愛縁奇祈

春血暫

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深雪の空

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 昼過ぎに目を覚ました。
 文人はまだ俺の上で寝ていた。

――寝てるときほど可愛いときってないよなあ。

 と思いながら、しばらく見ていようかと思ったが。
 そろそろ起きないといけないな、と思ったから起こすことにした。

「文人」

 と名前を呼ぼうとしたとき。

おいの紀治をもどしてくれ……」

 と、今にも消えてしまいそうな声で文人は呟いた。

 驚いて、起こそうとした手を止める。

――やっぱり。

 本当は、文人だって会いたいんだ。

 でも、俺とかが傷つかないように、て。
 それで、あんなこと。

「……文人」

 ごめん。
 まだ少しだけ、待っててくれないかな。

 俺はお前とまだ一緒にいたいんだ。

 人格統一だっけ?
 それをやっても、まだ俺がいるとは限らないだろ?

 あと少しだけで良い。
 お前と一緒に暮らさせてくれないか。

――それだけで、俺はもう充分だ。

 と、思っていると文人は、また寝言を言う。

「大好きだよ……。また会いたいよ……。お話をずんばいよ……」

「……っ」

 言いかけた言葉を飲み込んで、俺は優しく文人に声をかける。

「文人。そろそろ起きろ」

「あれ、おはよ……」

「おそよう。文人。もう昼過ぎだわ。おやつ時だわ」

「そんな寝ちゃったっけ……? ごめん」

 文人は眠気まなこをこすりながら、俺を見る。

 この景色を見るのも、もう少ししかない。
 寝ている君を見るのも、起こすのも。
 ずっと俺がしてきたのに。

――寂しいよ。

 本来なら、もっと早く君と別れるべきだったんだ。
 俺が本気で君に恋をする前に。

 まだ一緒に。
 ずっと一緒に。

 この夢が、続いてくれれば――

「紀治?」

「ごめんな、文人。あと少しだけ」

 俺はそう言って文人を抱きしめた。

 あと少しだけ、夢を見させてほしい。
 君といるのが当たり前という夢を。
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