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聖女の日々3

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 マイクさんは、両手で顔を覆った。
 ……大切な物を失った、悲痛な感情がひしひしと伝わってくる。

 血の繋がりはなくても、その部下さん達は、マイクさんにとっては紛れもなく家族だったのだろう。

「ーー若者が、安心して成長することができない国に、未来なぞありません。ようやく俺は、セーヌヴェットに見切りをつける決心をつけました。そして騎士の職を辞して、単身でルシトリアに移住しようとした際に【災厄の魔女の呪い】に侵されたのです」

「……呪いが完全に侵される前に、お前が間に合ってよかった」

「……本当に、そうでしょうか」

 マイクさんは自嘲するように呟くと、目を伏せた。

「聖女様に縋り、こうして助けて頂きながらこんなことを言うのも罰当たりですが……何故助かったのが俺なのだろうと、今頃になって思っています」

「……マイク」

「だって俺は、臆病者で卑怯な人間です。ずるずると中途半端な立ち位置でセーヌヴェットに留まり続け、結局最後は戦わずに逃げだしました。国の為を思い、堂々と王やユーリアに意見をした勇敢な仲間達は死に、未来ある若者達も死んでいきました。俺には、仲間達のような勇敢さもなければ、部下達のように未来へ繋げるような若さもありません。結婚もしていないから、妻子もいない。……失う物は何もないのに、捨て身で死んだ奴らの為に復讐を果たす、度胸もない。それなのに、死にたくないとみっともないと足搔いた結果、俺は生き残った。生き残ってしまったんです」

「……ディアナのもとにやって来たことを、後悔しているのか」

 父様の問いかけに、マイクさんは少し黙り込んだ後、首を横に振った。

「……いいえ。苦痛に喘ぎ、死の淵をさまよって改めて思いました。俺は、生きたいのです。何の生きる価値もなく、生きる意味が見つけられなかったとしても、俺は生きたくて生きたくてたまらない……たとえ、それが生き恥を晒すことだったとしても」

「……ならば、まずは余計なことを考えていないで、体調を万全に治すことに集中しろ。生きる意味云々は、その後でいい」

 父様はそう言って、私や兄様にするように、マイクさんの頭を撫でた。

「戦わずに国を捨てて、逃げることが生き恥を晒すことならば、一番生き恥を晒し続けているのは、真っ先にそれを成した私だ。十七年もの間セーヌヴェットで地獄の日々を耐え続けたお前を、称賛こそしても、責める権利なぞない。……この十七年間、私は、確かに幸せだったのだから」
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