愛縁奇祈

春血暫

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愛縁奇祈

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「お前を火刑に処す」

 優馬に向けて、男は言う。

「鬼の子と言えど、元は人の子。情けをかけてやったのだ。感謝しろ」

「は?」

 私は、意味がわからず、男に訊く。

「彼女が鬼の子という証拠は?」

「この娘のせいで、町は廃れてきている。この娘が、お前のような鬼を呼んだのだ」

「いや、おかしいって」

 私は、思わず笑う。

「私は彼女の生まれる前にいました。だから、彼女が呼んだというのはおかしいですよ」

「ええい、うるさい、鬼め!」

「うるさいのは、あなたたちだ。もう少し、他人の話を聞くとかしたらどうだ」

 もう、うんざりだ。

「彼女は人の子です。何も罪のない人の子です。それより、お前らの方が鬼だ。文音を殺した罪、償え」

「あの鬼の子は、浄の火で人になれたのだ。我々は、正しいことをしている」

「ふざけるのもいい加減にしろよ、お前ら!!!」

 私が怒鳴ると、背中に乗せた英忠がビクリとする。

「に、兄ちゃん?」

「悪い、英忠」

「ううん、ちょっと吃驚しただけ」

「うん」

 ごめん。

 でもな。

 もう限界なんだよ。

「お前らなんか、助けなければ良かった」

 私が小さく言うと、優馬が私の手を強く引く。

「愁ちゃん、自分に嘘を吐くのは、ダメだよ」

「っ」

「良いの、あたし、いつかこうなるって、わかっていたから」

 ニコッと優馬は笑う。

「あたしね、愁ちゃんとひぃちゃんに出逢えて良かったよ。二人とも、とっても大好きだよ」

「待て、優馬。ダメだって」

「良いの」

 優馬は、目を伏せて呟くと。
 町の人たちを見る。

「もし、情があるならば、一日待ってくれますか?」

「ん?」

 男は優馬を見る。

「なぜだ」

「別れの挨拶を無しに、死に逝くのは嫌だから」

「ふんっ。では、明日だ。明日、処刑する」

 男の声で、町の人たちはどこかへ行く。

 それを見て、優馬はため息を吐き、笑う。

「死ぬかと思った。あ、いや、死ぬのか」

「いや、笑い事じゃねえだろ?」

「うん。でも、仕方がないことだし」

 優馬はニコッと笑う。

「ね、それより、お願いがあるの」

「あ、ああ。なんだ?」

「なあに? 姉ちゃん」

 私と英忠は、優馬を見る。
 優馬は、少し恥ずかしそうに笑って「あのね」と言う。

「一日、あたしと一緒にいてくれる?」

「何を今さら。当たり前だろ?」

 と、私が言うと、英忠も「うん」と頷く。

「当たり前じゃん、姉ちゃん」

「そっか。うん、そうだよね。なんか、ね。改めて、かな」

「別に改まらなくてもさ、私たちはお前のそばにいるよ」

「うん。あとさ、愁ちゃん。あとで、二人っきりでお話がしたいの」

「え? あ、ああ。良いぞ?」

 なんだろう。
 話って。

 私はそう思いながら、二人を連れてここから少し離れた場所に向かった。
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