姉さんの体は受け止めたから、恐らく怪我は負ってないはず。

『……エドワード?』

 ……さあて。どう逃げようかね。
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