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05.一日目:竈のご飯とお味噌汁、里芋の煮っ転がしの朝ごはん
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そして最後にお味噌汁がよそわれて、朝食膳のできあがりだ。
「わぁ~……このお味噌汁、煮干しのお出汁だ! 美味しそう……! ね、銀さん!」
「ククッ、そうだなぁ?」
銀さんが笑っていた。よく見れば、台所の鍋たちも食器棚の器たちもカタカタと震え、笑っているかの様。
「あれ?」
「美詞、お前は普段何を食べておる? 白米も味噌汁も普段の食事であろう?」
「え、だって……こんなに丁寧な朝ごはん滅多にないですよ? お釜で炊くなんて今はなかなかできないし、お味噌汁だって粉末や液体出汁で作るのが主流だし、煮っころがしなんて定食の付け合わせ以外じゃ久し振りだし、白菜の漬物も手作りなんていつ振りだか……」
私がそう言うと、銀さんは眉間をキュッと寄せ、まるで不憫な子を見るような目で私を見つめた。
「美詞……俺よりも、まずはお前が美味しい食事を取るが良い」
「いやいやいや、ちゃんと食べてますよ? あのね、銀さん。今は時短とか良い手抜きとか、お惣菜とか便利で美味しい物があるんです。決して貧しい食生活だったわけではなくて……」
と言ったが、ここ半年はひどく適当な食生活だった自覚がある。だから余計に、この台所で作られた昔ながらの食事に感動したのだ。そう、豊かなスローライフっぽいと。
「本当か……?」
銀さんはずいっと私の眼前に迫り目を覗き込む。嘘はないかと探られているのかな? これは。
「半分は本当です! それからお食事は、銀さんが食べたいものを私がちゃんと作ります。それで、良かったら一緒に食べましょう? 子狐ちゃんたちも、お外の井戸神さんも」
「……そうだな。一緒に食そう。美詞、ひと月よろしく頼む」
「はい! 頑張りますね、銀さん」
さあさあ冷める前に! と、お膳に急かされ私たちは、すぐそこの座敷で食事にすることにした。台所にはダイニングテーブルがあるし、居間にもテーブルがある。だけど銀さんたちが慣れていたのは、畳にお膳を並べる食べ方だったのだろう。
今日は初日だし、郷に入っては郷に従え。私は全く慣れないお膳での食事についた。
「……んんん~! お味噌汁……! これお鍋さんが作ってくれたの?」
『カーン』
「煮干しの香りが鼻に抜けて最っ高だし、この合わせ味噌! しょっぱすぎずで油揚げと葱に味が入っていて……美味しいです!」
斜め切りにされた葱がまたイイ。絶対に新鮮。お手軽に散らせる乾燥葱とは全然違う甘みがあって、緑のところからはゼリー状のトロッとしたものも滲みだしている。体に良い成分出てそう……!
『カンカンカン!』
「……鍋の奴、喜んでおるな」
「ふわぁ……ご飯あま~い……! もちもちで……えっ、美味しいぃ……」
『パチパチッ』
『ゴァーン』
「竈とお釜だな」
「これが『粒が立ってる』ってやつですね……竈の炊き立てご飯の美味しさにハマリそう……」
『ゴンゴン!』
「お芋! 待ってて、今いただきます! ……染みてるぅう! はー……ご飯がすすむ……美味しいです、お鍋さん! あとこのお醤油とお砂糖の具合が抜群です。ほのかな優しい甘みが……はぁ。お芋美味しい。ねっとりしててパサついてないしゴリゴリでもない……あっ、白菜も美味しい……丁度良い……」
『ゴーンゴーン!』
『ペチペチ! ペチペチ!』
「あ、そういえばこの食材って、配達されてあったものですよね? 何か手紙とか付いてませんでしたか?」
「ああ、それならば勝手口の方に食材と一緒に置いてある」
良かった。お母さんの言っていた通り、直売所からの配達が来ていたんだ。忘れずにお礼とこれからの配達のこと、おじさんに電話しなきゃ。
「あ、子狐ちゃんたち」
「おう、お前たち。そこへ膳を用意してあるから、皆で食べなさい」
『きゅー!』
『くくくー!』
八匹の子狐たちの「いただきます」が座敷にこだました。
◇
「ごちそうさまでした!」
「御馳走様」
銀さんも私も大満足の朝食だった。それに物凄く久し振りにお代わりまでしてしまった。昨日の夜から食べていなかったのと、本当に美味しかったからだろう。
「美詞は相変わらずだなあ。変わらず元気で明るくて……良い娘になった」
「えっ……そ、そうですか? あの、食事中に騒がしくしてごめんなさい。あまりにも美味しくて……」
「良い、良い。ここは井戸神が住まう屋敷。水も特別であるからな」
「ああ、そうなんですね。そっか……お水かぁ」
井戸神さんか……。井戸神さん用のお膳は、持って行こうとした途端、自らスタコラ走って行ってしまったので、後でちゃんと挨拶とお礼に行かなければ。
「わぁ~……このお味噌汁、煮干しのお出汁だ! 美味しそう……! ね、銀さん!」
「ククッ、そうだなぁ?」
銀さんが笑っていた。よく見れば、台所の鍋たちも食器棚の器たちもカタカタと震え、笑っているかの様。
「あれ?」
「美詞、お前は普段何を食べておる? 白米も味噌汁も普段の食事であろう?」
「え、だって……こんなに丁寧な朝ごはん滅多にないですよ? お釜で炊くなんて今はなかなかできないし、お味噌汁だって粉末や液体出汁で作るのが主流だし、煮っころがしなんて定食の付け合わせ以外じゃ久し振りだし、白菜の漬物も手作りなんていつ振りだか……」
私がそう言うと、銀さんは眉間をキュッと寄せ、まるで不憫な子を見るような目で私を見つめた。
「美詞……俺よりも、まずはお前が美味しい食事を取るが良い」
「いやいやいや、ちゃんと食べてますよ? あのね、銀さん。今は時短とか良い手抜きとか、お惣菜とか便利で美味しい物があるんです。決して貧しい食生活だったわけではなくて……」
と言ったが、ここ半年はひどく適当な食生活だった自覚がある。だから余計に、この台所で作られた昔ながらの食事に感動したのだ。そう、豊かなスローライフっぽいと。
「本当か……?」
銀さんはずいっと私の眼前に迫り目を覗き込む。嘘はないかと探られているのかな? これは。
「半分は本当です! それからお食事は、銀さんが食べたいものを私がちゃんと作ります。それで、良かったら一緒に食べましょう? 子狐ちゃんたちも、お外の井戸神さんも」
「……そうだな。一緒に食そう。美詞、ひと月よろしく頼む」
「はい! 頑張りますね、銀さん」
さあさあ冷める前に! と、お膳に急かされ私たちは、すぐそこの座敷で食事にすることにした。台所にはダイニングテーブルがあるし、居間にもテーブルがある。だけど銀さんたちが慣れていたのは、畳にお膳を並べる食べ方だったのだろう。
今日は初日だし、郷に入っては郷に従え。私は全く慣れないお膳での食事についた。
「……んんん~! お味噌汁……! これお鍋さんが作ってくれたの?」
『カーン』
「煮干しの香りが鼻に抜けて最っ高だし、この合わせ味噌! しょっぱすぎずで油揚げと葱に味が入っていて……美味しいです!」
斜め切りにされた葱がまたイイ。絶対に新鮮。お手軽に散らせる乾燥葱とは全然違う甘みがあって、緑のところからはゼリー状のトロッとしたものも滲みだしている。体に良い成分出てそう……!
『カンカンカン!』
「……鍋の奴、喜んでおるな」
「ふわぁ……ご飯あま~い……! もちもちで……えっ、美味しいぃ……」
『パチパチッ』
『ゴァーン』
「竈とお釜だな」
「これが『粒が立ってる』ってやつですね……竈の炊き立てご飯の美味しさにハマリそう……」
『ゴンゴン!』
「お芋! 待ってて、今いただきます! ……染みてるぅう! はー……ご飯がすすむ……美味しいです、お鍋さん! あとこのお醤油とお砂糖の具合が抜群です。ほのかな優しい甘みが……はぁ。お芋美味しい。ねっとりしててパサついてないしゴリゴリでもない……あっ、白菜も美味しい……丁度良い……」
『ゴーンゴーン!』
『ペチペチ! ペチペチ!』
「あ、そういえばこの食材って、配達されてあったものですよね? 何か手紙とか付いてませんでしたか?」
「ああ、それならば勝手口の方に食材と一緒に置いてある」
良かった。お母さんの言っていた通り、直売所からの配達が来ていたんだ。忘れずにお礼とこれからの配達のこと、おじさんに電話しなきゃ。
「あ、子狐ちゃんたち」
「おう、お前たち。そこへ膳を用意してあるから、皆で食べなさい」
『きゅー!』
『くくくー!』
八匹の子狐たちの「いただきます」が座敷にこだました。
◇
「ごちそうさまでした!」
「御馳走様」
銀さんも私も大満足の朝食だった。それに物凄く久し振りにお代わりまでしてしまった。昨日の夜から食べていなかったのと、本当に美味しかったからだろう。
「美詞は相変わらずだなあ。変わらず元気で明るくて……良い娘になった」
「えっ……そ、そうですか? あの、食事中に騒がしくしてごめんなさい。あまりにも美味しくて……」
「良い、良い。ここは井戸神が住まう屋敷。水も特別であるからな」
「ああ、そうなんですね。そっか……お水かぁ」
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