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1984年、中3

慶子の事好きだったでしょ?

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翌日―

僕は公園のベンチに座り、杉下が来るのを待った。

しばらくして、杉下が現れた。

私服姿の杉下を見るのは、初めてかもしれない。

セーラーズのトレーナーにスリムのジーンズを履き、スタイルがかなり良く見えた。

そうだ!杉下はクラスで一番の巨乳だと聞いた事がある。

いや言い出しっぺは確か僕だった…

あれは1学期に身体測定をしていた時だった。

以前にも書いたと思うんだけど、女子は保健室で行って、保健室の窓は曇りガラスで中の様子は見えない。

誰が言ったか忘れたが、セロテープを外から貼ってみると、その部分だけは中の様子が見えたんだ。

「おぉ、スゲー!どんどん貼ってっちゃえよ!」

てな感じで、ベタベタテープを貼って僕たちはガン見した。

中では杉下がちょうど胸囲を計るところで、ブラジャーを外そうとしていた時だった。

「おい、杉下かなりデケーぞ!」

「うっそ、マジで?おぉ、ホントだ!」

窓の外で騒いでいたから結局見つかり、先生から往復ビンタを食らった…

当時は巨乳なんて言葉はなく、単にオッパイが大きいとか、ボインとか呼んでいた。

下半身を強調した、ジーンズに釘付けになった。

「遅くなってゴメンね、待った?」

まるでデートするカップルみたいな言い方だな。

「いや、さっき来たとこ。ボタンでしょ?ほら、これ」

僕はポケットからボタンを出して、杉下に渡した

「第二ボタンじゃなく、全部あげるよ」

どうせもう必要無いと、ボタンを全部外した。

「あの、第二ボタンはどれ?」

戸惑った表情を浮かべながら、杉下は全部外したボタンを手にしている。

(どれも一緒じゃねぇかよ、何で第二ボタンに拘るんだよ、めんどくせー)

そう思いながらも、僕はボタンを一個一個見て、どれが第二ボタンなのか探していた。

どれを見ても、同じ形で学校のマークが入ってるボタンだ。

そこから第二ボタンなんて見分けがつくワケがない。

わざとらしく、一個づつ確認して

「あった!これが第二ボタンだ。よくジャッキー・チェンの真似とかプロレスごっこして、倒れた時に必ず第二ボタンが床に擦れたから、この汚ない色してるのが第二ボタンだ」

半分はテキトーだ。

だけど、杉下のどうしても第二ボタンじゃないとイヤだという雰囲気を察知し、いかにも的な理由をこじつけ、杉下に説明して第二ボタンであろうボタンを渡した。

「小野っちありがとう」

「で、第二ボタンは別のとこに閉まって、残りのボタンも持っててくれないか?」

「流石に全部のボタンはぁ…んー、でもいいよ。アタシが小野っちのボタン、全部の貰えるんだからね」

満足げな表情を浮かべた。

「そうだ!アタシも小野っちにあげなきゃならないのがあったから」

そう言うと、紙袋を僕にくれた。

「これは何?」

「だいぶ遅れたけど、バレンタインデーのチョコ。
ほら、バレンタインの日って必ず持ち物検査してたじゃん?
だから渡しそびれて、結局卒業してから渡すようになったけど、大丈夫かな?」

まさか、この時期にチョコレートを貰えるとは思わなかった。

「へー、でもこのチョコレート賞味期限とか大丈夫なの?」

「うん!どうせバレンタインの日には渡す事は無理だと思ったから、作り直したの」

何だか申し訳ないような気がしてきた。

「それじゃホワイトデーも過ぎたけど、お返ししないと」

何かないかとあちこちを見渡したが、それっぽいような物を売ってる店は無かった。

「いいよ~、第二ボタン貰えただけで十分だからぁ」

「あ…じゃあちょっと、場所変えてどっか店に入ろうよ」

僕たちは近所の喫茶店に入った。

「オレ、アメリカンと…杉下何頼む?」

「小野っち、アタシこういう店に入ったのあまり無くて」

「じゃあ、ロイヤルミルクティにしようか」

「うん、それならいいけど」

「すいませーん!アメリカンとロイヤルミルクティを」

注文した後、僕らは席に座り無言で飲み物が来るのを待った。

(杉下と二人で話すのって初めてじゃないか?何話せばいいんだ?)

そんな事を考えつつタバコを取り出し、マッチで火を点けた。

「小野っち、ここでタバコはダメだよ!バレたら大変、早く消して」

あぁ、そうか!杉下に言われ、慌ててタバコをもみ消した。

僕はコーヒーを、杉下はミルクティを口に運び、時折ポツリポツリと会話をした。

すると杉下が

「小野っち、慶子の事好きだったでしょ?」

唐突に聞いてきた。

動揺した…

悟られないように平静を保っていたが、多分挙動不審になってたのがバレてたのかも知れない。

「そう?そんな風に見えてたのかな」

「うん、小野っちと慶子はアヤシイって感じで見てたよ」

そうなのか…となると、今から告白しても大丈夫かな?

いや、あれは思い出だ。

思い出は閉まっておくべきなんだ、と。

それにしても鋭いな、女の勘は…



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