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08.二日目:朝ごはんの甘い玉子焼き
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二日目
「う~……寒い!」
私がそう呟くと、火に掛けていた鍋がボコボコと大きく湯気を噴いた。
「あ、竈神さんごめん、ありがとうございます」
するとまた、返事をするかの様にやかんが鳴く。
湯気で台所を暖めようとしてくれているのだろう。確かにご飯が炊ける匂いが増すごとに、冷え切っていたここも徐々に暖まっている。
「美詞、今日は何だ?」
「あ、銀。今日はですね……ごはんとお味噌汁、あと卵焼きと金目鯛の干物です」
「そうか」
お耳をピーンと立てて、ぱぁあ! という効果音が聞こえてきそうな笑顔。
シンプル過ぎる朝食だし、私が作るのは玉子焼きとお味噌汁の手伝い程度で、申し訳ないけど仕方がない。だって、届けられていた食材がなかなかに偏っていたのだから!
昨日、ダンボール箱で届いていた食材を確認してみたが、入っていたのは野菜が主で、あとは冷蔵庫に常備しておきたい卵や乳製品、それからお歳暮なんかで見たことのあるハムや冷凍の魚だった。調味料は大体一式揃っていたので良かったけど、もうちょっと肉類が欲しい。
意外だったのは魚だ! 道の駅の直売所に頼んでいたはずだから、肉はあっても魚はないだろうと思っていたんだけど、冷凍のパッケージに『姉妹都市』のシールが貼ってあったので、なるほどと頷いた。
「明日にはお肉を届けてもらうし、通販で頼んだ物もお昼には届くはずだから、銀が食べたいものどんどん作るからね! あ、お料理本はあっちに――ああ、子狐ちゃんたちが見てるみたい」
「む! それは危険だ。あ奴らはすぐ悪戯をする……ああ! やはり!」
ビリリ……と紙が破られる音がして、銀がすっ飛んで行った。
「……本じゃなくてタブレットで見せた方が良いかな」
いやでも、タブレットだと子狐ちゃんたちの悪戯の予想が付かない。やっぱり本にしよう。びりびりにされても可愛いから別に良い!
「あ、竈神さん、そろそろご飯が炊けそう? じゃあ私は玉子焼きを作ろうかな」
割った卵は五つ。子狐ちゃんたちが意外と食べるのだ。そこへ砂糖とみりんを大さじで二杯、塩と出汁(今日はかつお節でとった)小さじで少々入れかき混ぜる。私の作る玉子焼きは甘い玉子焼きだ。
いつもは出汁なんて入れないのだけど、せっかくお味噌汁用にとった出汁があったので、お寿司屋さんの玉子焼きを目指して入れてみた。多分美味しくなるはず! 多分。
まだ動かない四角い卵焼き用フライパンに油を引いて、さっとキッチンペーパーで伸ばして余分を吸い取る。火は弱火だ。そしてそこへ卵液を入れ、菜箸でかき混ぜる。固まりつつある間も、菜箸でちょこっと突いて具合を確かめる。固すぎではなくトロトロすぎない、その辺が良い。
「いいかな~……」
手前からくるくると巻いてまずは一回目が完了。さっき油をふき取ったキッチンペーパーを箸で摘まみ、フライパンに再度薄く油をひいてやる。これを三度繰り返して、ほんのり焼き目が付いた玉子焼きの完成だ!
「うん、綺麗!」
待っていた赤い模様のお皿に焼き立てを移すと、包丁がサッサッと切り分けてくれる。すると切れ目から湯気が立ち上り、それと共にほのかな甘みと出汁の香りがふわぁっと広がった。
「……ひとつ味見しちゃおうかな?」
チラッと辺りを見回すと、お玉や食器たちが頷いていたので、私は端っこの一切れをパクリ。
「あっチ!」
ハフハフとくちを動かして熱を逃がすと、じんわり甘さが舌に蕩けだした。そして鼻に抜けるお出汁の香り……! 砂糖とみりんの甘さに旨味が重なって、巻いた分だけ卵が美味しくなっているかの様!
「美味しい~! お出汁いいね! 今度からちょっと入れてみよう……」
私は特に料理にこだわりはないけど、お弁当に美味しい玉子焼きが入っていると何だか嬉しくなるのだ。だから玉子焼きだけはちょっと練習した。
さて。摘まみ食いはこのくらいにして、二つ目の玉子焼きも作ってしまおう。
魚焼きグリルからは金目鯛の芳醇な香りが漂っている。あちらも、もうすぐ焼き上がるだろうと、長方形のお皿たちが傍で待機をしている。
昨日の朝は台所の付喪神作の純和食。お昼はおにぎりと朝の残り物、夕食は卵が大量にあったので私がオムライスを作ってみた。そして今日の朝食は、私と台所の合作和食。
「お昼は何にしようかな~……」
パスタとかでも良いかもしれない。ジャコと紫蘇の和風パスタ……あ、柚子も入ってたっけ。油揚げもなんでか沢山あったし……。
「やっぱりお狐様のこと知ってるのかな……?」
「う~……寒い!」
私がそう呟くと、火に掛けていた鍋がボコボコと大きく湯気を噴いた。
「あ、竈神さんごめん、ありがとうございます」
するとまた、返事をするかの様にやかんが鳴く。
湯気で台所を暖めようとしてくれているのだろう。確かにご飯が炊ける匂いが増すごとに、冷え切っていたここも徐々に暖まっている。
「美詞、今日は何だ?」
「あ、銀。今日はですね……ごはんとお味噌汁、あと卵焼きと金目鯛の干物です」
「そうか」
お耳をピーンと立てて、ぱぁあ! という効果音が聞こえてきそうな笑顔。
シンプル過ぎる朝食だし、私が作るのは玉子焼きとお味噌汁の手伝い程度で、申し訳ないけど仕方がない。だって、届けられていた食材がなかなかに偏っていたのだから!
昨日、ダンボール箱で届いていた食材を確認してみたが、入っていたのは野菜が主で、あとは冷蔵庫に常備しておきたい卵や乳製品、それからお歳暮なんかで見たことのあるハムや冷凍の魚だった。調味料は大体一式揃っていたので良かったけど、もうちょっと肉類が欲しい。
意外だったのは魚だ! 道の駅の直売所に頼んでいたはずだから、肉はあっても魚はないだろうと思っていたんだけど、冷凍のパッケージに『姉妹都市』のシールが貼ってあったので、なるほどと頷いた。
「明日にはお肉を届けてもらうし、通販で頼んだ物もお昼には届くはずだから、銀が食べたいものどんどん作るからね! あ、お料理本はあっちに――ああ、子狐ちゃんたちが見てるみたい」
「む! それは危険だ。あ奴らはすぐ悪戯をする……ああ! やはり!」
ビリリ……と紙が破られる音がして、銀がすっ飛んで行った。
「……本じゃなくてタブレットで見せた方が良いかな」
いやでも、タブレットだと子狐ちゃんたちの悪戯の予想が付かない。やっぱり本にしよう。びりびりにされても可愛いから別に良い!
「あ、竈神さん、そろそろご飯が炊けそう? じゃあ私は玉子焼きを作ろうかな」
割った卵は五つ。子狐ちゃんたちが意外と食べるのだ。そこへ砂糖とみりんを大さじで二杯、塩と出汁(今日はかつお節でとった)小さじで少々入れかき混ぜる。私の作る玉子焼きは甘い玉子焼きだ。
いつもは出汁なんて入れないのだけど、せっかくお味噌汁用にとった出汁があったので、お寿司屋さんの玉子焼きを目指して入れてみた。多分美味しくなるはず! 多分。
まだ動かない四角い卵焼き用フライパンに油を引いて、さっとキッチンペーパーで伸ばして余分を吸い取る。火は弱火だ。そしてそこへ卵液を入れ、菜箸でかき混ぜる。固まりつつある間も、菜箸でちょこっと突いて具合を確かめる。固すぎではなくトロトロすぎない、その辺が良い。
「いいかな~……」
手前からくるくると巻いてまずは一回目が完了。さっき油をふき取ったキッチンペーパーを箸で摘まみ、フライパンに再度薄く油をひいてやる。これを三度繰り返して、ほんのり焼き目が付いた玉子焼きの完成だ!
「うん、綺麗!」
待っていた赤い模様のお皿に焼き立てを移すと、包丁がサッサッと切り分けてくれる。すると切れ目から湯気が立ち上り、それと共にほのかな甘みと出汁の香りがふわぁっと広がった。
「……ひとつ味見しちゃおうかな?」
チラッと辺りを見回すと、お玉や食器たちが頷いていたので、私は端っこの一切れをパクリ。
「あっチ!」
ハフハフとくちを動かして熱を逃がすと、じんわり甘さが舌に蕩けだした。そして鼻に抜けるお出汁の香り……! 砂糖とみりんの甘さに旨味が重なって、巻いた分だけ卵が美味しくなっているかの様!
「美味しい~! お出汁いいね! 今度からちょっと入れてみよう……」
私は特に料理にこだわりはないけど、お弁当に美味しい玉子焼きが入っていると何だか嬉しくなるのだ。だから玉子焼きだけはちょっと練習した。
さて。摘まみ食いはこのくらいにして、二つ目の玉子焼きも作ってしまおう。
魚焼きグリルからは金目鯛の芳醇な香りが漂っている。あちらも、もうすぐ焼き上がるだろうと、長方形のお皿たちが傍で待機をしている。
昨日の朝は台所の付喪神作の純和食。お昼はおにぎりと朝の残り物、夕食は卵が大量にあったので私がオムライスを作ってみた。そして今日の朝食は、私と台所の合作和食。
「お昼は何にしようかな~……」
パスタとかでも良いかもしれない。ジャコと紫蘇の和風パスタ……あ、柚子も入ってたっけ。油揚げもなんでか沢山あったし……。
「やっぱりお狐様のこと知ってるのかな……?」
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