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聖女の日々2

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 アシュリナの無実を確信してくれていることに喜びを感じる一方で、別の意味でも胸が痛んだ。

 ーーこんなにも、アシュリナの哀れな最期を嘆いてくれているのに、アシュリナの記憶の中に彼はいない。

 何せ、アルバートの息子であるティムシー兄様を治癒したことすら、覚えていなかったのだ。
 若かりし母様や父様と交流があった頃はまだ人間味があったアシュリナだったが、一番身近な存在だった侍女の母様が嫁いで以降、どんどん他人との交流が希薄になり、接した一人一人の人間を覚えることもなくなっていった。
 最後の砦が、護衛騎士であるアルバートだったけれど、彼は自身の職務を全うする為に、主の意志をくんで常に一定の距離を開けていてくれた。

 ディアナとしての今の私からすれば、【聖女】であらねばならないという強迫観念に縛られ続けたアシュリナの生き方は、どこか歪で無理がある。
 ルイス王やユーリアの企みがなくても、いつかは破綻していたのではと思ってしまう程に。

 だからこそ、アシュリナを知る人にこうやって手放しで称賛されることも、複雑と言えば複雑なのだ。

 ーー私はもう、けして、アシュリナには戻れないから。

「……ダニエル隊長。セーヌヴェットは、もう駄目です。確実に滅びの道を、歩んでいます」

「…………」

「……17年間。17年間、俺はあそこに留まり続けました。理不尽に死んでいく仲間の死にも目をつぶり、王やユーリアから目をつけられないぎりぎりの範囲で、何とかセーヌヴェットを軌道修正する術はないか模索して来ました。……それこそが、祖国を愛しながら死んでいった仲間達の供養になると信じて。でも、駄目だった……!」

 マイクさんはぼろぼろと涙を流しながら、父様の袖を握った。

「……先日、部下の若い男が二人、【災厄の魔女の呪い】で死んだんです。未熟で、色々足りない奴らでしたが……子どもがいない俺にとって、あいつらは息子同然でした。セーヌヴェットの未来を託せるよう……それが無理だとしても、アニリドとの最前線に送られた俺達のように、いつ理不尽な未来が降りかかっても大丈夫なよう、鍛えてやるつもりでした。それが俺にとって、唯一の希望でした。……それなのに、俺が職務で王都から離れている間に、あいつらは死んでいた」

「…………」

「……あいつらはルイス陛下やユーリアに食ってかかる程の、気概がある奴らではけして、ありませんでした。せいぜい陰口を叩くのが精一杯な、臆病な青二才です。王家にとって、けして脅威になる存在ではない。……それなのに、殺されたんです」
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