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オージン・メトオグという王子
オージン・メトオグという王子22
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精霊という種族は、一般的に人間が嫌いだ。それは、人型を持つ、高位精霊程、顕著に表れる特徴である。
自然の中から生まれ、自然と一体化して生きる精霊と、自然を支配しようとし、時には破壊する人間は根本的な部分からして相容れないのかもしれない。
精霊と契約する方法は二つ。精霊に気に入られるか、精霊を征服するか、そのどちらしかない。そして前者の方法で契約を結ぶものはほんの僅かだ。ごくごく稀に、同属性で精霊に近い性質を持つ人間が選ばれることがある程度。大半の人間は、精霊を力によって捻じ伏せて、征服することで無理矢理主従契約を結ぶのだ。
私もまた、そうだった。私の属性は無属性だ。聖魔法や光魔法等の例外を除いた、ほとんど全ての属性の魔法を仕える代わりに、突出した属性を持たないのが無属性の特徴だ。そんな私が、逆立ちしたって精霊になんて気に入られるわけがない。
私が精霊達と契約を結んだのは五歳の頃。それは、ちょうど私が前世の記憶を思い出した頃だった。
私は噛ませ犬系悪役である自分のポジションに複雑な想いを抱きながらも、自身の能力の高さを思い出して歓喜した。5歳になれば、ある程度外の環境だって分かる。自分を取り巻く環境は、ゲームで知っていたルクレアに関する情報と、ほとんど差異が無かった。
5歳の私は思った。
ゲームと同じならば私は、今の実力を持ってすれば、精霊と契約を結べるはずだ。人型の高位の精霊を、4体も、僅か5歳にして従えられるのだ。
滅多にない、偉業だ。周りは私を畏怖と尊敬の混じった視線を向けながら、賞賛の言葉を浴びせることだろう。
あぁ、なんて
なんて、それは快感なことだろうか。
特別な存在だと、持て囃される存在になることは、どれだけ気持ちいいことだろうか!
――正直に言おう。その時、私は完全に調子に乗っていたのだ。ハイスペックな能力で生まれたことに、特別な存在であることに、酔っていたのだ。
転生すれば、精神年齢は一体どうなるのか。上乗せされるのか、ある程度逆行するのか、経験した身でもよく分からない。
だが、あの時の私が、ひどく幼稚で、どうしようもないほど愚かだったことは分かる。
私はその時精霊という存在を、意志がある生き物と思っていなかった。自分に名誉を与えてくれる、使い勝手がいい道具のようにしか、思っていなかった。
幼すぎるという周りの反対を押し切って、私は高位精霊の根城まで赴き、そして、力を持ってして、征服した。それは、蹂躙だったといってもいい。
『人間ゴトキガ、フザケルナ!』
サーラムが、怒りを露わに吼えた。
『人間ニナンカ、絶対二従イマセン……!』
ディーネが、鋭い眼差しで睨んだ。
『調子二ノラナイデヨ。薄汚イ、人間風情ガ』
シルフィが、冷たい侮蔑の視線を向けた。
『……消エロ、人間』
ノムルが、吐き捨てた。
そんな彼らを、5歳の私は、嗤った。嗤いながら、式を展開して捻じ伏せた。
捻じ伏せながら、無理矢理主従契約を結んだ。
ひどく、気分が高揚していたことを、今でも思い出せる。高笑いしたいくらいに、気持ち良かった。
特別な存在を、力で支配することは、どうしようもないほどに快感だった。
――そして全てが終わった時、私と精霊達には、簡単には埋められないほどの深い深い溝が生れていた。
成された主従契約に基づき、彼らは私に確かに従った。だがそれは、本当に言われたことに、機械的にただ従うだけだった。そこに彼らの意志も考えも存在しない。
彼らは私を嫌い抜き、けしてその心を開こうとしなかった。私が死に、契約が解除される日を、今か今かと待ちわびていた。
私がそのことに気づき、関係を修復しようとした頃には、もうほとんど手遅れに近い状態だった。
そうなって初めて、私は自分の愚かさに、そして彼らが人間と同じような複雑な心を持った生き物であることに、気づかされた。
自然の中から生まれ、自然と一体化して生きる精霊と、自然を支配しようとし、時には破壊する人間は根本的な部分からして相容れないのかもしれない。
精霊と契約する方法は二つ。精霊に気に入られるか、精霊を征服するか、そのどちらしかない。そして前者の方法で契約を結ぶものはほんの僅かだ。ごくごく稀に、同属性で精霊に近い性質を持つ人間が選ばれることがある程度。大半の人間は、精霊を力によって捻じ伏せて、征服することで無理矢理主従契約を結ぶのだ。
私もまた、そうだった。私の属性は無属性だ。聖魔法や光魔法等の例外を除いた、ほとんど全ての属性の魔法を仕える代わりに、突出した属性を持たないのが無属性の特徴だ。そんな私が、逆立ちしたって精霊になんて気に入られるわけがない。
私が精霊達と契約を結んだのは五歳の頃。それは、ちょうど私が前世の記憶を思い出した頃だった。
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滅多にない、偉業だ。周りは私を畏怖と尊敬の混じった視線を向けながら、賞賛の言葉を浴びせることだろう。
あぁ、なんて
なんて、それは快感なことだろうか。
特別な存在だと、持て囃される存在になることは、どれだけ気持ちいいことだろうか!
――正直に言おう。その時、私は完全に調子に乗っていたのだ。ハイスペックな能力で生まれたことに、特別な存在であることに、酔っていたのだ。
転生すれば、精神年齢は一体どうなるのか。上乗せされるのか、ある程度逆行するのか、経験した身でもよく分からない。
だが、あの時の私が、ひどく幼稚で、どうしようもないほど愚かだったことは分かる。
私はその時精霊という存在を、意志がある生き物と思っていなかった。自分に名誉を与えてくれる、使い勝手がいい道具のようにしか、思っていなかった。
幼すぎるという周りの反対を押し切って、私は高位精霊の根城まで赴き、そして、力を持ってして、征服した。それは、蹂躙だったといってもいい。
『人間ゴトキガ、フザケルナ!』
サーラムが、怒りを露わに吼えた。
『人間ニナンカ、絶対二従イマセン……!』
ディーネが、鋭い眼差しで睨んだ。
『調子二ノラナイデヨ。薄汚イ、人間風情ガ』
シルフィが、冷たい侮蔑の視線を向けた。
『……消エロ、人間』
ノムルが、吐き捨てた。
そんな彼らを、5歳の私は、嗤った。嗤いながら、式を展開して捻じ伏せた。
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ひどく、気分が高揚していたことを、今でも思い出せる。高笑いしたいくらいに、気持ち良かった。
特別な存在を、力で支配することは、どうしようもないほどに快感だった。
――そして全てが終わった時、私と精霊達には、簡単には埋められないほどの深い深い溝が生れていた。
成された主従契約に基づき、彼らは私に確かに従った。だがそれは、本当に言われたことに、機械的にただ従うだけだった。そこに彼らの意志も考えも存在しない。
彼らは私を嫌い抜き、けしてその心を開こうとしなかった。私が死に、契約が解除される日を、今か今かと待ちわびていた。
私がそのことに気づき、関係を修復しようとした頃には、もうほとんど手遅れに近い状態だった。
そうなって初めて、私は自分の愚かさに、そして彼らが人間と同じような複雑な心を持った生き物であることに、気づかされた。
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