俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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変わった物③

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 数百人って……人類最強になれるポテンシャルの俺ですら同時転移はせいぜい20人くらいしかできないのに、チート過ぎね? いや、往復すれば魔力尽きるまでに数百人は転移できそうではあるけど、一度には無理。半世紀の間に、事実が誇張されたんかな?

「それでアストルディア第二王子は、どうやってそれを解決したんですか?」

「セネーバの宝物庫から、50年以上前に作られた、結界を発動させる守護魔道具を発見したんだよ。発動されるのは旧リシス王国の国境に張り巡らされるタイプの結界で、外部からの魔法干渉を全て遮断する代わりに、とんでもなく魔力を食う前時代の遺物だ。普通は数十人の魔法士が枯渇寸前まで魔力を捧げて、ようやく1日結界が保たれるような代物なのだけど、アストルディアは化け物だね。少し魔力を捧げただけで、一月保つ結界を発動させた。しかも結界には無属性が付与されて、ぶつけられ魔力は全て結界を通してアストルディアに届けられ、分析できるようになったんだって」

「……セネーバとリシス王国の間にある旧リシス王国の国境は、どの辺りですか?」

「ちょうどセネーバに来た時に、ダンテが転移魔法で僕らを送り届けた辺りだね。今、超特急であそこに関所を作ってるみたいだよ。交易が再開され次第、兵団から国境警備隊が派遣されるんじゃないかな」

 なら、入国の許可さえ取れればネーバ山は自力で超えなくても大丈夫ってことだな。それなら、交易の為の出入りはそれほど難しくはない。
 転移魔法による奇襲を回避する策としては、これより良い解決法もないだろう。

「さすがですね。アストルディア第二王子は」

「それは惚気かい?」

「……声が大きいぞ。クリス」

「戦争回避の為なら、喜んで獣人に嫁ぐと宣言したんだろう? 今さら隠すこともないとは思うけどね。最近は、ヴィダルスも大人しいし」

 ……これ、絶対ヴィダルスが諦めたはずがないってわかってて言ってんだろ。
 大人しいのは、ランドルーク家の後継者になるべく、在学中から本格的に動きだしたせいだってことも。

「……あれが私を諦めると、本気で思ってるんですか?」

「いや、全く。狼獣人の執着はしつこいって聞くし」

「…………」

 ほら、やっぱり。……敢えて的外れなこと言って、こっちの反応見るのやめろ。回りくどい。

「でも本当に諦めてくれたなら、良かったのにとは思うよ。無事交易が再開することになったからには、君達の三角関係……いや、僕も含める四角関係かな? それが今は一番の懸念事項ではあるからね。どれほど優れた人物であっても、情愛が絡めば愚か者になり得る。意外とそういった個人の感情が、国を滅ぼすきっかけになったりするのさ」

『俺もいるから、五角関係だよ! クリス!』

「はいはい。……僕はジェフのそのしつこさが、いつかリシス王国を滅ぼさないか怖いよ」

『クリスが俺と生きててくれる限り、大丈夫だよ。クリスに何かあれば、保証はないけど』

 狂気が宿るジェフの瞳が、いつかのヴィダルスの瞳と重なって、クリスと揃ってげんなりする。
 正直俺には、恋愛事でそこまで狂える気持ちがわからない。
 俺はアストルディアのことはかなり好きだけど、辺境伯領の為ならきっとアストルディアのことだって切り捨てる。自分が死ぬことより辛いだろうけど、それでも俺は辺境伯領を選ばれずにはいられないだろうから。
 恋情の為なら全てを捨てられるほどの狂気を、俺は理解できない。……いや、理解してはいけないのだと思う。

「ヴィダルスが動きだす前に、既成事実を作っておくつもりなので、ご安心ください」

「それはそれで遺恨を産みそうだけどね。まあ、どちらかの狼獣人には必ず遺恨が残る以上、切り捨てるべきはヴィダルスの方だから仕方ないね」

 心を見透かすような目で俺を見据えながら、艶然とクリスが笑う。

「懸念事項はあるけれど、協力者としてエディを選んで、留学先まで一緒に連れてきた僕の判断自体は間違えてなかったね。エディがいなければ、ここまで順調に交易再開までこじつけることはできなかっただろうし。エディにはすごく感謝してるんだ」

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