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連載2

再会4

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 ぎゅっと拳を握って、激しい復讐心を燃やしながらそう口にした兄様に、シャルル王子は悲しげな笑みを浮かべてゆっくり首を横に振った。

「お兄様のお気持ちは、よくわかりました。……でも、エイドリーやルイス王討伐はあくまで余力があれば。今回の訪問の目的は、【災厄の魔女】ユーリアを打ち倒し、聖女様を守り抜くこと。それを第一に考えてください」

「っ」

「エイドリーやルイス王は普通の人間です。聖女様やお兄様の力を借りずとも、他の者でも打ち倒すことはできます。でもユーリアは違う。ユーリアは、【災厄の魔女】の力を封じることのできる聖女様にしか倒せない。だからこそ、危険を承知でこうしてセーヌヴェットの王都へ向かってもらっているのです」

 そう言ってシャルル王子は馬車の床に手をつくと、兄様に向かって深々と頭を下げた。

「お兄様の復讐心を承知で、お願いします。どうか復讐よりも、聖女様の護衛を何より優先なさってください。私じゃ、聖女様を守ることはできません。敵地であるセーヌヴェットで、聖女様を守れるのはお兄様だけなのです」

 床に頭をこすりつけるシャルル王子に、兄様はしばらく呆然と立ち尽くした後、絞り出すような声で「……当たり前だ」と呟いたのだった。



「……兄様、ごめんね」

 気配消しと結界の護符を貼った馬車の中は、どの宿よりも安心で、襲撃を恐れず眠ることができる。
 それなのに早々に寝息を立てているシャルル王子と違って、眠れない様子の兄様に、寝返りを打って近づき謝罪の言葉を口にした。

「何を謝るんだ?」

 兄様は口元に優しい作り笑いを浮かべながら、私の方を向いてくれた。

「私が強かったら、兄様が復讐に専念できたのに……」

「お前が謝る必要なんか、何もないよ。ディアナ、俺はお前の騎士だ。お前を守る為にこそ、俺は今ここにいるんだから」

 優しくそう言って、兄様は苦虫をかみつぶしたような表情で、眠るシャルル王子の方を見た。

「……ただその本分を、シャルル王子に諭されるまで忘れていた自分が情けないだけで」

「……兄様……」

「出発の時は邪険にしたが、改めて王子がこの旅に同行してくれたことに、感謝しないといけないな。俺一人ならば復讐心に飲まれて、お前を守ることを蔑ろにしてしまっていたかもしれない。……本当に俺は未熟だ」
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