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聖女の日々

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 【厄】に侵されていた彼は、かつてアニリド国との最前線を共に闘い生き抜いた、父様の部下だった。

「……まだ、治療は終わってませんよ。私は、病の根源を取り除いただけで、傷ついた体は治癒しきれていません」

「俺は、聖女様にそんなことまでしてもらう資格はありません。……かつて俺は、前代の聖女を守れず死なせたのですから」

「マイク。いいから、黙ってディアナの治療を受けていろ。……お前の罪は、私の罪でもあるのだから」

 罪悪感に苛まれる二人の姿に、胸が痛む。
 けれど、父様と違って他人である彼に、私がアシュリナの記憶を持つことを伝えるわけにはいかない。

 黙ってただ治療を続行していくうちに、彼の頬から一筋涙がこぼれ落ちた。

「……ああ。温かい。温かくて、懐かしい御力です。アシュリナ様が、かつて傷ついた俺を、癒やしてくれたのと、同じ力だ。……どうして、セーヌヴェットは、どうしようもないくらいに、間違ってしまったんだろう……」

「……マイク。私の部隊にいた他の皆は、今どうしているんだ」

「……半分は隊長がいなくなった後、後を追うように他国に亡命するか、騎士の職を辞しました。……そして残りの半分は、自らの手でセーヌヴェットを変えられると信じ続け、死んでいきました。あの地獄のような最前線を生き抜いた猛者達が、【災厄の魔女の呪い】により、次々と命を落としていったんです」

 マイクさんは、顔をくしゃくしゃに歪めて、しゃくりあげた。

「ルイス陛下と、ユーリアは、それをアシュリナ様の呪いだと断言しました。俺達は皆、かつてアシュリナ様の治癒を受けたことがある。だからこそ、呪われたのだと。ーーですが、それならば何故、死んでいくのは、ルイス陛下やユーリアにとって不都合な行動をした仲間ばかりなのでしょう? 何故、アシュリナ様が死んだ原因である、ルイス陛下とユーリアは、呪いを受けずにいられるのでしょう?」

「……マイク……」

「俺達だけじゃない! 【災厄の魔女の呪い】に侵されるのは、アシュリナ様の死とは関係の無い立場が弱い者か、陛下とユーリアにとって邪魔な者かのどちらかだ! そんなものが、あの優しいアシュリナ様の、呪いなんかであるものか! ……アシュリナ様は、聖女だった。アシュリナ様こそが、本物の聖女だったのに……」
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