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連載
聖女の日々34
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その声は女性のものだったから、自分の権威を示すべくとうとうユーリアが現れたのかと思った。
……目の前で泣いて訴える彼女の夫を救ってくれるのなら、それでもいいとすら、思いそうになってしまった。
ユーリアは、病を取り除いた後、「厄」に変えて人につける。……だけど、「厄」ならば私は消失させられるから。
苦しむ人を救うことができるから、構わないなんて勝手なことを考えてしまった。
だけど声の主は、ユーリアではなかった。
「……誰?」
声の主は、ピンと伸びた背筋が印象的な厳めしい顔をした初老の女性だった。
眉間にはくっきりと刻まれた深い皺があり、雑に引っ詰めただけの髪には、あちこち白髪が混ざっている。
女性は、ぎこちない笑みを浮かべて私を見ると、その場に膝をついた。
「初めまして、聖女様。ーー王宮医師マナエ・ローリー。ライオネル王の命を受け、ここに参上致しました」
「王……様の」
「はい。……貴女が手出しを出来ない患者は、代わりに私が救います」
怜悧で硬質な声をできるだけ優しく抑えてそう言った彼女は、きびきびとした動作で立ち上がり、夫を救って欲しいと懇願していた女性に鋭い視線を向けた。
「さあ、娘さん。貴女の旦那のもとへ案内なさい。私には、人の傷病を跡形もなく治せる特別な力なんぞないが、それでもこの国一番の腕を自負している医者だ。この国の人間が望み得る、最高峰の治療を施してやろう」
「あ……ありがとうございます! マナエ様」
「……それでは、聖女様。失礼致します」
私に深々と頭を下げた彼女は、女性の後を追う前に私に小さく耳打ちした。
「ーー今夜、貴女の部屋に参上致します。貴女に話さなければならないことがある」
そして、唖然と返事ができないでいる私をそのままに、マナエは女性の後を追ってその場を後にしたのだった。
……目の前で泣いて訴える彼女の夫を救ってくれるのなら、それでもいいとすら、思いそうになってしまった。
ユーリアは、病を取り除いた後、「厄」に変えて人につける。……だけど、「厄」ならば私は消失させられるから。
苦しむ人を救うことができるから、構わないなんて勝手なことを考えてしまった。
だけど声の主は、ユーリアではなかった。
「……誰?」
声の主は、ピンと伸びた背筋が印象的な厳めしい顔をした初老の女性だった。
眉間にはくっきりと刻まれた深い皺があり、雑に引っ詰めただけの髪には、あちこち白髪が混ざっている。
女性は、ぎこちない笑みを浮かべて私を見ると、その場に膝をついた。
「初めまして、聖女様。ーー王宮医師マナエ・ローリー。ライオネル王の命を受け、ここに参上致しました」
「王……様の」
「はい。……貴女が手出しを出来ない患者は、代わりに私が救います」
怜悧で硬質な声をできるだけ優しく抑えてそう言った彼女は、きびきびとした動作で立ち上がり、夫を救って欲しいと懇願していた女性に鋭い視線を向けた。
「さあ、娘さん。貴女の旦那のもとへ案内なさい。私には、人の傷病を跡形もなく治せる特別な力なんぞないが、それでもこの国一番の腕を自負している医者だ。この国の人間が望み得る、最高峰の治療を施してやろう」
「あ……ありがとうございます! マナエ様」
「……それでは、聖女様。失礼致します」
私に深々と頭を下げた彼女は、女性の後を追う前に私に小さく耳打ちした。
「ーー今夜、貴女の部屋に参上致します。貴女に話さなければならないことがある」
そして、唖然と返事ができないでいる私をそのままに、マナエは女性の後を追ってその場を後にしたのだった。
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