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連載2

再会5

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 兄様の言葉に、寝息を立てていたはずのシャルル王子の背中が一瞬ぴくりと反応した。
 どうやら、狸寝入りだったらしい。
 最初からそれに気がついていたらしい兄様は苦笑いを浮かべると、そのエメラルドの瞳で再び真っ直ぐに私を見据えた。

「ルイス王はともかく、エイドリーはいつか必ず俺がこの手で殺す。でもそれは今回じゃなくてもいい。【災厄の魔女】を打ち倒したお前を、無事に安全かルシトリアに送り届けてから、俺が一人で復讐を果たせばいいだけのことだ。その時たとえエイドリーがセーヌヴェットにいなかったとしても、俺は草の根をかき分けてでもあいつを探しだし、必ずこの手で息の根を止めてやる。何年、何十年かかったとしても」

 淡々とそう口にする兄様の姿が、一人【黎明】を抱いて復讐を誓ったあの時の姿と重なって、胸が苦しくなった。

 一人で、なんて言わないでほしい。
 その時は、私も兄様と一緒に行く。
 今は兄様に私の使命に付き合ってもらっているんだから、次は私の番だ。
 何年、何十年かかっても構わない。
 
 どうか、私に兄様と一緒に生きさせて。

 そんな言葉が喉元までせり上がったが、言葉にはできなかった。
 今私がそうであるように、その時もまた、私が兄様の傍にいることは復讐の足かせでしかないことがわかっていたから。

「……兄様」

 湧き上がる言葉の変わりに、ぎゅっと兄様の服を掴んで、ただ兄様を呼ぶ。

「兄様」

「兄様」

「兄様」

「兄様」

「兄様」

 何度も繰り返すうちに、だんだん言葉がかすれ、目には涙がたまって来た。
 途中からしゃっくりあげながら、子どもみたいに兄様を呼び続ける私を、兄様は呆れたように笑いながら抱き締めてくれた。 

「大丈夫……大丈夫だ。ディアナ」

「…………」

「何も心配することはない。何も、怖がらなくていい。……俺が必ずお前を守るから」

『――大丈夫だ。ディアナ』

 アシュリナの記憶を思い出したばかりの幼い日、怯える私に兄様がかけてくれた言葉が、今の兄様の言葉に重なった。

『よくわからないけど……俺がいるから、大丈夫だ。何があっても、必ず俺がお前を守るから』

 ああーー私は、あの幼い頃と何も変わっていない。

 いつだって、ただ兄様に守られてばかりの、弱い私のままだ。

 
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