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オージン・メトオグという王子

オージン・メトオグという王子23

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 そこから、今の関係に至るまでは、非常に長かった。

 懇願し、謝罪し、拒絶され、罵倒され、衝突し、罵り合い。
 そんなことを繰り返して、そう、それこそ10年ほど何度も何度も繰り返して、ようやく今の関係になれた。

 精霊達を力で捩じ伏せ、従えたことそのものに後悔はない。4体は私にとって、いまや必要不可欠ななくてはならない存在となっているのだから。無理矢理でも主従契約を結んだことは、けして間違いではなかった。

 だけど、その後の精霊に対する向き合い方は、今でも時折、思い出したかのように悔恨に苛まれる。自分がいかに愚かだったかを、何度も反芻せざるえない。

「……マスター、マタ出会ッタ時ノコト、気二シテルノ」

「スンゲェ、不細工ナ顔ナッテンゾ。……笑エ。マスターハ、笑ッテタ方がイイ」

「今デハ、マスター二出会エテ良カッタト、思ッテマスヨ」

「マスタ……マスタ、ガ……マスタ、デ、良カッタ……」

「――お前ら、また命じてもないのに勝手に出てきて」

 いつの間にか勝手に出て来ていた4体の精霊に思わず笑みが漏れた。

 命じてもないのに、勝手に出てきて、慰めてくれる。そのことが、たまらなく嬉しい。
 彼らは彼らの意志で、落ち込む私の気配を察して、自発的に出て来てくれた。
 ただ命令をこなすだけだった当初では、ありえないことだ。

 4体まとめて、そのまま両手で掻き抱く。

「シルフィ。サーラム。ディーネ。ノムル。……大好きだよ」

「私モ、マスター大好キダヨ」

「……仕方ネェカラ、コノ先モ傍にイテヤル」

「マスターハ私タチガ、何ガアッテモ、守リマス」

「マスタ……俺ノマスタハ……ズット、マスタ、ダケ……」

 思わず泣きそうになった。
 心の底から大好きだと言えて、そしてその気持ちを返して貰えることは、こんなにも幸せだ。
 温かいものが胸の奥に広まるのを感じながら、私はデイビッドに視線を戻す。

「ご主人様の隷属魔法を、私は否定はしません。それを否定することは、私とこの子達の絆を、否定することだから」

「……」

「やったことが、そのまま自身に返って来ているだけです。だから、私はこの子たちのように、全力でご主人様に従いましょう。尽くしましょう。……ご主人様が、私の大切なものを汚さない限り、私はあなたの忠実な下僕でいます」

 そう。きっとそれが、世界の摂理に従うことだから。

 デイビッドは私の言葉に、暫く何か考えるように黙り込んでいた。

「……変な女」

 そして、口を開いたかと思えば、悪口を言ってきた。……こいつは、暴言しか言えんのか。ちょっと言葉のマナー講座にでも行って来い。マジで。

「変な女だな、てめぇは。……だけど、嫌いじゃねぇ」

 悪魔様は何かに吹っ切れたかのような、自信に満ちた笑みを浮かべた。そして勢いよく立ち上がる。
 ……どうやら、腰は治ったもよう。
 やばい。結構好き勝手言ったから、今度こそ悪魔様の拳骨に見舞われるかもしれぬ。に、逃げたい……。

 しかし、幸いなことに、悪魔様の機嫌はとっても回復していた。

「――デイビッドだ」

「?」

 言われた言葉の意味が咄嗟に理解できなかった。
 えぇ、悪魔様の本名ですよね。知ってますよ。ちゃんと心の声でも、時々呼んでおりますよ。時々。

「ご主人様とか、気色悪ぃ呼び方、いらねぇ。デイビッドと呼び捨てにしろ。あと、うざってぇ敬語もやめろ」

 ……何ですと!? え、どういう心境の変化!?

「……いいの?」

「とってつけたかのように、へりくだられる方が、気分が悪ぃ」

 そう言うなら、遠慮なくタメ口聞かせて頂きましょう。
 素の状態で、敬語とか結構疲れんだよね。らっき、らっき。

「――ルクレア・ボレア」

 真っ直ぐに向けられた視線に、ぞくりとした。
 佇むデイビッドは、様々な身分が高い人物と接してきた私からしても、畏怖を感じるような威圧感を纏っていた。
 人を支配するものの、王者のオーラだ。

「認めてやるよ。てめぇは使える、優秀な下僕だ」

「……」

「てめぇの大切なもの? とやらを侵さねぇ程度で、今後は心置きなくこき使ってやる。せいぜい、俺の役に立てよ。ルクレア」

 ……あれ、私もしかして選択肢やら何やら間違えた?

 いつか脱出するつもりだったのに、ガチ下僕フラグ立っているやないかーい。おい。
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