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ルカ・ポアネスという不良
ルカ・ポアネスという不良9
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「……なんだ、やっぱり知らんのか」
くああああっ! このマシェルの含み笑い、ムカつくぅううう!
だが、残念ながら、知らんもんは知らん。何も言い返せない。
こういう時は沈黙が金なり。
黙って目を伏せてコーヒーをまた一口飲み込む。
「ポアネス家……否、狼獣人の男には、成人後、最初に三度自らを打ち負かした者に従わなければならぬという掟があるらしい。ルカとて、けして例外ではない」
続けられたマシェルの言葉に、私は目を開いた。
「……打ち負かすとは、具体的にどういう意味ですの?」
「その定義は掟に縛られるものが、自由に定義を定めていいらしく、個人差があるようだ。――だが、ルカの定義ははっきりとしている」
そう言ってマシェルは目を細めた。
「【三度、その肉体を持ってして、自らを地に倒せしめたもの】それが、ルカが自らの主を定める際の条件だ。物理的にただ、力技で三度転ばせればいい。……といってもルカの身体能力を考えると難しいのか、ルカが16で成人を迎えてから一年経った今でも成功をしたものはいないがな。だからこそ、ルカに逃げられることなく、真っ向から対峙する機会を得ることが出来る、武術大会に望みを託す者も多い。銀狼の主の座を求めてな」
マシェルの言葉に、デイビッドがルカに告げた言葉が脳裏に蘇る。
『これで二回目だな。……残り一回か?』
一回目は、初対面の振り向き際に。
二回目は、先刻、ルカに対峙した時に。
そして、三回目が、武術大会。
別に、ルカを攻略しなくても、ルカを三度倒せばルカが下僕になるのなら、わざわざ落とす必要なんかない。
そして既にあと一歩までこじつけた状態で、最後の戦いの機会も得ている状態なら、他者の手助けなんかなくてもいい。
なんだ。
なんだ。なんだ。なんだぁ。
「どうしたんだ。ルクレア、急に……」
マシェルが怪訝そうな視線を向ける。
「急にそんな風に、微笑むなんて」
どうやら、私は無意識に笑みを漏らしていたらしい。
慌てて口元を引き締めようとするも、どうやっても口元が緩む。
「――何でもないですわ、マシェル」
微笑みながら、首を横に振る。
「パフェ、ご馳走様。美味しかったですわ。ありがとう。……そして、有益な情報を下さったことも、併せて感謝しますわ」
先程までは認めたくなかった感謝が、すんなりと口から出てきた。
そして、そのまま立ち上がる。
胸の奥にただ、温かい何かが広がっている。
嬉しかった。
デイビッドに見限られたわけでないことが、ただひたすら嬉しくて仕方なかった。
「――なんだか知らんが、悩み事は解決したようだな」
そんな私に、マシェルもまた、柔らかい笑みを浮かべた。
向けられる瞳に確かに篭った、「慈愛」の感情に、ドキリとする。
「お前が元気になると、私も嬉しい」
告げられる言葉は、どこまでも優しい。
『何故、そこまで私を気に掛けて下さるの?』
思わず出かけた言葉を、咄嗟に口内で飲み込む。
多分、それを口にしたら戻れなくなる気がして。
向き合いたくない物と、対峙しなければならなくなる気がして。
私は、また、湧き上がる「予感」から、目を逸らす。
「――マシェル、貴方、いい人だわ」
代わりに出たのは、そんなその場しのぎの肯定の言葉だった。
「貴方が、私を誤解していたと言ったように、私もきっと、貴方を誤解していたようね。ごめんなさい。貴方は、とてもいい人だわ」
もし予感が正しいのなら、こんなことを言うべきではないのかもしれない。
だけど今、私は、重苦しかった気持ちを楽にしてくれたマシェルに、感謝の気持ちを態度にして返したかった。
その行為に、何らかの形で報いたかった。
「私は貴方と、友人になりたいわ。マシェル。……またこうして、一緒にお茶をしてくれる?」
「――あぁ、勿論だ。……私もお前を、もっと知りたい」
予感を否定するように告げた「友人」という単語に、マシェルの笑みがどこか複雑そうだったことは、気のせいだと思うことにした。
くああああっ! このマシェルの含み笑い、ムカつくぅううう!
だが、残念ながら、知らんもんは知らん。何も言い返せない。
こういう時は沈黙が金なり。
黙って目を伏せてコーヒーをまた一口飲み込む。
「ポアネス家……否、狼獣人の男には、成人後、最初に三度自らを打ち負かした者に従わなければならぬという掟があるらしい。ルカとて、けして例外ではない」
続けられたマシェルの言葉に、私は目を開いた。
「……打ち負かすとは、具体的にどういう意味ですの?」
「その定義は掟に縛られるものが、自由に定義を定めていいらしく、個人差があるようだ。――だが、ルカの定義ははっきりとしている」
そう言ってマシェルは目を細めた。
「【三度、その肉体を持ってして、自らを地に倒せしめたもの】それが、ルカが自らの主を定める際の条件だ。物理的にただ、力技で三度転ばせればいい。……といってもルカの身体能力を考えると難しいのか、ルカが16で成人を迎えてから一年経った今でも成功をしたものはいないがな。だからこそ、ルカに逃げられることなく、真っ向から対峙する機会を得ることが出来る、武術大会に望みを託す者も多い。銀狼の主の座を求めてな」
マシェルの言葉に、デイビッドがルカに告げた言葉が脳裏に蘇る。
『これで二回目だな。……残り一回か?』
一回目は、初対面の振り向き際に。
二回目は、先刻、ルカに対峙した時に。
そして、三回目が、武術大会。
別に、ルカを攻略しなくても、ルカを三度倒せばルカが下僕になるのなら、わざわざ落とす必要なんかない。
そして既にあと一歩までこじつけた状態で、最後の戦いの機会も得ている状態なら、他者の手助けなんかなくてもいい。
なんだ。
なんだ。なんだ。なんだぁ。
「どうしたんだ。ルクレア、急に……」
マシェルが怪訝そうな視線を向ける。
「急にそんな風に、微笑むなんて」
どうやら、私は無意識に笑みを漏らしていたらしい。
慌てて口元を引き締めようとするも、どうやっても口元が緩む。
「――何でもないですわ、マシェル」
微笑みながら、首を横に振る。
「パフェ、ご馳走様。美味しかったですわ。ありがとう。……そして、有益な情報を下さったことも、併せて感謝しますわ」
先程までは認めたくなかった感謝が、すんなりと口から出てきた。
そして、そのまま立ち上がる。
胸の奥にただ、温かい何かが広がっている。
嬉しかった。
デイビッドに見限られたわけでないことが、ただひたすら嬉しくて仕方なかった。
「――なんだか知らんが、悩み事は解決したようだな」
そんな私に、マシェルもまた、柔らかい笑みを浮かべた。
向けられる瞳に確かに篭った、「慈愛」の感情に、ドキリとする。
「お前が元気になると、私も嬉しい」
告げられる言葉は、どこまでも優しい。
『何故、そこまで私を気に掛けて下さるの?』
思わず出かけた言葉を、咄嗟に口内で飲み込む。
多分、それを口にしたら戻れなくなる気がして。
向き合いたくない物と、対峙しなければならなくなる気がして。
私は、また、湧き上がる「予感」から、目を逸らす。
「――マシェル、貴方、いい人だわ」
代わりに出たのは、そんなその場しのぎの肯定の言葉だった。
「貴方が、私を誤解していたと言ったように、私もきっと、貴方を誤解していたようね。ごめんなさい。貴方は、とてもいい人だわ」
もし予感が正しいのなら、こんなことを言うべきではないのかもしれない。
だけど今、私は、重苦しかった気持ちを楽にしてくれたマシェルに、感謝の気持ちを態度にして返したかった。
その行為に、何らかの形で報いたかった。
「私は貴方と、友人になりたいわ。マシェル。……またこうして、一緒にお茶をしてくれる?」
「――あぁ、勿論だ。……私もお前を、もっと知りたい」
予感を否定するように告げた「友人」という単語に、マシェルの笑みがどこか複雑そうだったことは、気のせいだと思うことにした。
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